すみだ句会(平成28年4月27日 墨田産業会館)
高点4句
麦の秋土偶の乳房豊かなる 長澤 充子
夕日まだ山にありたる春田打 野村 えつ子
落人の峡の深さや遅桜 高橋 郁子
瘤多き幹に巣箱の新たなる 市原 久義
鳶の舞ふ浜の駅舎に春惜しむ 飯田 誠子
庭を掃くエプロンの人チューリップ 大野 ひろし
桐高く咲くや町家の材木屋 岡田 須賀子
亀鳴くや金庫に眠るマイカード 福岡 弘子
薔薇活けてひとり迎ふる誕生日 長澤 充子
遍路笠後ろ姿にある愁ひ 高橋 郁子
汽水湖の足裏で漁る大浅蜊 市原 久義
高遠の悲話よ紅濃き花吹雪 貝塚 光子
城跡の走り根荒し雀の子 森永 則子
乾門薄墨桜雨雫 江沢 晶子
師の息災禱るばかりや花は葉に 野村 えつ子
テレビ観る夫の解説五月蠅 鳰川 宇多子
亀鳴くや紙を吐き出す血圧計 斉田 文子
春昼の律儀なる音を古時計 岡戸 良一
伸び悩む葱の花にも昼と夜 山室 民子
『山暦』2016.4
主宰=青柳志解樹
東京都世田谷区
主宰作品「朧」(12句)より
猫柳老いて歳月やはらかし 青柳志解樹
乳牛の貌のいづれも朧なり 同
里山やあそびごころの春の月 同
午後からの風は辛夷を散らす風 同
夜桜を観むと深夜の家を出づ 同
『草林』平成28年4月号
主宰=雨宮抱星
群馬県富岡市
「淬礪(さいれい)抄」(12句)より
豆を撒く米寿のこゑを撓はせて 雨宮抱星
つづけての欠伸春月雲に逃げ 同
まだ動きにぶき真鯉や水温む 同
あたたかや園児動画の主となる 同
4月を詠う
空晴れてけふ咲く花はけふの花 中村恭子
出掛けたくなるよな春の大き月 大木正子
花は葉に晩学の歩は遅々として 東宮静江
川底に届く春の陽輝やきて 斉藤悦子
若草句会(平成28年4月9日 俳句文学館)
兼題「花筏」/席題「解」
高点4句
春の昼柱時計は標準時 根本 莫生
とれたての野菜にまじる花の屑 針谷 栄子
俳諧に正解はなし春闌くる 新井 洋子
春眠の底にナウマン象の牙 坪井 信子
漣のしづかに組める花筏 安住 正子
大利根の水の光や猫柳 飯田 誠子
野遊びや桜田麩と炒卵 新井 洋子
しやぼん玉少女の息が空を舞ふ 市原 久義
暖かや犬と観戦草野球 大野ひろし
春雷や珈琲豆に筋はしり 加藤 弥子
失望の重きこころを解くさくら 坪井 信子
マンションの居並ぶ街へ花散り来 根本 莫生
古書店の解剖書巻柳絮飛ぶ 針谷 栄子
車座を繋ぐ犬の背花筵 森永 則子
初つばめ丸き地球を飛んで来し 矢野くにこ
鋳造の蟹も蛙も目借時 山本 潔
連雀句会
(平成28年4月6日 三鷹市消費者センター)
高点3句
焼目刺かなしきまでに反り身なる 加藤 弥子
ラップされし春のキャベツの断面図 斎田 文子
百の掌の百の祈りや彼岸墓 坪井 信子
帰りはも杖さへ重き花疲れ 安住 正子
満開の花を横目に医に通ふ 進藤 龍子
風を漕ぐ無人ブランコ昼下り 根本 莫生
残花ふぶく村は谷ぞい岨の道 松成 英子
諸鳥の恋や神樹の傘の内 矢野くにこ
海明や物みな動くオホーツク 横山 靖子
(記:坪井)
「暦日抄」 舘岡沙緻
遠嶺の白のうすらぐ春の幸
学ばむと暖炉を納め来たりしに
いくとせを友とし学ぶ春暖炉
八十路われこれよりの日の春日かな
ひさに会ふ双手包みに春ぬくし
春ひと日病む身忘れし白き卓
「花暦」休刊
初花や堀よりの風八十路髪
俳誌『花暦』は今月号で休刊となる。通巻第219号。「暦日抄」もそれと同じ回数を重ねてきた。主宰は第一句集『柚』(昭和54年)の復刻版を平成23年に「俳句四季文庫」に加える形で上梓した。そのあとがきで「『俳句は日記』という亡き岸風三樓師の教えどおり、現在も自分自身のこと、日常を、折りに触れて詠っています。師は『俳句は履歴書』とも申しました」と書いた。その姿勢は『花暦』の休刊を迎えた今も変わらない。
<遠嶺の白のうすらぐ春の幸>。18周年記念大会を間近に控えた日の心境だろうか。遠くの山々の雪が解けてきた様子を書き留めながら、春を感じている。まるで自分自身が春そのものであるかのように。<ひさに会ふ双手包みに春ぬくし>は大会の日。久々に会った弟子たちとの触れ合い。差し出した手が相手の両手に包まれたときの温もりに春を感じている。<春ひと日病む身忘れし白き卓>は祝宴のテーブル。癌を抱えていることを忘れて楽しむひととき。
<初花や堀よりの風八十路髪>は休刊を迎えた『花暦』への挨拶句。毎年、大会が行われてきたアルカディア市ヶ谷は外濠沿いの桜並木に面している。春が来るたびに、ここで気持ちを新たにして俳句に取り組んできた。『花暦』は主宰自身である、といっても過言ではない。そんな自分に吹く堀からの風はどう感じられたのか。「暦日抄」は今後もこのブログを通じて発表していただきたいと願っている。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
蒼天や発止と白き寒ざくら 相澤 秋生
湾一望冬のヨットの動かざる 春川 園子
建国の日や腕白の書き方帳 岡崎由美子
大鉢を棚の奥より初昔 中島 節子
ここにきて生き急ぐなよ竜の玉 堤 靖子
雪掻きの音堅くなる夕かな 向田 紀子
根曳の松を飾る町家の京格子 中村 京子
背ナよりの夜のしづけさ雪催 飯田 誠子
言葉かるく路上の別れ春の雪 森永 則子
冬深く引つ越しのごと君逝けり 大野ひろし
母と子とわれの息災鬼やらひ 新井 由次
霜柱踏めば音して輝ける 工藤 綾子
春立つやからくり時計動き出す 長野 紀子
すれ違ふ都電カラフル寒ゆるぶ 高橋 郁子