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艸句会報:船橋(令和5年12月2日)

船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題「歌」

印象句
薄紅のリップクリーム霜の朝      岡崎由美子
あかときの素振り百回息白し      三宅のり子

【一口鑑賞】12月に入り、朝晩の冷え込みが厳しくなってきた。由美子さんの句は、霜が降りた朝の寒さが体感的に伝わってくる上、冬晴れの青い空が目に浮かぶ。そんな情景のなかに作者が提示した物は「薄紅のリップクリーム」。ほんのりとしたピンク色の清潔感が「霜の朝」の身の引き締まる感じとイメージ的に響き合い、詩情を生んでいる。のり子さんの句。夜明け前に「素振り」をしているのは誰だろう。顔見知りの野球少年か、あるいは若き日にテニスか何かをしていた作者自身か…。季語「息白し」が寒さのなかで躍動している人の姿を浮かび上がらせる。(潔)

シャンソンを歌ふマダムの革ジャンパー 並木 幸子
冬すみれ少女小さく歌ひ過ぐ      岡崎由美子
病院はどこも盛況十二月        川原 美春
取り寄せのおせちに迷ふ十二月     新井 洋子
三味線の撥に力や石蕗の花       小杉 邦男
我が部屋に世界のリゾート新暦     平野 廸彦
母の忌の近き出窓の室の花       山本  潔
コーラスの洩れくる寺院銀杏散る    新井 紀夫
やすかれといわさきちひろの初暦    飯塚 とよ
百年の漆喰師走の長屋門        三宅のり子
かな文字の連綿体や初しぐれ      岡戸 林風
丁度いい寂しさ丁度いい時雨      沢渡  梢

(清記順)
※次回(2024年1月6日)の兼題「開」

艸句会報:かつしか(令和5年11月26日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「小春」

印象句
恙なく暮らす独りの冬支度      千葉 静江
スニーカー履いて小春の散歩かな   西川 芳子

【一口鑑賞】静江さんの句。昨年来、ご主人を亡くされたり、ご自身の病気で入院したりと、平静ではいられない日々が続いた作者。徐々に独り暮らしにも慣れてきたのだろう。少しずつ日常生活を取り戻したことへの安堵感が表れている。「冬支度」は晩秋の季語。「独りの」の一言にそこはかとない寂しさも漂う。芳子さんは腰椎骨折などによる入院生活からようやく復帰した。スニーカーを履いて歩けるようになった喜びを噛み締めているのだろう。小春日和の散歩を楽しむ心持ちがうかがえる。(潔)

山茶花や隠れん坊の影走る      近藤 文子
ジオラマに見惚れる親子小六月    西村 文華
筑波嶺の双耳朗らに小六月      佐治 彰子
小春日の小籠包と紹興酒       山本  潔
ヘルパーへ感謝の声や菊祭      笛木千恵子
ドロップ缶ふればカラカラ冬に入る  新井 洋子
友送る友と見上ぐる冬銀河      高橋美智子
初しぐれ旅の余韻の荷をおろす    千葉 静江
齢かさね倖せかさね秋たくる     三尾 宣子
再読のデュマの長編夜長かな     新井 紀夫
仄暗き道の華やぐ菊花展       五十嵐愛子
ファックスのインク薄れて冬に入る  西川 芳子
晩節の句作牛歩や冬桜        伊藤 けい
手作りの句集の届く小春かな     片岡このみ
タクシーの床にはり付く落葉かな   霜田美智子

(清記順)
※次回(12月17日)の兼題「日記買ふ」

艸句会報:東陽(令和5年11月25日)

東陽句会(ギャラリー バルコ)
兼題 折句「ささち」 例句 山茶花は咲く花よりも散つてゐる 細見綾子

印象句
煮凝りや老いても知らぬこと多く    堤 やすこ
冴ゆる月冴えぬ世相の地を照らし    関山 雄一

【一口鑑賞】やすこさんの句。インターネットが商業化された1990年代後半以降、IT(情報技術)革命によって経済・社会の環境が劇的に変化した。現代人は情報洪水のなかにいる。「老いても知らぬこと」は日々増大する一方だ。AI(人工知能)も身近になりつつある。そんな社会を客観的に見ている作者。「煮凝り」の透けた感じが句の内容に程よくマッチしている。雄一さんの句。「冴える月」「冴えぬ世相」の言葉の対比が面白い。凶悪犯罪の増加や内閣支持率低下など、目を覆いたくなる社会の現状に警鐘を鳴らす折句に仕上がった。(潔)

