fc2ブログ

艸句会報:かつしか(令和5年5月28日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「葉」

印象句
絵葉書に添へる一句や夏来る     片岡このみ
干涸びて路地にS字の蚯蚓かな     西川 芳子

【一口鑑賞】このみさんの句。普段から友達との手紙のやりとりを大事にしているのだろう。スマートフォンのメールやLINEの便利さにはかなわないが、手紙には手紙の良さがある。春から夏への季節の変わり目に添えたのはどんな一句だったのか。受け取った人は夏の到来を実感したに違いない。芳子さんの句は「蚯蚓」が夏の季語。しかも干涸びてS字形になって死んでしまった姿を直視している。生きとし生ける物への慈愛に満ちた一句。(潔)

若葉喰み空に近づく麒麟かな     新井 洋子
協議の輪解けて夏場所取り直し    小野寺 翠
若葉風爪立ちて見る大道芸      新井 紀夫
万巻の書に撓る床夏に入る      佐治 彰子
湧水の音高々と夏はじめ       伊藤 けい
句を添へて庵主の板書風薫る     笛木千恵子
バリバリと開く唐傘梅雨に入る    片岡このみ
倒木よ命宿すか梅雨茸        近藤 文子
夏に入る太極拳の青畳        西村 文華
葉陰より夏蝶出づるかくれんぼ    髙橋美智子
百年の神宮の森青葉木菟       霜田美智子
少子化に希望の風や五月鯉      平川 武子
木漏れ日や姿見えねど滝の音     五十嵐愛子
青時雨旅の葉書を濡らしけり     山本  潔
ひとり居の窓辺に揺るゝ青葉かな   西川 芳子
初夏の甘納豆へ爪楊枝        千葉 静江

(清記順)
※次回(6月25日)の兼題は折句「ひたな」
 例句 引越しのたびに大きくなる金魚 星野恒彦

艸句会報:東陽(令和5年5月27日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句「あしな」例句 頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋

印象句
走り梅雨養生中といふ芝生      向田 紀子
青林檎芯の味まで懐かしき      新井 紀夫

【一口鑑賞】紀子さんの句。春に芽吹いた若芝が成長し、夏になり青々としてくると実に清々しい。人々にとっては憩いの場である。ただし、美しさを保つには手入れも肝心。「養生中」の一言によって、その場の様子や最近までそこに遊んでいた人たちの残像が浮かんでくる。「走り梅雨」が効果的。紀夫さんの句は、折句とは気付かせないような自然な詠みぶり。こどもの頃に齧った信州の青林檎の味が忘れられないのだろう。「芯の味まで」に説得力がある。(潔)

星七つ重しと飛ぶや天道虫      向田 紀子
河骨の花咲く沼のよどみ濃し     飯田 誠子

 照子さんの「蜃気楼」完成を祝し
麦秋の旅へいざなふ俳画集      山本  潔
指輪もう似合はぬ指や胡瓜揉む    岡崎由美子
代り映えなき身にうれし更衣     堤 やすこ
油虫しやかりきなりし流し台     松本ゆうき
雨蛙子規の庵に何さがす       中川 照子
青柚子や師の句碑の文字なめらかに  安住 正子
明日葉や島をふちどる波頭      新井 洋子
青空を白き雲ゆく夏はじめ      斎田 文子
明日を待つ静かな心茄子の花     岡戸 林風
黄砂降る新駅囲むクレーン群     新井 紀夫
アイスティー幸せさうに馴初めを   中島 節子

(清記順)
※次回(6月24日)の兼題は折句「なわと」
例句 夏羽織われをはなれて飛ばんとす 正岡子規

艸句会報:すみだ(令和5年5月24日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題:テーマ「下町の川」

印象句
祭来る美倉・万世・聖橋       髙橋 郁子
何事も話せる主治医窓若葉      福岡 弘子

【一口鑑賞】今月から新型コロナウィルスの感染症法上の分類が引き下げられたことに伴い、各地で祭が復活している。東京ではその先陣を切る形で神田祭が4年ぶりに開催された。郁子さんの句は、神田川に掛かる橋のなかから三つの名前を詠み込んだだけだが、「美倉・万世・聖橋」というフレーズのなかの六つのイ音が心地良いリズムを生んでいる。福岡弘子さんの句。信頼する主治医との会話は楽しいひとときでもあるのだろう。「窓若葉」が実に清々しい。(潔)

