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『花暦』ダイジェスト/平成26年7月号

暦日抄   舘岡沙緻

 席題四句
竹寺や風の素通る夏料理
食通の時彦好み夏料理
昭和のポスター治部煮仕立ての夏料理
夕波に入日金色夏料理
丈競ひあふは学ぶや松の芯
松の芯昭和ごころを忘れまじ
竹秋や男の腰の皮ベルト
一人暮し二人暮しや梅雨に入る

 誕生日に薔薇籠をいただく
紅薔薇を湯に遊ばせて誕生日
癌増えてゆく身や昼の薔薇風呂に
白昼夢かも薔薇風呂に溺れたし
薔薇心中臓に五つの癌育ち
薔薇の字を丁寧に書き薔薇増やす
青児・かほる亡き高原の薔薇館
焼灼手術待つや紅薔薇黝々と

〔Web版特別鑑賞〕今月は薔薇の句が7句も並んでいる。主宰の師でもある富安風生は「俳人たるもの薔薇ぐらい漢字で書けなければだめだ」と指導したという。例えば風生には「皹といふいたさうな言葉かな」「寒といふ文字の一劃々々の寒さ」などの句がある。これらについて風生は「漢字というものは一字一字つくづくと、見れば見るほど不思議な力をもって訴えて来るものである」と述べている。主宰の<薔薇の字を丁寧に書き薔薇増やす>はまさに風生の教えを体現した句。薔薇を前に「薔薇」「薔薇」と丁寧に書いているうちに薔薇の花がどんどん増えていく感覚になったのだろう。「俳句は言葉の粋」も風生の言。<白昼夢かも薔薇風呂に溺れたし><薔薇心中臓に五つの癌育ち>。主宰は肝臓に癌を抱える身。白昼の薔薇風呂に入れば、こんな空想の句も生まれる。いっそのこと癌に身も心も捧げてしまおうかという気持を「薔薇心中」と、まるで舞台劇のような言葉で表現した。<青児・かほる亡き高原の薔薇館>。原田青児は朝鮮生まれの俳人。昨年、93歳で亡くなった。薔薇好きで伊豆高原の自宅に薔薇園を造ったという。青児には「薔薇よりも濡れつつ薔薇を剪りにけり」の句がある。「咲き次ぎて冬薔薇となる人もまた」は原田かほるの句。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
ふらここを降りる一歩によろめけり(加藤弥子)
風生桜しだれて命あかりかな(野村えつ子)
しばらくは潮の香の道桜どき(春川園子)
花堤尽きたる先の人家の灯(岡崎由美子)
マッカーサー道路開通夏来る(中島節子)
児はすでに砂で遊びし潮干狩(新井洋子)
キャベツの葉きちきち剥がす夕厨(長谷川きよ子)
春曇泣く子手をひき抱きもし(斎田文子)
清明の水たつぷりと水屋甕(針谷栄子)
苧環の花咲く庭に山の風(田村君枝)
夕燕河川改修の泥匂ふ(森永則子)
噴水の俄に高き暴れやう(大野ひろし)
白粥を吹いて八十八夜かな(山本 潔)
吊橋のロープ引き合ふ芽吹山(長野克俊)

花暦集印象句から
短夜や一番電車に黙の客(市原久義)
名刹のまさに見頃の牡丹かな(福岡弘子)
驟雨去り瀬戸大橋を渡り切る(小西共仔)
初燕昔国宝薬師堂(鳰川宇多子)
朝顔の双葉に日ざし濃くなりぬ(山室民子)
引つ越しの部屋に残りし花の冷(鈴木正子)
頭から食みし稚鮎のにがみかな(松成英子)
雨あがる山の工房朴一花(横山靖子)
たとう紙の紐のゆるみや更衣(吉田スミ子)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【26年7月の活動予定】
 1日(火)さつき句会(白鬚)
 2日(水)花暦吟行会(小石川後楽園)
 8日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
 9日(水)連雀句会(三鷹)
10日(木)舘花会(事務所)
12日(土)秋冬会(事務所)
14日(月)舘花会(事務所) 
19日(土)木場句会(江東区産業会館)
23日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
25日(金)例会・天城・若草合同句会(俳句文学館)

『花暦』ダイジェスト/平成26年6月号

暦日抄   舘岡沙緻

 妙成寺・他
生れ月の句碑の誕生能登は初夏
海音も生れし句碑祝ぐ五月かな
青葉潮五重の塔へ風起す
嬉々として入魂の句碑夏日浴ぶ
句碑誕生塔の荒石夏日撥ね
竹の秋入魂の碑は黒御影
石楠の一花はわれか句碑誕生
白藤にむらさき藤に水の音
寺親しければ藤さへ親しかり
こぼれさう白芍薬に寺の風
寺の蛇句碑のぞかむと穴を出る
人声に出でしばかりの蛇洞へ
シャッター音一目散に寺の蛇
走り根に蹉くまいぞ木下闇
名塔を父母とし仰ぐ夏の風


〔Web版特別鑑賞〕石川県羽咋市の妙成寺に主宰の句碑が完成し、入魂式が行われた。その様子は地元紙の北國(ほっこく)新聞(5/12付)にも紹介された。今月の暦日抄は「妙成寺・他」の前書を付けて15句全体が連作になっている。<嬉々として入魂の句碑夏日浴ぶ>。時に、俳句は擬人法を用いて表現する。この句はまさに今、魂が入った句碑を人格化して詠んだ。上五の「嬉々として」と下五の「夏日浴ぶ」が見事に響き合い、生命感に溢れている。このように擬人法をうまく使えば豊かな表現になる。<竹の秋入魂の碑は黒御影>は一見説明的だが、何度も読むうちに御影石に映り込んだ風景までもが目に浮かんでくる。上五に置いた「竹の秋」が効果的だ。<青葉潮五重の塔へ風起す>は写生句。「青葉潮」は5月ごろに太平洋岸を流れる黒潮を漁師たちがそう呼んだことに由来する。今では、新緑のころに勢いよくさし込む潮として幅広く使われている。能登の潮が巻き起こす海風が妙成寺の五重塔へ吹いてくる。<名塔を父母とし仰ぐ夏の風>も同じ海からの風か。中七の「仰ぐ」の後には「句碑」が省略されている。それは作者の分身として永遠に存在していく。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
駅弁の御飯真つ白仏生会(加藤弥子)
ひとり来てぞろぞろと来て春祭(池田まさを)
春の田となりて近江の暮るるなり(野村えつ子)
仏具屋の白檀の香や鳥曇(岡崎由美子)
堰を越す水に音生れ菖蒲の芽(中島節子)
へろへろに疲れて睡る暮春かな(堤 靖子)
太縞の紺ネクタイや五月病(向田紀子)
身にまとふ花冷といふ美しきもの(矢野くにこ)
汐引きし運河の春の昏さかな(森永則子)
棚雲に日の宿りゐる彼岸かな(中村松歩)
アネモネや眠れぬときはそのままに(岡田須賀子)
鶯の次の声待つひとりかな(工藤綾子)
目刺焼く働けるだけ働いて(安住正子)
一人づつ抱きしめられて卒園す(長野克俊)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【26年6月の活動予定】
 3日(火)さつき句会(白鬚)
 5日(木)花暦吟行会(明治神宮御苑)
 7日(土)秋冬会(事務所)
 9日(月)舘花会(事務所)
10日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
11日(水)連雀句会(事務所)
12日(木)舘花会(事務所)
16日(月)花暦例会・若草合同句会(俳句文学館)
25日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
27日(金)天城句会(俳句文学館)
28日(土)木場句会(江東区産業会館)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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