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『花暦』平成25年4月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

春寒く黙の深きは怒りとも
早春や白衣は人を清らにし
祝ぎごとの花の堤に齢重ね
糸女・久乃・愛子も笑むや花の影
あかつきの空へ命を花芽満つ


 〔Web版限定鑑賞〕『花暦』は創刊15周年を迎えた。今月の暦日抄は誌面の都合で5句。「あかつきの空へ命を花芽満つ」は祝句。まだ早い春の、夜明けの空へ向かって地上から命の力が放たれている、そんなイメージだろうか。俳句は自然との交感から生まれる。「花芽満つ」で手塩に掛けて育ててきた『花暦』への熱情が込められている。「祝ぎごとの花の堤に齢重ね」。祝賀会は今年も都内のアルカディア市ヶ谷で開かれた。外濠公園沿いの恒例の会場だ。主宰のみならず、同人・会員にとっても年に一度の祝賀会を節目として皆、句作に励んでいる。「糸女・久乃・愛子も笑むや花の影」。主宰とともに『花暦』を支えてくれた今は亡き俳人たちへの感謝の念も募る。ところで、この春は寒暖の差が大きかった。「春寒く黙の深きは怒りとも」は一人で暮らす主宰の心象句。「早春や白衣は人を清らにし」。病院での即吟か。中七・下五の把握が素晴らしい。季語と響き合い、美しい詩に仕上がっている!(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
大鷺の白を寒しと見てゐたり(加藤弥子)
生涯にあといくたびぞ春立つ日(根本莫生)
四倍生きりや「はい疲れます」成人日(浅野照子)
霊山へ太刀の一振り初神楽(野村えつ子)
日射し浴び恵みの土に根深葱(春川園子)
瀬戸物屋の棚の隙なる団子花(岡崎由美子)
大寒や朝日は帯となり河へ(中島節子)
醜を美とロダン彫刻寒旱(堤 靖子)
人は病む山陰本線冬の窓(向田紀子)
産着干す雪の朝の明るさに(新井洋子)
雪折れの傷口匂ふ神の前(高久智恵江)
夕星や年賀帰りの素手さびし(森永則子)
長者眉切るを惜みて初鏡(大野ひろし)
気丈とは昭和一桁冬木の芽(山本 潔)

印象句から
露坐仏の厚きてのひら雪積り(五十嵐由美子)
春立ちぬ背筋を伸ばす宮の前(中村松歩)
次々とカーブミラーや春の山(岡田須賀子)
潮の香や幹の艶めく里桜(貝塚光子)
雪の道面白さうな東京つ子(河野律子)
路地の子の母呼ぶ声や春兆す(新井由次)
日差し濃くあたりドアノブ暖かし(工藤綾子)
清すがしき白木の鳥居寒詣(松本涼子)
捨てかねる祖父の火鉢の平蒔絵(安住正子)
梅咲いて一天の蒼奪ひけり(鶴巻雄風)
豆源に福枡並び春近し(高橋郁子)
少年の小遣ひわずかバレンタインデー(滝田ふみ子)
早春の浜に潮差す夕茜(長澤充子)
残雪を素手で集めて子等はしやぐ(桑原さか枝)
階に女結びの初みくじ(吉田スミ子)
車の旅春の渚を疾走す(宮谷さち子)
預かりし幼ナとビデオ春の雪(福岡弘子)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【25年4月の活動予定】
 2日(火)さつき句会(白髭)
 4日(木)一木会(戸越公園・戸越界隈)
 8日(月)舘花会(事務所)
 9日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
10日(水)連雀句会(三鷹)
11日(木)秋冬会(事務所)
12日(金)板橋句会(中板橋)
13日(土)若草句会(俳句文学館)
15日(月)花暦例会(俳句文学館)
18日(木)花暦吟行会(薬王院)
24日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
26日(金)天城句会(俳句文学館)
27日(土)木場句会(江東区産業会館)

