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花暦:春夏集作家往来

  少女の息が   市原 久義

溜池の風が押し遣る薄氷
画布絵皿遺るアトリエ冴え返る
しやぼん玉少女の息が空を舞ふ
汽水湖の足裏で漁る浅蜊捕り
緩き弧を描き棚田の植ゑらるる


  フーテンの猫  福岡 弘子

列に並ぼうかやめよか桜餅
爺ちやんが本気で将棋子供の日
日盛や回廊暗き修道院
フーテンの猫も戻りしお盆かな
山寺の色なき風に芭蕉句碑

(「花暦」2016年上期号より)

花暦句会報:東陽(平成29年1月28日)

東陽(江東区産業会館) 
席題 「探梅」「寒」

高点4句  
奔放に生きて悔なし寒椿       長澤 充子
鷽替や死にたき生と生きたき死    浅野 照子
大寒や鋼のごとき市の魚       野村えつ子
探梅や尾根に迫れる住宅地      市原 久義
      
聖堂の灯り寒夜の更けにけり     堤  靖子
探梅や曽我兄弟を知らない子     浅野 照子
福猫の肥えて長寿や明けの春     長澤 充子
ひと言の意(こころ)は深し冬の梅  新井 洋子
生きてゐる限り夢あり初みくじ    野村えつ子
風に立ち風に崩れる寒怒涛      飯田 誠子
齢重ね何より旨し寒の水       貝塚 光子
寒夕焼大樹條々(えだえだ)天を射し 岡戸 良一
大寒の発電パネルフル稼働      市原 久義
                       (清記順)

花暦:春夏集作家往来

  ひとり夜の   長澤 充子

薔薇活けてひとり迎ふる誕生日
ディーゼル車切替駅の青葉風
ひとり夜の想ひ出廻り水中花
不揃ひの砂場の棚の青葡萄
京焼の小鉢にもられ菊膾


  変はるかも   吉﨑 陽子

主なき書棚の隅の春日影
雛納め少し酔ひたき赤ワイン
カルメン撥ね昂りのまま花の闇
七変化わたしもきつと変はるかも
滝しぶき浴びて一瞬賢者顔


  巻き戻す    松川 和子

どんど焼き灰の縄目の赤きまま
巻き戻すビデオのやうに雛納
北国の番屋の跡や夏燕
ふんわりと乗りし剣玉夏祭
打ち水のホースゆるりと伸びにけり

(「花暦」2016年上期号より)

花暦句会報:すみだ(平成29年1月25日)

すみだ句会(墨田産業会館)

高点2句
梵鐘の余韻の凍つる京の朝    大野ひろし
歌留多切る坊主か姫か恋歌か   長澤 充子

弓形の日本列島北風吼ゆる    岡田須賀子
蠟梅を透くる光の濃く薄く    市原 久義
電飾の道に手袋踏まれずに    大野ひろし
雑煮餅差し歯取られて間抜け顔  桑原さかえ
寒夕焼電車のドアに凭る青年   岡崎由美子
夕明り指呼に降りくる冬の鷺   貝塚 光子
街に舞ふ風の気ままに六の花   工藤 綾子
道導失せて迷ひて去年今年    長澤 充子
寒波来る下り特急灯を列ね    加藤 弥子
繕はず齢重ねて着ぶくれて    高橋 郁子
樟脳の匂ふ隠居と御慶かな    福岡 弘子
                     (清記順)

花暦:春夏集作家往来

  羽音の中   安住 正子

二月礼者ハーレーの音響かせて
飛魚や能登の舳倉へ波畳
藤の花羽音の中にゐて一人
栗おこは提げて竹馬の友訪はな
百磴を来て城跡のこぼれ萩


  余生本番   鶴巻 雄風

調律の仕上げのタンゴ爽やかに
農を継ぐ子に新調の稲刈機
秋麗や紺しぼりだす日本海
ここよりは余生本番茱萸の酒
長風呂を妻が見にくる初時雨


  姿のままに  高橋 郁子

浅き春大鯉池の底を打つ
白椿姿のままに錆びにけり
一刀を浴びたるごとし蝉の殻
墓守のごとく燃え出づ彼岸花
鴨来る夕景の湖騒がせて

(「花暦」2016年上期号より)

