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『花暦』ダイジェスト/平成26年5月号

暦日抄   舘岡沙緻

さくら咲き駅に電光掲示板
若芝の起伏の先の水光り
春光に児の手児の足影跳ねて

 一木会・日比谷
雨の噴水風の飛沫を額に受く
雨もよし鳥語とだえし薔薇の園
薔薇の芽や昭和をいまに公会堂
心平らに紫陽花の新芽にも
花冷の帝国ホテルの絹の靴

 金沢行
金沢のさくらはいかに仮寝して
わが句碑はわが子と花の旅にあり
五重の塔に会はまく桜意(こころ)にす
かんばせは観音顔に桃の花
旅なれや起居ゆるやか芦の角

 気多大社
「気」の一字たまはり花の能登にあり
生れ月の句碑薫風をほしいまま


〔Web版特別鑑賞〕今月の暦日抄は後半に「金沢行」の句が並んでいる。今年1月の本欄でも触れたが、石川県羽咋市にある名刹、妙成寺に主宰の句碑が建立される。完成が近づき、現地へ赴く機会が多いようだ。「わが句碑はわが子と花の旅にあり」。桜の咲く能登を巡りながら、句碑が自分の子のように愛おしく思えてきた感慨を詠んでいる。主宰にとっては、3年前に上梓した第5句集に続く6番目の子となる。妙成寺の五重塔は国の重要文化財でもある。「五重の塔に会はまく桜意(こころ)にす」は、そこに咲く桜との対面を前にした心境か。「生れ月の句碑薫風をほしいまま」。5月は主宰の誕生月。薫風の中、入魂開眼の迫った句碑は颯爽としている。そこには「花あらば幸あらば塔とこしへに」と刻まれている。それにしても、旅吟とはいいものだ。日常とは異なる時間と空間の中で思いがけない句も生まれる。「『気』の一字たまはり花の能登にあり」もそんな一句。羽咋市の気多(けた)大社は、その名の通り、多くの気が集うパワースポットとして人気がある。上五、中七の措辞から主宰ならではの洒落っ気が漂ってくる。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
島育ちお椀の底の海苔の砂(池田まさを)
声で身を奮ひたたせて揚雲雀(野村えつ子)
薄氷に張りつむ脆さありにけり(岡崎由美子)
聖路加の塔の灯春を眠らしぬ(堤 靖子)
腰かけるだけのふらここ老いぬれば(新井洋子)
春雪の音なき夜となりにけり(坪井信子)
昏れゆくや肝のにがみも焼栄螺(高久智恵江)
紅梅の雨に灯れる写経場(針谷栄子)
背山より伐採音や春疾風(高橋梅子)
笹の葉をゆらして落ちる春の雪(鈴木えい子)
涙として込み上ぐるもの春浅し(大野ひろし)
うしろ手の男一人の梅見かな(安住正子)
配膳の卓に色良き恵方巻(河野律子)
水鏡消ゆるところの薄氷(松川和子)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【26年5月の活動予定】
 1日(木)花暦吟行会(葛西臨海公園)
 3日(土)秋冬会(事務所)
 5日(月)舘花会(事務所)
 8日(木)舘花会(事務所)
10日(土)若草句会(俳句文学館)
13日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
14日(水)連雀句会(事務所)
19日(月)花暦例会(俳句文学館)
23日(金)天城句会(俳句文学館)
24日(土)木場句会(江東区産業会館)
28日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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