『花暦』平成25年3月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

祈りへと砂利踏む音に雪つのる
雪被く鐘撞堂に鐘の無く
ひそと来てうづくまる猫寒の鯉
凍蝶の終の影とし消えやすし
煮凝や生き死にのこと捨てておく
晩年や雪消えし道残る道
寒月下わが命終はどの辺り
洗顔の寒の水手に生き抜かむ
素うどんの熱きを口に風邪ごこち
寒いよよ生きる証しのペン・句帳
あくびして目尻に涙寒灯
余生とは白侘助の蕾満ち
春立つや肝の臓をばまたも焼く
冬薔薇の一蕾の紅入院す
老舗古書店ラーメン屋となる冬の町


 〔Web版限定鑑賞〕我々は日常の中で、見ているようで見ていないことが意外に多いものだ。しかし、何気ない発見こそ格好の句材になる。「雪被(かづ)く鐘撞堂に鐘の無く」はまさにそんな句。見慣れた寺の前で雪が屋根に積もった鐘撞堂に目が止まった。よく見ると鐘がない。鐘は前からなかったのだろうか。雪が降らなければ、ずっとそれに気付かないままだったかもしれない。「鐘の無く」という不安定な着地がそう感じさせる。「老舗古書店ラーメン屋となる冬の町」もよくあること。移ろいやすい町の有り様を目敏く句にした。「洗顔の寒の水手に生き抜かむ」は日常吟。冷たい水で顔を洗うと体温調節機能が活発になり、体調管理には良いらしい。ましてや「寒の水」は薬になるといわれるくらいだから格別だ。「余生とは白侘助の蕾満ち」。侘助は椿に似た小ぶりの白い花をつける。蕾が開いた後の、なおもひっそりとした佇まいを思い、自らを重ね合わせている。「余生とは白」は八十路を生きる主宰の人生哲学。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
冬鵙の朝の荒鳴き山曇る(野村えつ子)
七草籠の長柄うれしき重さかな(向田紀子)
数へ日や八坂神社は燈の社(新井洋子)
蓮枯れて風を捉へるもののなき(坪井信子)
止まれば濁らむ水の寒さかな(高久智恵江)
寄鍋や壁いつぱいの大漁旗(岡戸良一)
竹林の葉ずれの音も寒露かな(虫明みどり)
何もせぬ湯疲れの身や三日過ぐ(針谷栄子)
木枯や舗道に残る油染み(工藤綾子)
池の水匂ふ山寺雪催(森永則子)
落葉溜りとなりし水無きプール底(大野ひろし)
寒鯉の水の重さに動かざる(鶴巻雄風)
山影に色失へる冬桜(山本潔)
雪が拭ひ雲一つなき青さかな(畑中一成)

印象句から
家苞を「赤福」と決め初旅へ(土屋天心)
年重ね決意をしるす初日記(吉崎陽子)
妹入りて流れよくなる手毬唄(松川和子)
鴨川の浅き流れや寒の内(福岡弘子)
大屋根の谷中寺町寒日和(梅林勝江)
路地裏の日向もとめて冬の猫(梅津雪江)
小さき池今日は水なく鴨もゐず(小西共仔)
玩具屋の隅に一つの福笑ひ(山崎正子)
もう誰も使はぬ農具冬ざるる(鈴木正子)
追ひ越せぬ前を行く娘の春著かな(長谷川きよ子)
下戸上戸句友はいかに年忘れ(小泉千代)
はためける大漁旗の先松飾り(田崎悦子)
七十路の胸の深きへ除夜の鐘(馬場直子)
白妙の山ふつくらと初日の出(小池禮子)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【25年3月の活動予定】
 5日(火)さつき句会(白髭)
 7日(木)花暦十五周年祝賀会
 8日(金)板橋句会(中板橋)
 9日(土)若草句会(俳句文学館)
12日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
13日(水)連雀句会(三鷹)
16日(土)木場句会(江東区産業会館)
22日(金)花暦例会・天城合同句会(俳句文学館)
27日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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