花暦:春夏集作家往来

  遠退くばかり 岡田須賀子

梅雨湿り庭の箒の先曲がり
ふる里は遠退くばかり流れ星
台風下力士幟の色ちぎれ
月の客待つ縁側の将棋盤
空つぽの鳥籠軒に秋の風


  見えるかい  貝塚 光子

蜆舟湖の朝靄濃かりけり
城堀の橋裏青き蔦渡る
鯔とんでスカイツリーは見えるかい
スカイツリーの秋燈揺るる隅田川
名月や五百羅漢は徳利持ち


  仏も入れて  工藤 綾子

会釈するのみの付き合ひ雪柳
幸せの尺度は己茄子の花
師の訃報牡丹うつろに咲きにけり
ソロバン塾窓全開に青葉風
人数に仏も入れて西瓜切る

(「花暦」2016年上期号より)

花暦:秋冬集作家往来

  ボスの風貌   飯田 誠子

潮騒の音の尖りや野水仙
種袋振りて命の音高く
金魚にもボスの風貌ありにけり
秋扇の開くことなく旅終る
水底の小石青めく秋の川


  塞ぎの虫    森永 則子

浜砂の線の幾筋寒旱
塞ぎの虫蹴散らす花菜明りかな
言葉軽く路上の別れ春の雪
早立ちの門夏帽の一家族
橋涼み川辺の石に日の火照り


  単身赴任    山本  潔

城壁の一辺崩し春の地震
薬缶なき単身赴任半夏生
いかづちや線量計といふ異物
おととひの疲れをけふに吾亦紅
妻と来て浄土平の草紅葉

(「花暦」2016年上期号より)

花暦句会報:若草(平成29年1月14日)

若草句会(俳句文学館)
席題「初」

高点4句
少年の背筋正しく初電車       岡崎由美子
寒灯赤いキャップの醤油差し     岡崎由美子
中天の鳶を捉へし初明り       市原 久義
雪しまく津軽じよんがら聞きをれば  新井 洋子

初夢の母と晴着の帯合せ       飯田 誠子
亡き人を待つ膝掛と車椅子      針谷 栄子
指先をからかふ寒の静電気      坪井 信子
読初や窓の日差しのやはらかく    岡戸 良一
満員のマスクのどつと降り来たる   新井 洋子
初夢のうつつ師のこと句誌のこと   市原 久義
寒のレタス食めば命の弾む音     加藤 弥子
君の手の掃ふベンチの橡落葉     岡崎由美子
大根を眩しき無垢に洗ひあぐ     矢野くにこ
巻頭の友の句讃ず初句会       森永 則子

(清記順)

花暦:秋冬集作家往来

  風を拒みて   針谷 栄子

とれたての野菜にまじる花の屑
人体を走る血管青嵐
手鏡の指紋の曇り夜の秋
屋久杉の家具の木目や涼新た
鶏頭の風をこばみて母の忌来


  道しるべ    高橋 梅子

春耕の日差し平らに千枚田
映像の文字読み切れず新茶汲む
空蟬の掴む大事な道しるべ
独眼竜の像に北吹く奥州路
暗がりの男ささやく除夜詣


  空は真青に   中村 京子

冷し飴飲みて主宰を想ひをり
廃校に残る鉄棒夏の草
昆布干す納沙布岬眼裏に
「子供宣言」空は真青に広島忌
昭和・平成生きて八十路や曼珠沙華

(「花暦」2016年上期号より)

花暦句会報:連雀(平成29年1月4日)

連雀句会(三鷹コミュニティセンター)

高点5句
入院も又よきかなと初笑ひ     進藤 龍子
病院のベッドで拝む初日かな    進藤 龍子
病床にウィーンフィル聴く明の春  進藤 龍子
数へ日や珊瑚の色の輸血管     坪井 信子
日記果つ書かざることも閉ぢこめて 飯田 誠子