船乗りの斜めに傾ぐ夏帽子      松本ゆうき
在りし日の母に一句や月見草     大浦 弘子
川隔て向き合ふベンチ南風吹く    岡崎由美子
側溝に歩道に積もる夏落葉      髙橋 郁子
五月雨の夜の大川水あかり      長澤 充子
一之橋から二之橋へ街薄暑      山本  潔
小満や下町運河に潮満ちて      岡戸 林風
神殿へ婚礼の列若葉風        福岡 弘子
猫の子の重なり眠る古帽子      江澤 晶子
木洩れ日の影となりたる夏の蝶    内藤和香子

(清記順)
※次回(6月28日)の兼題は「傘・笠」

艸句会報:若草(令和5年5月13日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「正」 席題「雨」

印象句
新茶汲む大福餅の粉はたき      安住 正子
老木の若木に負けぬ茂りかな     市原 久義

【一口鑑賞】正子さんの句。大福には餅が手にくっつかないようにするため、取り粉がまぶしてある。片手で持ち上げた作者。粉が吹き飛ばないようにもう片方の手で軽く叩いて落としたのだ。それだけのことなのだが、「新茶」を味わうときの儀式のように思えてくるから面白い。久義さんの句は「茂り」が夏の季語。木々の枝葉が鬱蒼と茂っているさまを言う。山全体や草むらにも用いる。句会では老木を自分自身に重ね合わせて共感する声も上がった。(潔)

子規庵の厠板張り走り梅雨      安住 正子
缶蹴りの缶蹴り上げて夏に入る    沢渡  梢
ねんごろに気付きをメモる新社員   市原 久義
大正琴流るゝ路地の吊荵       霜田美智子
校庭のピンクの薔薇や「ノックアウト」松本ゆうき
玄関の正面に座す胡蝶蘭       吉﨑 陽子
煮て炊いて筍づくしの夕餉かな    石田 政江
新樹光生まれくる娘の名をすでに   新井 洋子
耳元をくすぐる初夏の風ふふふ    片岡このみ
そぼ降れるケバブの街や濃紫陽花   新井 紀夫
雨音に上目遣いの金魚かな      飯田 誠子
薫風や襟を正して行く径       岡戸 林風

 根本莫生さんを悼み
呑みませう蕎麦焼酎の蕎麦湯割り   山本  潔
(清記順)
※次回(6月10日)の兼題は「青田」

艸句会報:連雀(令和5年5月10日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「壺、坪」

印象句
蛸壺のごとき闇より昼寝覚      松本ゆうき
細々と一級河川蘆茂る        束田 央枝

【一口鑑賞】兼題「壺」を詠み込んだゆうきさんの句は「昼寝覚」が夏の季語。真夜中に熟睡していたつもりが、目覚めたら意外にも昼間だったのだ。「蛸壺のごとき闇」が言い得て妙。〈蛸壺やはかなき夢を夏の月 芭蕉〉の蛸になった気分だったのかもしれない。央枝さんの句。一級河川は重要な水系を、支流も含めて国が指定している。散歩コースの小さな川が「一級」であることに気付いた作者。ちょっとした驚きを巧みに書きとめた。「蘆茂る」の斡旋もお見事。(潔)

莫生さんのまさかの訃報若葉雨    春川 園子
夢はらむ天の深さや鯉のぼり     矢野くにこ
和菓子舗のガラスのケース緑さす   向田 紀子
日の本の壺ぞ憲法記念の日      松本ゆうき
師の忌来て師の誕生日来て卯月    山本  潔
あめんぼう雲から雲へ跳びにけり   飯田 誠子
古代よりの欅の勢ひ風は首夏     束田 央枝
春の香を壺に籠めたること秘密    坪井 信子
大壺の今や傘立夏に入る       中島 節子
小満や壺にさしたる野の草木     松成 英子
げんげ田や牛も寛ぐ富士裾野     横山 靖子