夕映への濠の静けさ浮寝鳥       飯田 誠子
ぬくもりや時計止めたき冬の朝     斎田 文子
齢得てよりの哀感冬すみれ       岡戸 林風
冴ゆる夜や差し出がましき知恵絞る   新井 紀夫
鉛筆の尖れば光る憂国忌        山本  潔
さめざめと三文役者近松忌       岡崎由美子
さつま汁ささつと煮込む乳やる娘    松本ゆうき
山茶花や坂の途中の駐在所       沢渡  梢
ちやんちやんこ着ればふるさと言葉かな 安住 正子
ハンサムなこゑのをんどり草の花    新井 洋子
傘寿より先は金色ちやんちやんこ    堤 やすこ
里山に百舌のまね鳴き谷渡り      関山 雄一

(清記順)
※次回(12月23日)は折句「かてか」
 例句 寒昴天のいちばん上の座に 山口誓子

艸句会報:すみだ(令和5年11月22日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「体」

印象句
冬ざれや菌体の棲む醤油蔵      岡戸 林風
文語体いまだに慣れず一葉忌     松本ゆうき

【一口鑑賞】林風さんの句。兼題から発想した「菌体」に妙な説得力がある。醤油造りには麹菌や乳酸菌、酵母菌といった微生物の存在が欠かせない。そんな菌体が棲んでいるのは伝統的な製法を守っている蔵元だろう。冬の寒い時期に仕込みが行われ、夏の暑さで発酵が進む。菌体たちの呟きが聞こえてきそうな一句。ゆうきさんの句も題詠で、この日の最高点を獲得した。「文語体」に苦労している気持ちを素直に言ったところが共感を呼んだ。一葉忌(11月23日)との取り合わせも時宜にかなっている。(潔)

ガードレールに大根を干す八百屋かな 福岡 弘子
着ぶくれて一人に狭き改札機     内藤和香子
古都の秋和服着こなす異邦人     根本恵美子
着ぶくれて八十路の五体甘やかす   岡崎由美子
木枯に行く手阻まれ踏ん張る子    長澤 充子
九体寺の浄土の庭や散紅葉      髙橋 郁子
遠くより風の口笛野路の秋      大浦 弘子
昆布締めの魚の香りや温め酒     貝塚 光子
折れさうで折れないこころ一茶の忌  山本  潔
枯野ゆく男体山を仰ぎつつ      岡戸 林風
身ひとつで生きて勤労感謝の日    松本ゆうき

(清記順)
※次回(12月20日)の兼題は「風」

艸句会報:若草(令和5年11月11日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「手」 席題「巣」

印象句
起き抜けの身ぶるひ一つ冬来る    片岡このみ
女手の打つ釘曲る暮の秋       安住 正子

【一口鑑賞】東京では今月7日に気温が27.5度に達し、11月としての最高気温の記録を100年ぶりに更新した。翌8日の立冬を過ぎると、さすがに季節が進み始めた。このみさんの句は、冬の到来をいち早く「身ぶるい一つ」で感じ取った。措辞に無駄がなく、季語が自然に読み手のなかにも入ってくる。正子さんの句。家事をこまめにこなしている作者だが、難しい場所に打った釘が曲がってしまったのだろうか。日常のなかの些細な出来事を、兼題「手」で巧みに詠み込んだ。「暮の秋」にそこはかとない寂しさが漂う。(潔)

いつしかに手櫛がくせに冬に入る   岡戸 林風
亥の子突く村の子どもに古巣あり   松本ゆうき
渋柿の干さるる軒の夕日影      石田 政江
手のとどく程の幸せ冬菫       沢渡  梢
年の瀬の巣鴨とげぬき地蔵かな    片岡このみ
魂眠る遥か御巣鷹山眠る       霜田美智子
晩鐘の余韻の届く仏手柑       新井 洋子
さはやかや齢はげます薩摩琵琶    吉﨑 陽子
小春日や手遊びの子の手と手と手   新井 紀夫
花八ツ手見栄も気負ひもなく生きて  安住 正子
山の色薄れ越後の冬支度       飯田 誠子
迎へバス待つ鈴生りの柿の下     市原 久義
宴席に野菊を飾るやさしき手     山本  潔

