『花暦』平成25年1月号ダイジェスト
暦日抄 舘岡沙緻
画廊バルコ三句
向き合へる画廊胸像朝しぐれ
画廊の床釘の頭光り師走来る
画廊の冬指に触れたる鉄の亀
叔母二十年間認知症にて逝く
姪よりの訃報横書き室の花
二十年間夢見しままに冬の鵯
冬の墓参能登行四句
地つづきの城と町屋のしぐれをり
名刹の鉄舟の書や廊冷えて
奥能登の波清冽に冬の月
冬怒濤何に挑まむ日本海
梟の眼張りゐる闇の底
末枯や八十路といへど口紅うすく
住み古りて病む身一つや蕪汁
被災地の小ぶりな牡蠣に力得て
月日とは身ほとりのもの古暦
祝ぎごとの近き集ひや冬木の芽
〔Web版限定鑑賞〕東日本大震災後の苦難を文学はどう捉えるのか--。俳壇でもさまざまな議論が行われているが、肩肘を張らず、淡々と詠まれた句にこそ感銘を受ける。「被災地の小ぶりな牡蠣に力得て」は、まさにそんな句。日常生活の中で目の当たりにした生物の再生。「自然の力」に対する畏敬の念を、さらりと詠みながら、被災地へエールを送る。「奥能登の波清冽に冬の月」「冬怒濤何に挑まむ日本海」。冬の日本海と対峙しての旅吟。凍てついた月や荒海は、癌と闘いながら生きる主宰の心象風景でもあるのだろう。俳句の花鳥諷詠は、決して風流な遊び事ではないと思い知らされる。「月日とは身ほとりのもの古暦」は、1年の一日一日を大切に生きてきたという実感が伝わってくる。「古暦」は年の暮れに使われる季語。新しいカレンダーを用意すると、それまでの暦が急に色あせて感じられる。月日そのものを「身ほとり」と言い取ったところにオリジナリティーがある。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
行く秋やわづかな草に水ゆがみ(加藤弥子)
眼前を草の絮とび日の濃かり(野村えつ子)
島の裏径秋の波音ばかりなる(春川園子)
幼子の橋より放る草の花(岡崎由美子)
パプリカの赫・朱釣瓶落しかな(向田紀子)
泡立ちしダムの放水渓紅葉(新井洋子)
蓮の実飛ぶ明日へ少し残し飛ぶ(中島節子)
星に田を預けて案山子眠りたし(坪井信子)
石蕗の黄のいつまで暮色ぎらひなる(矢野くにこ)
立冬の木漏れ日杖に病み抜きぬ(針谷栄子)
展望風呂よりの漁港や冬隣(工藤綾子)
風ほどに動かぬ雲や銀杏散る(安住正子)
投入れの秋草壺に荒物屋(高橋郁子)
黒漆喰の蔵壁に日や秋暮るる(長澤充子)
印象句から
山上へ提灯連らね冬桜(石田政江)
ボルシチの薯大きかり冬うらら(長野克俊)
湧水に白菜洗ふ昼の月(吉崎陽子)
貸農園に大事にされて秋桜(小泉千代)
独り居の夕餉小鉢の菊膾(吉田スミ子)
女坂のぼりきつたる菊人形(長野紀子)
松手入れ音つつぬけに蔵屋敷(高橋郁子)
石臼に栗の実置きて山の宿(川本キヨ)
湯の町や黄花コスモス遠眼にす(畑中一成)
■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【25年1月の活動予定】
8日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
9日(水)連雀句会(三鷹)
11日(金)板橋句会(中板橋)
12日(土)若草句会(俳句文学館)
14日(月)花暦吟行会(明治神宮)
19日(土)木場句会(江東区産業会館)
21日(月)花暦例会(俳句文学館)
23日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
25日(金)天城句会(俳句文学館)
26日(土)風の会(事務所)
画廊バルコ三句
向き合へる画廊胸像朝しぐれ
画廊の床釘の頭光り師走来る
画廊の冬指に触れたる鉄の亀
叔母二十年間認知症にて逝く
姪よりの訃報横書き室の花
二十年間夢見しままに冬の鵯
冬の墓参能登行四句
地つづきの城と町屋のしぐれをり
名刹の鉄舟の書や廊冷えて
奥能登の波清冽に冬の月
冬怒濤何に挑まむ日本海
梟の眼張りゐる闇の底
末枯や八十路といへど口紅うすく
住み古りて病む身一つや蕪汁
被災地の小ぶりな牡蠣に力得て
月日とは身ほとりのもの古暦
祝ぎごとの近き集ひや冬木の芽
〔Web版限定鑑賞〕東日本大震災後の苦難を文学はどう捉えるのか--。俳壇でもさまざまな議論が行われているが、肩肘を張らず、淡々と詠まれた句にこそ感銘を受ける。「被災地の小ぶりな牡蠣に力得て」は、まさにそんな句。日常生活の中で目の当たりにした生物の再生。「自然の力」に対する畏敬の念を、さらりと詠みながら、被災地へエールを送る。「奥能登の波清冽に冬の月」「冬怒濤何に挑まむ日本海」。冬の日本海と対峙しての旅吟。凍てついた月や荒海は、癌と闘いながら生きる主宰の心象風景でもあるのだろう。俳句の花鳥諷詠は、決して風流な遊び事ではないと思い知らされる。「月日とは身ほとりのもの古暦」は、1年の一日一日を大切に生きてきたという実感が伝わってくる。「古暦」は年の暮れに使われる季語。新しいカレンダーを用意すると、それまでの暦が急に色あせて感じられる。月日そのものを「身ほとり」と言い取ったところにオリジナリティーがある。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
行く秋やわづかな草に水ゆがみ(加藤弥子)
眼前を草の絮とび日の濃かり(野村えつ子)
島の裏径秋の波音ばかりなる(春川園子)
幼子の橋より放る草の花(岡崎由美子)
パプリカの赫・朱釣瓶落しかな(向田紀子)
泡立ちしダムの放水渓紅葉(新井洋子)
蓮の実飛ぶ明日へ少し残し飛ぶ(中島節子)
星に田を預けて案山子眠りたし(坪井信子)
石蕗の黄のいつまで暮色ぎらひなる(矢野くにこ)
立冬の木漏れ日杖に病み抜きぬ(針谷栄子)
展望風呂よりの漁港や冬隣(工藤綾子)
風ほどに動かぬ雲や銀杏散る(安住正子)
投入れの秋草壺に荒物屋(高橋郁子)
黒漆喰の蔵壁に日や秋暮るる(長澤充子)
印象句から
山上へ提灯連らね冬桜(石田政江)
ボルシチの薯大きかり冬うらら(長野克俊)
湧水に白菜洗ふ昼の月(吉崎陽子)
貸農園に大事にされて秋桜(小泉千代)
独り居の夕餉小鉢の菊膾(吉田スミ子)
女坂のぼりきつたる菊人形(長野紀子)
松手入れ音つつぬけに蔵屋敷(高橋郁子)
石臼に栗の実置きて山の宿(川本キヨ)
湯の町や黄花コスモス遠眼にす(畑中一成)
■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【25年1月の活動予定】
8日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
9日(水)連雀句会(三鷹)
11日(金)板橋句会(中板橋)
12日(土)若草句会(俳句文学館)
14日(月)花暦吟行会(明治神宮)
19日(土)木場句会(江東区産業会館)
21日(月)花暦例会(俳句文学館)
23日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
25日(金)天城句会(俳句文学館)
26日(土)風の会(事務所)