(清記順)
※次回(6月7日)の兼題は「七」の詠み込み

艸句会報:船橋(令和5年5月6日)

船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題 折句「はいこ」例句 白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
ミニ吟行:亀戸天神、香取神社、普門院

印象句
筆塚やわが字正さむ櫂若葉      岡戸 林風
葉桜や今憲法が声を出す       飯塚 とよ

【一口鑑賞】林風さんの句は亀戸天神での作。書家が筆に感謝するとともに、更なる上達を願って使い終えた筆を納めたのが筆塚。俳句では自分の句はもちろんのこと、人の句を清記用紙に丁寧に書くことが大事だ。櫂の木は楷書の「楷」に通じる。とよさんの句。世論調査でも改憲の賛否が拮抗するなか、平和を願う作者の気持ちが伝わってくる。「今憲法が声を出す」という措辞にハッとさせられる折句。上五の「葉桜」も効いている。(潔)

若葉風大根風や大根碑        新井 紀夫
天神の池の緑や五月晴        小杉 邦男
風そよぐ立夏の天神詣かな      平野 廸彦
廃寺に祈る影あり棕櫚の花      隣   安
灰色のイコンのイエス苔の花     沢渡  梢
亀戸に仰ぐ夏雲師の忌過ぎ      山本  潔
ガチャガチャに夢のころがる子供の日 並木 幸子
晴れ女と云はるゝ君の更衣      岡戸 林風
はればれと生きる力や今年竹     岡崎由美子
コットンのシャツの手触り今朝の夏  三宅のり子
ロボットの運ぶランチや夏に入る   川原 美春

(清記順)
※次回(6月3日)の兼題は「六」の詠み込み(「六月」を除く)

艸句会報:すみだ(令和5年4月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題:「今・日・和」(任意に詠み込み)

印象句
カヤック漕ぐ掛け声高く夏に入る   長澤 充子
【一口鑑賞】カヤックは水上のスポーツやレジャー用の一人乗りの小舟。もともと北極圏の先住民族が海で猟をするために使われていた。クローズドデッキのなかに足を前方に伸ばして坐り、両端に水かきのついたパドルと呼ばれる櫂で漕ぎながら進む。カヌーの一種と捉えれば夏の季語ともなり得るが、この句はあくまで「夏に入る」が主題。川で高校生たちがカヤックの練習をする様子を見かけた作者。掛け声の高さに夏の到来を感じて素直に書きとめた一句。(潔)

今を詠む句帳片手に目借時      岡戸 林風
囀や古刹に古き投句箱        福岡 弘子
啄木忌菊坂下のいり豆屋       髙橋 郁子
足場組む鳶の若さや風光る      内藤和香子
木の芽和頷くだけの味見役      岡崎由美子
庭荒れて生り放題の夏蜜柑      長澤 充子
夏はじめ駅のピアノの三和音     江澤 晶子
光から光へ鳥や潮干潟        山本  潔
病室の夫励まさん若葉道       貝塚 光子
山吹や雨に和らぐカフェテラス    大浦 弘子
蚕豆や今日一日の夢のあと      松本ゆうき

(清記順)
※次回(5月24日)の兼題はテーマ「下町の川」

艸句会報:かつしか(令和5年4月23日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「蜃気楼」

印象句
漁船いま蜃気楼へと呑まれゆく    新井 洋子
【一口鑑賞】「蜃気楼」は晩春の季語。空気の温度変化による光の異常な屈折により、見えるはずのないものが海や砂漠などに浮かび上がる現象。「蜃」という水中の大蛤が吐き出す気によってつくられる幻影と考えられたことが語源のようだ。掲句は、この日の最高点を獲得した。実際に見たことがない人にもそれらしい映像が頭に浮かんだからだろう。「漁船いま」の措辞に臨場感がある。国内では魚津市の蜃気楼が有名。同じものは二度と見られないという。(潔)