(清記順)
※次回(12月9日)の兼題は「石」

艸句会報:連雀(令和5年11月1日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「冬桜」

印象句
さようならすすきに消ゆる無人駅   矢野くにこ
古里村は母の故郷冬桜        坪井 信子

【一口鑑賞】くにこさんの句。この秋、故郷の九州・阿蘇へ帰った際に詠んだそうだ。無人駅とその周りに群生する「すすき」を見ているうちに、駅が芒に包まれ消えてゆく映像が浮かび上がったという。その時に口を突いて出てきた言葉を一句にした。90歳を過ぎてなお元気な作者。伸びやかに俳句づくりを楽しんでおられる。信子さんの句。古里(こり)村はかつて東京西部の西多摩郡にあり、1955年に1町2村の合併で奥多摩町となった。「冬桜」を見るたびにお母様の実家を思い出すそうだ。心の中にある風景なのだろう。(潔)

踏切の狗尾草は切られたり      松本ゆうき
行く秋や誰とも会はず渚まで     中島 節子
暮れてなほ暮れぬ谷音寒桜      坪井 信子
晩秋のポップコーンの匂ふ闇     山本  潔
無為の我娘には勤労感謝の日     春川 園子
喧騒をよそに離宮の冬桜       飯田 誠子
庭隅の日の逃げやすく石蕗の花    束田 央枝
上州の風を宥めて冬桜        向田 紀子
舞ふことを知らぬいとしさ寒桜    横山 靖子
落武者を偲ぶに余る破蓮       矢野くにこ

(清記順)
※次回(12月6日)はテーマ「使わなくなった物」

艸句会報:東陽(令和5年10月28日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句「しいか」
例句 新米といふよろこびのかすかなり 飯田龍太

印象句
師の墓参いつにするのとかけす鳴く  中川 照子
しとやかに一座の胡弓風の盆     関山 雄一

【一口鑑賞】照子さんの句。「艸」の前身「花暦」の舘岡沙緻師は石川県羽咋市の妙成寺に眠っている。すでに7回忌も過ぎたが、コロナ禍などにより墓参もままならない。「かけす(懸巣鳥)」は秋に人里近くに来て鳴く。「師も会いたがっているだろうな」。そんな思いを折句に詠み込んだ。雄一さんの句も折句。「風の盆」は北陸を代表する祭。富山市八尾地区で9月初め、編み笠を目深に被った男女が三味線や胡弓の哀感に満ちた調べにのって踊る。この句は「一座の胡弓」が巧み。作者は句会3回目。(潔)

失恋はいつもの事よ返り花      向田 紀子
  幸田弘子朗読会
「十三夜」「一葉日記」語る秋    堤 やすこ
谷川の石に躓く落葉かな       斎田 文子
優駿の新藁の香の牧舎かな      新井 紀夫

  宇和島南高同窓会
爽やかや「おっとろっしゃ」と子規の後裔(すえ) 松本ゆうき
            ※おっとろっしゃ=びっくりしたという意味の方言
鹿の声一途なる夜の甲斐の宿     岡崎由美子
ただいまと金木犀の香を連れて    関山 雄一
太極拳色なき風を手繰り寄せ     飯田 誠子
父母参加してもまばらな運動会    中川 照子
湖は水の器や月耿耿         新井 洋子
しばらくと言ひて墓前や柿紅葉    山本  潔
柿を取る竿ののけぞる日和かな    安住 正子

(清記順)
※次回(11月25日)の兼題は折句「ささち」
 例句 山茶花は咲く花よりも散つてゐる 細見綾子
※句会場は亀有のギャラリー「バルコ」

艸句会報:すみだ(令和5年10月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「横」

印象句
寺町の長屋横丁菊日和        長澤 充子
柿・林檎初物をまづ仏前に      根本恵美子

【一口鑑賞】充子さんの句。兼題「横」で即座に浮かんでくるのが「横丁」。表通りから横に入った路地に、ところ狭しと赤提灯の店や雑貨屋などが並んでいるのを見つけると、何だか嬉しくなる。この句の「寺町の長屋横丁」は昭和の匂いがする。「菊日和」には横丁巡りをしてみたい。恵美子さんの句。日頃からご先祖様を大事にしているのだろう。「柿」も「林檎」も秋の果物として食卓に欠かせない。俳句を始めたばかりの作者。秋果の「初物をまづ仏前に」供えた心持ちを素直に詠んだ。(潔)

