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『花暦』ダイジェスト 平成27年1月号

わがよきこと人のよきこと初暦 富安風生
歌留多とる声や門前過ぐるとき 岸風三樓


暦日抄   舘岡沙緻

あらたまの生命清しき冬牡丹
寒牡丹朱の床几を従へて
学問の杜をしとねに冬牡丹
年の瀬やいくたび暦見返しぬ
乾ききる落葉に心託しをり
哀しめば病む身一つに冬の雲

   升本
江戸老舗の亀戸大根に杓の水
忘年や集ひて貝の蒸籠飯


〔Web版特別鑑賞〕俳人にとって新年詠は格別なものに違いない。新しい年を迎えて山川草木にも、生活の場にも淑気が満ちてくるのを感じて詠むのである。とはいえ、主宰ともなれば、1月号に合わせて新年詠を用意しなければならない。<あらたまの生命清しき冬牡丹>。新年への思いが十分込められている。「あらたま」は「璞(粗玉=あらたま=)」であり、まだ磨かれていない玉のこと。「あらたまの」で「年」や「月」「日」にかかる枕詞となるが、この句では「生命」にかけている。寒風の中に咲く寒牡丹。その清々しいまでの姿を己の心に投影させた。<寒牡丹朱の床几を従へて>。粛然と咲く寒牡丹はまるで床几を従えているようだという。朱色を白い牡丹との対比と受け止めてもいいが、それを圧倒するような真紅の牡丹を連想してみたい。
 ところで、先師・富安風生は「毎年十一月頃になると、諸方の需(もと)めで新年俳句を作らされる。小春の日さす机に向って新年俳句を捻り出すことは相当な苦労である」と書き残した。「根性を授からんとぞ初詣」は、高名な俳人なりの心情を吐露したユニークな一句と言っていい。「我も折れていはるるままに寝正月」となると、もはや開き直りの心境か。
 <江戸老舗の亀戸大根に杓の水>は花暦忘年会での嘱目吟。「亀戸大根」は「お多福大根」とも呼ばれる伝統野菜。亀戸の老舗「升本」が契約農家を通じて復活させた。「大根」が冬の季語。<忘年や集ひて貝の蒸籠飯>は、あさりの蒸籠飯をしみじみと味わいながら、暮れてゆく1年への思いを詠った。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
堰落つる水の勢ひや草紅葉(加藤弥子)
塩田てふ濡れ砂を掻く秋暑かな(根本莫生)
哀しみの襞たたむかに秋扇(浅野照子)
土瓶蒸夜風は山へかへりけり(野村えつ子)
拾はれぬままに朽ちゆく落し文(相澤秋生)
一葉忌マニキュアの青試しみる(中島節子)
島七つ数へて秋の能登路かな(堤 靖子)
風音に秋の別れを惜しむかな(坪井信子)
菊人形命の水をいただきぬ(斎田文子)
いつもなら仕事の時間鰯雲(山本 潔)
そぞろ寒魚屋ゴムの長前掛け(岡田須賀子)
露天風呂へ墜ちて来さうな冬の月(鶴巻雄風)
漆黒の梁剥き出しに秋気満つ(長澤充子)
着せ替へて菊人形の塵を掃く(田 澄夫)

印象句より
秋雲の下に秋雲行き交へり(市原久義)
冬めくや夕日に富士の赤々と(福岡弘子)
百花園の古き歌碑にも朝時雨(小西共仔)
災害を語る勤労感謝の日(鈴木正子)
オリオン座近く大きく冬の旅(松成英子)
日本海沖より冬が少しずつ(横山靖子)
朝より重たき雲や冬始め(鳰川宇多子)
水路脇抜けくる風も冬立ちぬ(山室民子)
山裾の少しの明り渓紅葉(吉田スミ子)

◇俳句界(12月号)「全国の秀句コレクション」
 編集部選
顎上ぐれば麦藁帽子の影もまた(市原久義)

◇俳句界(12月号)投稿欄 豊田都峰選 秀逸
村祭神馬の足の太かりき(安住正子)

◇俳句界(11月号)付録 俳句手帳
凍鶴の少し動きて糞りにけり(安住正子)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【27年1月の活動予定】
 3日(土)秋冬会(事務所)=都合により中止=
 6日(火)さつき句会(事務所)
 8日(木)花暦吟行会(花園神社)
10日(土)若草句会(俳句文学館)
12日(月)舘花会(事務所)
13日(火)花暦幸の会(事務所)
14日(水)連雀句会(事務所)
15日(木)舘花会(事務所)
17日(土)木場句会(江東区産業会館)
19日(月)花暦例会(俳句文学館)
23日(金)天城句会(俳句文学館)
28日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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