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『花暦』平成24年4月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

  両国・旧安田庭園五句
料峭や大川沿ひの黒板塀
庭園の数奇屋裏口寒戻り
見返り美人のやうな雪吊りなりしかな
如月や黒松の幹ひび割れて
高仰ぐステンドグラス寒明けし
癌太りこの身一つの余寒かな
喜怒哀楽の哀に籠りし鳥曇
腕組むにあらず癌秘すクロッカス
夥しき棘は鋼(はがね)か薔薇剪定
春陰や紙で傷めしくすり指
何も持たぬ青年の素手春の雪
春雪や老の艶てふこと難し
情けとは情(じょう)とは春の葛湯かな
春の夜の入院支度ひとりかな
初花を待つや坂下坂の上

 〔Web版限定鑑賞〕高浜虚子に「独り句の推敲をして遅き日を」という句がある。最短詩型の俳句に推敲は欠かせない。「料峭や大川沿いの黒板塀」は、確か句会では季語が「春雪や」だった。旧安田庭園を囲む黒板塀と春の雪のコントラストが調和していい風景だなと思ったが、主宰は決して妥協しない。推敲により「料峭や」という早春の風の寒さを肌で感じ取る厳しい季語をもってきた。旧財閥が栄華を誇った時代と今との対比にまで読み手の創造が及ぶ。「喜怒哀楽の哀に籠もりし鳥曇」は、再び癌の焼灼治療を受けることになった主宰の心情だろう。「喜怒哀楽」を心の置き場所と捉えているところが巧み。「鳥曇」の季語もここでは揺るがない。いかなる病を抱えていようと、主宰の好奇心や観察眼は健在だ。「何も持たぬ青年の素手春の雪」は、手ぶらで歩く若者の姿に感嘆している。スマートフォンがポケットに入っていれば、手帳も書類も、本さえも持つ必要がない時代になりつつある。現代若者像を「素手」に凝縮させた一句。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
枯石榴朱をとどめてゐたりけり(進藤龍子)
果たさざる亡父への約や河豚汁(根本莫生)
赤子泣き船底叩く冬怒濤(池田まさを)
椀種の大振りなりし初秩父(野村えつ子)
寒の鯉沈みて石のごときかな(相澤秋生)
冬の川木屑動かぬまま暮れて(岡崎由美子)
寒星や川音高き山の宿(堤靖子)
振り出して雪片の未だ整はず(新井洋子)
水音を捉へきれざる枯葎(坪井信子)
山なみの白を尽せり蕪鮓(岡戸良一)
薄氷を叩きて厚さ知りにけり(高橋梅子)
アネモネや姓を違へて三姉妹(針谷栄子)
待ち人のゆつくりと来る春の駅(新井由次)
流されまいと一揺らぎして寒の鯉(森永則子)

14周年祝賀句会 舘岡沙緻選
〔特々選〕
天 春雷を師の叱咤ともこころにす(向田紀子)
地 被災地に春巡り来ていのち継ぐ(長澤充子)
人 靴底に春泥重く残りけり(滝田ふみ子)
〔特選10句〕
  湯治場の簀子のぬめり斑雪(浅野照子)
  城址の空へ奈落へ花吹雪(新井洋子)
  薄氷や池に張り出す能舞台(岡崎由美子)
  アネモネや大理石なる女神像(岡田須賀子)
  川幅の広がる花菜灯りかな(加藤弥子)
  砂美しく波こまやかに桜貝(工藤綾子)
  春禽のひかりとなりし行方かな(高久智恵江)
  梅白く波の乗せくる日の光(野村えつ子)
  流木へ水のいそげる春の鴨(山本潔)
  初花やピヨピヨサンダル鳴らし過ぐ(山崎正子)

花暦集から
しばらくは流されてゐる冬鷗(野中和子)
土佐育ち文旦愛でし日和かな(吉田精一)
訪ふ人のなき床の間の寒椿(吉崎陽子)
街々に禁煙マーク鳥曇(山崎正子)
紙風船富山の薬は春の頃(川本キヨ)
春の泥ブルーライトの港町(土屋天心)
婆の売る蓬大福吉野山(福岡弘子)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【24年4月の活動予定】
 2日(月)花暦吟行会(佃・月島・隅田川沿)
 3日(火)さつき句会(白髭)
 5日(木)一木会(三鷹界隈)
11日(水)連雀句会(三鷹)
13日(金)板橋句会(中板橋)
14日(土)若草句会(俳句文学館)
16日(月)花暦例会(俳句文学館)
      午前・同人会、午後・例会
24日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
25日(水)すみだ句会(すみだ産業会館)
26日(木)葵の会(事務所)
27日(金)天城句会(俳句文学館)
28日(土)木場句会(江東区産業会館)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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