栗おこわ一家三人誕生日       髙橋 郁子
解体の我が家金木犀の風       福岡 弘子
横臥して内緒話や草の花       大浦 弘子
大南瓜芝にごろんとハロウィーン   貝塚 光子
独り居の長湯に浸かる秋の暮     江澤 晶子
たて横に縮む歳月木の葉髪      内藤和香子
亡き母の想ひ出深き秋袷       根本恵美子
外つ国の少女の通ふ夜学かな     松本ゆうき
ありありと多摩の横山秋澄めり    岡戸 林風
木道の軋む音して草紅葉       長澤 充子
横綴ぢの絵本めくりて秋惜しむ    山本  潔

(清記順)
※次回(11月22日)の兼題「体」

艸句会報:かつしか(令和5年10月22日)

かつしか句会(亀有学び交流館)
兼題「文化の日」

印象句
コスプレの少女神社に文化の日    新井 洋子
秋日差す浜に伏せたる盥舟      五十嵐愛子

【一口鑑賞】洋子さんの句。「コスプレ」は「コスチュームプレー」の略語で、漫画やアニメ、ゲームなどのキャラクターに変装して楽しむこと。日本の若者文化として定着している。俳句でカタカナ語を使うのは難しいが、この句は「文化の日」との取り合わせに新しみが感じられる。愛子さんの句。盥(たらい)舟といえば佐渡の名物。女性の船頭が巧みに操る様子が目に浮かぶが、掲句では秋日の差す浜に伏せて置かれており、人の姿はない。それもまた旅情を誘う。旅好きの作者ならではの一句。(潔)

強情な蔓を引き抜き秋暑し      千葉 静江
文化の日「芝浜」を聴く異邦人    新井 紀夫
夫婦とも教師でありし萩の主     小野寺 翠

 谷村新司逝く
旅立ちて冬の昴となり給ふ      新井 洋子
幼子の足の一歩や文化の日      西村 文華
旅籠屋の土間のでこぼこ秋湿     霜田美智子
よく笑ふ介護職員空高し       伊藤 けい
文化の日商い常に矻矻と       近藤 文子
下町の甘味処や秋たくる       三尾 宣子
文化の日付箋の多き料理本      西川 芳子
名書家の競ふ会場文化の日      五十嵐愛子
乱文といへど達筆文化の日      山本  潔
ガラス越しのミイラ安けし文化の日  佐治 彰子
秋草やマラソンランナー駆け抜けて  高橋美智子
留守番の夫へおでんの作り置き    片岡このみ
秋夕焼川原に犬と老人と       笛木千恵子

(清記順)
※次回(11月26日)の兼題は「小春」

艸句会報:若草(令和5年10月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「読書」 席題「子」

印象句
そのことに触れず二人の夜長かな   安住 正子
望の月亡夫と出逢つた純喫茶     吉﨑 陽子

【一口鑑賞】正子さんの句。「そのこと」とは何なのか?「二人」は夫婦なのか親子なのか、あるいは恋人同士なのかも明かされてはいない。それでも読者は自分自身の経験を重ねてさまざまな想像をめぐらす。ふとした寂しさや物思いのなか、秋の「夜長」のなかにいる二人の息遣いや表情が映像となって浮かび上がる。陽子さんの句。名月を眺めながら、亡くなられたご主人との思い出が尽きない作者。出会いの場所は「純喫茶」。「純」の一文字が付いただけで響きが違う。昔を懐かしむ気持ちが伝わってくる。(潔)

旧仮名の父の蔵書や十三夜      沢渡  梢
下校子の声のちらばる猫じやらし   安住 正子
秋の夜の子の気に入りの一ページ   新井 洋子
行く秋や針谷栄子の遺句を読み    石田 政江
秋灯下紙の辞書よりスマホかな    松本ゆうき
風変はる那須の山の背草紅葉     霜田美智子
たのもしき孫の子育て聞く良夜    吉﨑 陽子
痩せ秋刀魚大根おろしたつぷりと   市原 久義
積ん読の山の崩るゝ暮の秋      山本  潔
秋深しルーツをたどる旅を子と    新井 紀夫
全集の一書机上に夜長の灯      岡戸 林風
たはむれに踏めば水吐く虚栗     飯田 誠子
子を膝にのせて見る月まん丸し    片岡このみ

(清記順)
※次回(11月11日)の兼題は「手」
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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