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艸句会報:若草(令和5年5月13日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「正」 席題「雨」

印象句
新茶汲む大福餅の粉はたき      安住 正子
老木の若木に負けぬ茂りかな     市原 久義

【一口鑑賞】正子さんの句。大福には餅が手にくっつかないようにするため、取り粉がまぶしてある。片手で持ち上げた作者。粉が吹き飛ばないようにもう片方の手で軽く叩いて落としたのだ。それだけのことなのだが、「新茶」を味わうときの儀式のように思えてくるから面白い。久義さんの句は「茂り」が夏の季語。木々の枝葉が鬱蒼と茂っているさまを言う。山全体や草むらにも用いる。句会では老木を自分自身に重ね合わせて共感する声も上がった。(潔)

子規庵の厠板張り走り梅雨      安住 正子
缶蹴りの缶蹴り上げて夏に入る    沢渡  梢
ねんごろに気付きをメモる新社員   市原 久義
大正琴流るゝ路地の吊荵       霜田美智子
校庭のピンクの薔薇や「ノックアウト」松本ゆうき
玄関の正面に座す胡蝶蘭       吉﨑 陽子
煮て炊いて筍づくしの夕餉かな    石田 政江
新樹光生まれくる娘の名をすでに   新井 洋子
耳元をくすぐる初夏の風ふふふ    片岡このみ
そぼ降れるケバブの街や濃紫陽花   新井 紀夫
雨音に上目遣いの金魚かな      飯田 誠子
薫風や襟を正して行く径       岡戸 林風

 根本莫生さんを悼み
呑みませう蕎麦焼酎の蕎麦湯割り   山本  潔
(清記順)
※次回(6月10日)の兼題は「青田」

艸句会報:連雀(令和5年5月10日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「壺、坪」

印象句
蛸壺のごとき闇より昼寝覚      松本ゆうき
細々と一級河川蘆茂る        束田 央枝

【一口鑑賞】兼題「壺」を詠み込んだゆうきさんの句は「昼寝覚」が夏の季語。真夜中に熟睡していたつもりが、目覚めたら意外にも昼間だったのだ。「蛸壺のごとき闇」が言い得て妙。〈蛸壺やはかなき夢を夏の月 芭蕉〉の蛸になった気分だったのかもしれない。央枝さんの句。一級河川は重要な水系を、支流も含めて国が指定している。散歩コースの小さな川が「一級」であることに気付いた作者。ちょっとした驚きを巧みに書きとめた。「蘆茂る」の斡旋もお見事。(潔)

莫生さんのまさかの訃報若葉雨    春川 園子
夢はらむ天の深さや鯉のぼり     矢野くにこ
和菓子舗のガラスのケース緑さす   向田 紀子
日の本の壺ぞ憲法記念の日      松本ゆうき
師の忌来て師の誕生日来て卯月    山本  潔
あめんぼう雲から雲へ跳びにけり   飯田 誠子
古代よりの欅の勢ひ風は首夏     束田 央枝
春の香を壺に籠めたること秘密    坪井 信子
大壺の今や傘立夏に入る       中島 節子
小満や壺にさしたる野の草木     松成 英子
げんげ田や牛も寛ぐ富士裾野     横山 靖子

(清記順)
※次回(6月7日)の兼題は「七」の詠み込み

艸句会報:船橋(令和5年5月6日)

船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題 折句「はいこ」例句 白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
ミニ吟行:亀戸天神、香取神社、普門院

印象句
筆塚やわが字正さむ櫂若葉      岡戸 林風
葉桜や今憲法が声を出す       飯塚 とよ

【一口鑑賞】林風さんの句は亀戸天神での作。書家が筆に感謝するとともに、更なる上達を願って使い終えた筆を納めたのが筆塚。俳句では自分の句はもちろんのこと、人の句を清記用紙に丁寧に書くことが大事だ。櫂の木は楷書の「楷」に通じる。とよさんの句。世論調査でも改憲の賛否が拮抗するなか、平和を願う作者の気持ちが伝わってくる。「今憲法が声を出す」という措辞にハッとさせられる折句。上五の「葉桜」も効いている。(潔)