蜃気楼空けてしまつた玉手箱     高橋美智子
遠のける街の喧騒飛花落花      平川 武子
萬愚節炙り出しの絵燃えにけり    霜田美智子
青い鳥探す途中や蜃気楼       小野寺 翠
蜃気楼AIに問ふ詩の未来       山本  潔
しばらくは留守といふ家たんぽぽ黄  笛木千恵子
寄り道の一つ増えたる日永かな    西川 芳子
初夏だより令和と書くも常となり   近藤 文子
ランチ皿運ぶロボット昭和の日    片岡このみ
伸び伸びと自由自在に花薺      西村 文華
遠隔の恋の話や蜃気楼        伊藤 けい
端座して法話を聴くや弥生尽     新井 紀夫
そよ風や代官山の花楓        五十嵐愛子
能登瓦光る町家や燕来る       佐治 彰子
天と地の間に人の世目刺焼く     新井 洋子
ファミレスの給仕ロボット夏隣    千葉 静江

(清記順)
※次回(5月28日)の兼題は「葉」の詠み込み

艸句会報:東陽(令和5年4月22日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題 テーマ「折句たおく」例句 旅せんと思ひし春も暮れにけり 虚子

印象句
田螺鳴く幼なじみと酌む一夜     岡崎由美子
【一口鑑賞】「田螺鳴く」は「亀鳴く」と同じ春の季語。秋の「蚯蚓鳴く」「蓑虫鳴く」と同様で、実際には鳴かないものを鳴かしてしまうところが俳句の面白いところ。和歌や古い文献に基づいているようだが、空想の季語として定着している。久しぶりに小学校の同級会に出た作者。コロナ禍で会えなかった幼なじみとも再会して昔話に花が咲いたのだろう。この句は、季語がほどよく効いている。折句とは思えない、全く不自然さのない作品に仕上がった。(潔)

まくなぎと客引きからは逃げるのみ  松本ゆうき
春の夢はるかに響く打球音      飯田 誠子
ひんやりと谷戸の夕ぐれ残る花    岡崎由美子
春筍の土もち上げてゐる時間     安住 正子
たんぽぽや親に似てくる暮らしぶり  堤 やすこ
株分けを育て幾年君子蘭       中島 節子
青きもの青く茹で上げ春惜しむ    新井 洋子
泰山木咲く大きな家の句会かな    斎田 文子
少年のこころ抱きて茅花引く     岡戸 林風
山ざくら峠をひとつ越えてより    山本  潔
雪解道短歌へのみち家持像      中川 照子
聞き逃すことの増えたり草の餅    向田 紀子
桜蘂降る流鏑馬の女騎手       新井 紀夫

(清記順)
※次回(5月27日)の兼題は「折句あしな」<例句>頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋

艸句会報:若草(令和5年4月8日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「通」 席題「竹の秋」

印象句
警策や春睡に陥いらん時       新井 紀夫
【一口鑑賞】「警策」は「きょうさく」または「けいさく」と呼ばれる。禅宗において、座禅のときに用いられる扁平な棒状の道具のこと。座禅中に駄気や眠気から覚まさせるために、僧がこれで肩のあたりを打つ。馴染みの寺で月に一度、座禅に励む作者。睡魔に襲われ、今まさに眠りに落ちようとした時に警策に叩かれたのである。「春睡」は「春眠」の傍題。春はどの時間帯でも眠くなるが、この句はその瞬間を詠んだ。中七以降の句またがりも上手くいった。(潔)

心づくしの手話の通訳花だより    吉﨑 陽子
山吹の咲きて塞がる獣道       飯田 誠子
参道に寅さんのこゑ草団子      石田 政江
花疲れほのと明るき小料理屋     霜田美智子
花好きの母の忌日よ花祭       新井 洋子
花冷えの施設訪ふ人も無く      市原 久義
裏通り表通りの花水木        山本  潔
幾度も「彼我」通読や春の宵     安住 正子
木通咲き海の風くる切通し      岡戸 林風
天上の供花と思ほゆ桜かな      沢渡  梢
鉄砲隊ありし辺りや竹の秋      新井 紀夫
たんぽぽの絮のごとくに生きたしや  松本ゆうき
生け垣に見慣れぬ鳥や竹の秋     片岡このみ

(清記順)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
艸俳句会カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
81位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
小説・詩
3位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR