連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「歌(唄)」
印象句
虎落笛戦火を厭ふ歌のごと 松本ゆうき
【一口鑑賞】「虎落笛(もがりぶえ)」は冬の寒い日に、電柱や垣根、物干し竿などに強風が当たって発するヒューヒューという笛のような音。「もがる」には逆らう、反抗する、駄々をこねるなどの意味がある。掲句は、年が明けても一向に収まりそうになく、むしろ戦闘が激化しているロシアとウクライナの戦争を案じながら、兼題「歌」の文字をさらりと詠み込んだ。中七の「戦火を厭ふ」は誰しも共感する思いだろう。(潔)
行く年の第九は我の応援歌 横山 靖子
ごまめ噛む噛む生きざまを噛みしめて 束田 央枝
一行のメモ書きのやう初日記 中島 節子
除夜の鐘聴くや卒寿の耳痒き 坪井 信子
松過ぎの蒸気吐きだす洗濯屋 向田 紀子
初みくじ読むやたちまち旅心 山本 潔
若人の造語飛び交ふ初詣 飯田 誠子
みちのくやシャンソンもよし炬燵舟 松成 英子
何もないことが楽しき明けの春 松本ゆうき
(清記順)
船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題「新」、ミニ吟行「船橋大神宮」
印象句
松取つて一束の縄残りけり 隣 安
【一口鑑賞】2023年の「艸」は千葉県船橋市の意富比(おおひ)神社(通称、船橋大神宮)のミニ吟行でスタートした。1900年以上の歴史を持つ神社。この日も初詣の参拝客で賑わう一方、元旦から飾っていた門松を取る「松納」が行われていた。その様子を見ていたゲスト参加の作者。竹の柱に松をくくりつけていた縄が外され土に置かれている場面を切り取った。単純写生のようでありながら、「一束の縄」に正月が過ぎていくことへの感慨が表れている。(潔)
人日の路地に朝湯の匂ひして 岡崎由美子
新宿のネオン浴びたる寒鴉 沢渡 梢
レリーフの手形に皺や寒に入る 隣 安
年の瀬の姉はいよいよ腰曲げて 三宅のり子
初句会等身大の我があり 小杉 邦男
使い捨て懐炉を腰に浦の町 岡戸 林風
寒柝や最長老の家の前 新井 紀夫
松おさめ出店のあるじ大あくび 飯塚 とよ
新日記まだ白きまま夢書けず 並木 幸子
新玉の光を受けて屠蘇の味 平野 廸彦
新年の新聞厚く睦まじく 川原 美春
たひらかに宮の土俵の淑気かな 山本 潔
(清記順)
かつしか句会(亀有学び交流館)
兼題「五」
印象句
ボーナスや五黄の寅の娘来る 西村 文華
【一口鑑賞】「五黄(ごおう)の寅」は九星気学と干支の占いにおいて、強い運勢を持つ年に生まれた人を指す。近年では1950年(昭和25)、1986年(昭和61)、そして2022年(令和4)が該当する。この句は「ボーナスを持って五黄の寅の娘が遊びに来た」と解釈した人が多かったが、実はそうではなく、最近4人目にして初めて女のお孫さんが誕生した喜びを詠んだという。兼題「五」から「五黄の寅」への発想がユニーク。おめでとうございます。(潔)
小流れに攩(たも)持つ子ども小春空 伊藤 けい
煌めきだす聖夜の湾や展望台 五十嵐愛子
心充つ大根一本使ひ切り 新井 洋子
伝説の北信五山眠りけり 霜田美智子
着ぶくれて有馬記念の五点買ひ 山本 潔
あと五年生きると見込み日記買ふ 新井 紀夫
するめ焼くストーブ列車五能線 片岡このみ
冬の月三百六十五歩の跡照らす 近藤 文子
下仁田の葱買ふための遠まはり 小野寺 翠
病室の窓を横切る枯葉かな 西川 芳子
何時からか赤出汁仕立て納豆汁 西村 文華
玲瓏たる冬満月やひとり鍋 佐治 彰子
雪時雨旅の終りの石舞台 高橋美智子
薬飲む水から白湯に冬の朝 三尾 宣子
(清記順)
東陽句会(江東区産業会館)
兼題「視」
印象句
おしやべりに楽しく疲れシクラメン 安住 正子
【一口鑑賞】「シクラメン」は地中海東北部原産。もともとは春咲き、秋咲きのある野生種で、16世紀末にヨーロッパへ渡り、多くの園芸品種が生まれた。歳時記では春の季語だが、近年はクリスマスや正月に楽しまれるようになっており、冬に詠まれても違和感はない。歳末の忙しい時期におしゃべりに夢中になっていた作者。楽しい会話に心地良い疲れを感じながら目にした深紅のシクラメンに癒やされたのだろう。実感が伝わってくる。(潔)
着ぶくれて新宿駅の迷路かな 向田 紀子
野良猫に会ひにゆく道落葉道 岡崎由美子
毛布被つてゲームの夫の反抗期 飯田 誠子
聖樹綺羅いくさの闇は如何許り 堤 やすこ
呆け防止の新書に疲れ小春かな 中島 節子
水仙や墓地売り出しの赤幟 斎田 文子
冬怒濤視界の果ての七ツ島 安住 正子
衰へし視力師走のATM 岡戸 林風
少年の視線定まる寒稽古 山本 潔
かんむりは折紙の星クリスマス 中川 照子
水晶玉に見る過去未来暖炉燃ゆ 新井 洋子
あの世とはこんなものかな日向ぼこ 松本ゆうき
煤逃げや独演会の「芝浜」を 新井 紀夫
(清記順)
すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「暖房器具」一切
印象句
独り居の洋間にでんと置炬燵 福岡 弘子
【一口鑑賞】部屋の中に炉を切って櫓を組む「切炬燵」に対し、「置炬燵」は持ち運びができるという点で画期的な発明だっただろう。江戸中期には浮世絵にも描かれている。現代の電気置炬燵は昭和の高度経済成長期から一気に普及したようだ。掲句は、この冬の作者の暮らしをそのまま素直に詠んだという。「洋間にでんと」とはユーモラスで力強い一方、独り暮らしになった寂しさの裏返しのようにも感じられる。ほんのりとした味わいのある一句。(潔)
故郷は遠のくばかり雪積る 工藤 綾子
電気毛布の虜となりて予後の夫 貝塚 光子
ストリートピアノ奏づる聖歌かな 福岡 弘子
手焙や当ての鯣をあぶりつつ 山本 潔
裏高尾足裏にやさし落葉径 髙橋 郁子
年の瀬やひよいと出てくる探し物 内藤和香子
暖房のスイッチ入れて二度寝かな 長澤 充子
文机に母の似顔絵床暖房 大浦 弘子
何かまだ為残してをり師走かな 松本ゆうき
セーターを買うて一人の午後のカフェ 岡崎由美子
(清記順)