fc2ブログ

『花暦』ダイジェスト/平成26年2月号

暦日抄     舘岡沙緻
 大久保白村氏より毎年いただく
七草籠とどく只今入院中
七草籠の軽さ命のかるさかな
女手に七草籠の竹柄かな
つごもりの南天の葉の色重ね
ベッド寄せたき直立の野水仙
芝枯れて日を撥ね返す石の黙

 退院日・本庄東京二往復となる感謝
隙間風無きマンションのありがたき
年の瀬や製材所無き町運河
思ふこと願ふこと減り年を越す
去年今年持薬飲む水足してをり
空あれば町あれば塔大旦
買初は丸善八十路おろおろす
何を植ゑむ寒中のプランター
祝ぎごとの待たるる日々よ冬木の芽
日脚伸ぶ生きてゐる影從へて


〔Web版特別鑑賞〕俳句は日常の中にある文芸だ。旅や日帰り吟行に限らず、おおかたは個々人の生活の中で詠まれている。「買初は丸善八十路おろおろす」は新年の句。「丸善」といえば梶井基次郎の小説「檸檬」を思い出す。鬱屈した主人公が爆弾に見立てたレモンを文具書店の丸善に置いて立ち去る話が懐かしい。昨今の丸善は近代的なビルに生まれ変わり、品揃えの多さだけでなく、さまざまなスペースがある。おろおろするのも無理はない。「隙間風無きマンションのありがたき」。昨年暮れに退院した主宰はいったん埼玉へ行ったものの、日頃人が住んでいない家の寒さに堪え兼ねて東京へとんぼ返り。マンションの密閉性の高さに対する感動を詠み、これもユニークな句になった。「芝枯れて日を撥ね返す石の黙」「日脚伸ぶ生きてゐる影從へて」。いずれも冬の景を丹念に写生しながら、作者の心持ちを端的に映している。2句を並べて読むと「石の黙(もだ)」から「生きてゐる影」へと少しずつ気持ちが明るくなっていく様子がうかがえる。「祝ぎごとの待たるる日々よ冬木の芽」はまさに心の支え。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
芙蓉枯れ光り失せたる銀の匙(加藤弥子)
荒縄の太き木組や北閉ぢる(浅野照子)
白菊を霊峰として菊花展(野村えつ子)
快速通過一歩も引かぬ懐手(中島節子)
大向うの声より高く大嚔(堤 靖子)
寄せ墓に家紋残りて龍の玉(向田紀子)
分校の庭の犬小屋山眠る(新井洋子)
冬の川波光り合ひ走り合ふ(束田央枝)
これ以上燃えぬ寂しさ冬カンナ(坪井信子)
蛇穴に入り損ねし日和かな(高久知恵江)
朝靄の消えぬ盆地の冬菜畑(貝塚光子)
アパートの集合ポスト寒波来(大野ひろし)
天井に声のあつまる寒稽古(鶴巻雄風)
冬もみぢ夢二の郷の女旅(吉崎陽子)

花暦集から
鳥居から長き参道冬紅葉(福岡弘子)
一の文字連ね霜月落語会(山室民子)
冬夜明けアイソン彗星砕け散る(小西共仔)
暮れ行けば枝より黒き木守柿(市原久義)
もも色の雲を目指して都鳥(矢野くにこ)
備忘録のメモ取り違へ冬ざるる(小泉千代)
板場冬明治の俎板脚つけて(森永則子)
音もなく炎えたつ落暉寒暮かな(松本涼子)
二の酉や手締めも湿る雨模様(高橋郁子)
辛口の酒に酔ひけり枯木宿(田 澄夫)
謎解きのやうに開きし冬の薔薇(長野克俊)
仲見世の人さんざめく師走晴(曽根菊江)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【26年2月の活動予定】
 4日(火)さつき句会(白髭)
 8日(土)若草句会(俳句文学館)
10日(月)舘花会(事務所)
12日(水)連雀句会(三鷹)
13日(木)秋冬会(事務所)
14日(金)花暦吟行会(湯島天神・旧岩崎邸)
17日(月)花暦例会(俳句文学館)
20日(木)板橋区会(中板橋)
22日(土)木場句会(築地社会教育会館)
25日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
26日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
28日(金)天城句会(俳句文学館)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
艸俳句会カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
744位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
小説・詩
19位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR