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『花暦』平成25年2月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

    鬼石・冬桜
田収めの煙地を這ふ山日和
鬼石てふ武骨な里の冬ざくら
山の日を雲を恋ひゐる冬桜
出店ほどには冬の桜の開かざる
足弱の病む身に冬の桜かな
日差さねば手足重たき冬の昼
長病むもをみなで通す冬椿
がさ市の戻りは姪の銭湯へ
しんがりに九十翁現れ納め句座
住み慣れし空・橋・川や小晦日
寒月下ひとりの月日何恃まむ
冬田中一基の暗く農の墓
屋敷林寒風打ち当りぶちあたり
切株老い樹皮の裂け目の寒気かな
上水の流れの底の淑気かな


 〔Web版限定鑑賞〕俳句を鑑賞する手順は極めてシンプルだ。まず、句意を解釈する。次に、その情景を自由に想像してみる。たったそれだけで17音の奥に広がる世界を楽しむことができる。「田収めの煙地を這ふ山日和」は、群馬・鬼石(おにし)を訪れての吟行句。晩秋の農事を終えた田の片隅で藁屑か何かを燃やしているのだろう。煙が地を這うように流れていく。遠目には上州の山がはっきり見える。「鬼石てふ武骨な里の冬ざくら」は、上五と中七のごつごつした感じが上手い。春の桜に比べ、小ぶりで寒々しい冬桜を際立たせている。ところで、主宰が選句をする際、いつも何を重視しているのか尋ねたところ、①写生ができていること②自己が投影されていること③詩があること-との答えが返ってきた。「切株老い樹皮の裂け目の寒気かな」「上水の流れの底の淑気かな」。視線の先にある「樹皮の裂け目」や「流れの底」にいろいろ思いを巡らせてみよう。季語に続く切れ字「かな」も効果的だ。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
寺裏に水湧く処神の留守(進藤龍子)
山肌に煙るやうなる冬桜(根本莫生)
冬ざれの瀬音確かむ土橋かな(池田まさを)
硝子屋の四枚玻璃戸冬日差し(岡崎由美子)
底冷や衛士の肩章金モール(向田紀子)
暮れて来し忍野八海冬に入る(中島節子)
風花の光りしときは消えしとき(坪井信子)
放鷹の一声鷹の猛り爪(高久智恵江)
眼を病めば日暮の早し冬の雨(中村京子)
風花や在来線の手動ドア(針谷栄子)
冬日向戸口際まで印刷機(大野ひろし)
塩鮭のきびしき貌で届きけり(鶴巻雄風)
亡き画家の未完菩薩絵年迫る(山本 潔)
酢海鼠を口に含みて眼を閉ぢる(畑中一成)

印象句から
高階よりの不忍池破芭蕉(松川和子)
目薬の一滴しみる冬はじめ(吉崎陽子)
鉄塔のそびえるのみの枯野かな(鈴木正子)
粕汁鍋底に仰向け貝杓子(土屋天心)
秩父夜祭屋台一気に駆け上がる(山崎正子)
手相見の早仕舞ひする冬の雨(福岡弘子)
冬薔薇のつよき香りに命満つ(梅津雪江)
雪吊りの黒松美しき夕明り(梅林勝江)
誰も来ぬことが良きかな十二月(小西共仔)
持ち寄りのいつものひとつ零余子飯(小泉千代)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【25年2月の活動予定】
 3日(日)花暦吟行会(行徳野鳥公園)
 5日(火)さつき句会(白髭)
 8日(金)板橋句会(中板橋)
 9日(土)若草句会(俳句文学館)
12日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
13日(水)連雀句会(三鷹)
16日(土)木場句会(江東区産業会館)
18日(月)花暦例会(俳句文学館)
22日(金)天城句会(俳句文学館)
27日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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