初鏡拭けども消えぬ吾が齢     加藤 弥子
後戻り出来ぬ人生初御空      矢野くにこ
初鏡今更ながら老の髪       田崎 悦子
書初を子等に教へる至福かな    春川 園子
骨折の痛み癒え初みお節食ぶ    進藤 龍子
走り根の抱く大地の凍ててをり   松成 英子
冬満月とり残されし老一人     束田 央枝
行く年や川面の濁る浚渫船     飯田 誠子
花活けに水を注ぎ足す三日かな   向田 紀子
新春や駅伝走者拳あげ       中島 節子
病院の白き迷路も年の暮      坪井 信子

                      (清記順)

花暦:舘花集作家往来

  一刻の黙    岡戸 良一

春昼の律儀なる音を古時計
茅花流し休耕田の暮れ残る
一刻の黙のありけり河鹿宿
草の穂や円空仏は笑み湛へ
龍勢の白煙高く柿の秋


  じやらし上手  矢野くにこ

万緑の要となりし虚子の句碑
雨風に色褪めながら夏桔梗
猫じやらしじやらし上手な風のくせ
かな文字のうす墨にほふ十三夜
曼珠沙華燃やす忍者の屋敷跡


  身の丈に    斎田 文子

世に疎くなりし暮しの豆の飯
全身で歩き初むるや風光る
初蝶の黄色い花に紛れゆく
蓮の葉の身の丈に合ふ水の玉
家揺らすビルの解体秋暑し

(「花暦」2016年上期号より)

花暦:舘花集作家往来

  遊行柳     新井 洋子

あらたふと室の八嶋の青蛙
遊行柳植田明りの中にあり
関跡の土の湿りや茸生ふ
身に入むや日和山より被災地を
支那蕎麦を旅の締めとし虫の夜


  通りやんせ   坪井 信子

辻芸の毬は光に春の空
春眠の底にナウマン象の牙
風よ通りやんせ網戸は洗ひたて
奥多摩の山気身に添ふ岩魚膳
存へて水の地球の露を踏む


  風を呼ぶ    束田 央枝

七七忌修す寧けさ沙羅の花
風を呼ぶ迎へ火勢ひ増しにけり
掃苔や水たちまちに乾きゆく
雨催ひまだ不揃ひの曼珠沙華
秋薔薇に蔓の巻きつく一人住み

(「花暦」2016年上期号より)

花暦作家近詠

  誰の手が    相澤 秋生

蔦紅葉這はせ城垣の天へ反る
山茶花の散り敷きてなほ咲き満てる
誰の手が揺らす梢か落葉降る
秋灯を刺繍の妻と頒ちけり
海見ゆる窓も塞ぎぬ冬構


(2016年12月29日投句)

花暦:舘花集作家往来

  主婦に丸    中島 節子

トーストを焦がしてしまふ朝曇
花茄子や職業欄の主婦に丸
イグアナに敵と視らるる秋暑かな
一閃の稲妻窓に夫は留守
下山の背夕かなかなに押されゐる


  とろりとろりと 堤  靖子

死の話老いのはなしや桜咲く
楽しみは病院裏に飛ぶ蛍
紫陽花や何色に髪染めようか
大川のとろりとろりと大暑かな
あさがほや声の似てゐる姉妹


  眠たげに    向田 紀子

ビー玉のやうに転げて青柚かな
苦瓜の曲がるにまかせ恙無し
無花果の皮の危ふさ夢二の忌
噴煙の勢ひを指呼に草紅葉
乳牛の眠たげに臥し空澄める

(「花暦」2016年上期号より)

花暦:舘花集作家往来

  うれしくて    相澤 秋生

残雪も棚田のかたち山古志は
妻と娘と靴脱ぎ捨てて青き踏む
若き日の書き込み多き書を曝す
かざす手の影絵にも似て風の盆
木犀の香のうれしくて歩の緩む


  来し方思ふ    春川 園子

師を偲ぶ薔薇の百花の中に佇ち
長寿知らぬ亡き夫に薔薇供へをり
爽涼や来し方思ふ誕生日
秋灯や長き手紙に封をして
亡夫と聴きし昭和の歌を秋夕べ


  恋の歌      岡崎由美子

寝不足の窓より逃す朝の蜘蛛
船宿の青き網戸の潮湿り
潮錆のバス停ポール月見草
忘れたきことは忘れず吾亦紅
十六夜の路上ライブの恋の歌

(「花暦」2016年上期号より)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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