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『花暦』ダイジェスト平成25年9月号

暦日抄     舘岡沙緻

門前の仏具屋盆も過ぎにけり
寺裏の老舗どころの洗鯉
父母在さば共に素足よ夕畳

  埼玉・本庄
御神燈池面に映えて夏祓
老禰宜の金糸銀糸の夏袴
夜の茅の輪小作りなれど巻き太き

  軽井沢六句
林道の先は滝道小暗がり
一条の滝はわがため音強し
滝の前一歩も退かぬ恙の身
滝の道木の間木の間の日暮れかな
耳遠くなりし滝道戻りかな
旅路とも滝見帰りの老夫婦
夏草の午後は波立つ風館
灼け土にパン屑生あるものへかな
生きねばと椅子に深座す吾亦紅


 〔Web版限定鑑賞〕「俳句はドキュメンタリーだ」と思うときがある。一つのテーマで詠まれた連作を読むと、散文で書かれたものよりもリアルな映像が目に浮かぶことがあるからだ。今月の暦日抄では「軽井沢六句」にそんな印象を抱く。「林道の先は滝道小暗がり」「一条の滝はわがため音つよし」。林道から小道を経て、滝と出会うまでの様子を無駄なく描写している。滝は、まるで主宰の到来を待っていたかのように、何かの象徴としてそこにある。「滝の前一歩も退かぬ恙の身」は病を抱える身で滝と対峙している緊張感。長年、癌と闘い続ける主宰の心象風景が垣間見えるようだ。「滝の道木の間木の間の日暮れかな」「耳遠くなりし滝道戻りかな」。林の木の間から落ちてくる夕日、遠ざかる滝の音。2句とも切れ字「かな」が情感を呼んで効果的だ。さらに「旅路とも滝見帰りの老夫婦」でこの映像は完成する。短詩型の一つの方向性を示す詠みっぷりに感動を覚えずにはいられない。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
百合匂ひ疲れ過ぎたる夜の目覚(加藤弥子)
今ははや汗かくほどは働かず(根本莫生)
渓音に黙々と鮎ほぐしをり(浅野照子)
さくらんぼ縺れしままを量らるる(野村えつ子)
息長く歌ふ少女やアマリリス(春川園子)
夕風や茅の輪足元傷みをり(岡崎由美子)
願ひごと願ひつくせり星祭(中島節子)
粥にのせ強塩焼の小鮎かな(堤 靖子)
下闇や土の匂ひの風動く(坪井信子)
プールより水もろともに上りけり(高久智恵江)
純白の力迫りし雲の峰(矢野くにこ)
屑金魚と言はれ大きく育ちをり(針谷栄子)
昼顔に車輪の風やガード下(秋山光枝)
山下りて来し人に焚く夏炉かな(安住正子)

印象句から
色づきし実梅散らばる石灯籠(福岡弘子)
朝焼に染まる穂高や深呼吸(梅林勝江)
笊の中青梅の実の硬さかな(山崎正子)
病む人へ汗拭くタオル熱くして(鈴木正子)
酒呑まぬ弟よりの梅酒かな(小西共仔)
峠越え大地に赤き岩鏡(鳰川宇多子)
あく抜きの実梅ころがる朝厨(山室民子)
青梅の雨滴の光清しとも(白木正子)
色尽きて雨に打たるる額の花(市原久義)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【25年9月の活動予定】
 3日(火)さつき句会(白髭)
11日(水)連雀句会(三鷹)
14日(土)若草句会(俳句文学館)
16日(月)花暦例会(俳句文学館)=台風18号のため中止=
19日(木)板橋区会(中板橋)
21日(土)木場句会(江東区産業会館)
24日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
25日(水)花暦例会・すみだ合同句会(すみだ産業会館)
27日(金)天城句会(俳句文学館)
29日(日)花暦一泊吟行会(日光・奥日光)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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