若葉風大根風や大根碑        新井 紀夫
天神の池の緑や五月晴        小杉 邦男
風そよぐ立夏の天神詣かな      平野 廸彦
廃寺に祈る影あり棕櫚の花      隣   安
灰色のイコンのイエス苔の花     沢渡  梢
亀戸に仰ぐ夏雲師の忌過ぎ      山本  潔
ガチャガチャに夢のころがる子供の日 並木 幸子
晴れ女と云はるゝ君の更衣      岡戸 林風
はればれと生きる力や今年竹     岡崎由美子
コットンのシャツの手触り今朝の夏  三宅のり子
ロボットの運ぶランチや夏に入る   川原 美春

(清記順)
※次回(6月3日)の兼題は「六」の詠み込み(「六月」を除く)

艸句会報:すみだ(令和5年4月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題:「今・日・和」(任意に詠み込み)

印象句
カヤック漕ぐ掛け声高く夏に入る   長澤 充子
【一口鑑賞】カヤックは水上のスポーツやレジャー用の一人乗りの小舟。もともと北極圏の先住民族が海で猟をするために使われていた。クローズドデッキのなかに足を前方に伸ばして坐り、両端に水かきのついたパドルと呼ばれる櫂で漕ぎながら進む。カヌーの一種と捉えれば夏の季語ともなり得るが、この句はあくまで「夏に入る」が主題。川で高校生たちがカヤックの練習をする様子を見かけた作者。掛け声の高さに夏の到来を感じて素直に書きとめた一句。(潔)

今を詠む句帳片手に目借時      岡戸 林風
囀や古刹に古き投句箱        福岡 弘子
啄木忌菊坂下のいり豆屋       髙橋 郁子
足場組む鳶の若さや風光る      内藤和香子
木の芽和頷くだけの味見役      岡崎由美子
庭荒れて生り放題の夏蜜柑      長澤 充子
夏はじめ駅のピアノの三和音     江澤 晶子
光から光へ鳥や潮干潟        山本  潔
病室の夫励まさん若葉道       貝塚 光子
山吹や雨に和らぐカフェテラス    大浦 弘子
蚕豆や今日一日の夢のあと      松本ゆうき

(清記順)
※次回(5月24日)の兼題はテーマ「下町の川」

艸句会報:かつしか(令和5年4月23日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「蜃気楼」

印象句
漁船いま蜃気楼へと呑まれゆく    新井 洋子
【一口鑑賞】「蜃気楼」は晩春の季語。空気の温度変化による光の異常な屈折により、見えるはずのないものが海や砂漠などに浮かび上がる現象。「蜃」という水中の大蛤が吐き出す気によってつくられる幻影と考えられたことが語源のようだ。掲句は、この日の最高点を獲得した。実際に見たことがない人にもそれらしい映像が頭に浮かんだからだろう。「漁船いま」の措辞に臨場感がある。国内では魚津市の蜃気楼が有名。同じものは二度と見られないという。(潔)

蜃気楼空けてしまつた玉手箱     高橋美智子
遠のける街の喧騒飛花落花      平川 武子
萬愚節炙り出しの絵燃えにけり    霜田美智子
青い鳥探す途中や蜃気楼       小野寺 翠
蜃気楼AIに問ふ詩の未来       山本  潔
しばらくは留守といふ家たんぽぽ黄  笛木千恵子
寄り道の一つ増えたる日永かな    西川 芳子
初夏だより令和と書くも常となり   近藤 文子
ランチ皿運ぶロボット昭和の日    片岡このみ
伸び伸びと自由自在に花薺      西村 文華
遠隔の恋の話や蜃気楼        伊藤 けい
端座して法話を聴くや弥生尽     新井 紀夫
そよ風や代官山の花楓        五十嵐愛子
能登瓦光る町家や燕来る       佐治 彰子
天と地の間に人の世目刺焼く     新井 洋子
ファミレスの給仕ロボット夏隣    千葉 静江

(清記順)
※次回(5月28日)の兼題は「葉」の詠み込み
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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