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花暦句会報:すみだ(平成29年9月27日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点1句
青蜜柑少女未来図描き初む      高橋 郁子

台風一過遠くで物を落す音      大野ひろし
菩提寺のさびれし風や彼岸花     岡田須賀子
地網引く大漁の浜天高し       長澤 充子
島影を沖に奥能登稲架襖       岡戸 良一
駅を出て賑はひ途切れ虫時雨     桑原さかえ
どの草といはず種抱き秋深む     工藤 綾子
新しき電線二条田を守る       市原 久義
夕汐の川に魚影や荻の声       貝塚 光子
顔(かんばせ)の皺も勲章秋なすび  高橋 郁子
畑のものほつこり煮込む秋彼岸    加藤 弥子
灯火親し好きな句集の栞紐      岡崎由美子

                      (清記順)

一口鑑賞地網引く大漁の浜天高し」〜充子さんの句。海を前にした気持ちの良い秋の光景。「大漁の浜」で、地引網をしている人たちの賑わいが聞こえてくるようだ。どんな魚が獲れたのだろう。アジ、カマス、カンパチ…。イカもいそうだ。晴れ渡った空の下、食欲もわいてくる。「どの草といはず種抱き秋深む」〜綾子さんの句。「秋深む」という感覚には格別な味わいがある。単なる感傷ではない。静けさの中で感じる何か。草むらに見つけた秋の深まり。(潔)

花暦句会報:東陽(平成29年9月23日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「虫」「色一切」

高点3句
十秒を切つてシューズの白さやか   市原 久義
万葉の一首添へられ秋の草      岡戸 良一
山雨来るけはひに揺れて吾亦紅    野村えつ子

ミサイルの飛んで野道の曼珠沙華   市原 久義
不動尊の火焔とび火の彼岸花     貝塚 光子
雨の夜のとぎれとぎれて虫の声    長澤 充子
戻り船の吃水深く鰯雲        斎田 文子
かなかなや子規の仰ぎし狭き空    浅野 照子
湖を濡らす雨月でありにけり     新井 洋子
雨あがる秋分の日の句座にあり    野村えつ子
陶片の野面積みより虫の声      安住 正子
睥睨の朱を極めて鶏頭花       岡戸 良一
南瓜ごろり笑ひ上戸の嬶仲間     堤  靖子
                      (清記順)

一口鑑賞湖を濡らす雨月でありにけり」…洋子さんの句。「雨月」は雨のため、中秋の名月が見えないこと。それでも日本人は月を恋うてきた。見えない名月への思いが人の心をかえって鋭敏にする。この句の眼目は「雨月が湖を濡らしている」という見立てにある。雨の降る暗い湖面にまるで「雨月」という月が写っているかのようだ。湖は心の中にある思い出の場所でもいい。(潔)

花暦句会報:若草(平成29年9月9日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「木槿」、席題「久」

高点5句 
悠久の闇より抜けて鹿の声      針谷 栄子
点と点線と点なす吾亦紅       廣田 健二
花木槿すげなく夕日拒みけり     坪井 信子
猫じやらし毟つて投げて反抗期    岡崎由美子
北上川の太き流れや野分晴      飯田 誠子

久々の顔を揃へて菊の酒       岡戸 良一
円周率永久に川風爽やかに      坪井 信子
「寝坊するなよ」ラジオ体操花木槿  飯田 誠子
松手入一枝一葉松に聴き       新井 洋子
忘れものばかりしてをり爽やかに   加藤 弥子
底紅や使ひかけなる亡母の口紅(べに)針谷 栄子
鳴くのなら一つにしてよ庭の虫    石田 政江
風鎮のことりと壁に涼新た      岡崎由美子
この街が今はふるさと木槿咲く    市原 久義
勝ち誇る姿ゆるがず鶏頭花      廣田 健二
立ち食ひの旅のかけそば花木槿    山本  潔

                      (清記順)

一口鑑賞円周率永久に川風爽やかに」…信子さんの句。「円周率永久(とわ)に」「川風爽やかに」を並列した句として解釈してみたい。二つに分けると「永久に」「爽やかに」で脚韻を踏む格好になる。しかも後半は「川風」「爽やか」の中に「a」の母音が連続し、この句をリズミカルにしている。円周率は永遠であり、しかも循環しない。そんなことをあれこれ考えていたとき、川風に秋の清々しさを感じたのである。「円周率」の数字が「川風」に乗っている映像を思い描いてみよう。それは「永久に」「爽やかに」流れていく数字なのだ。こんな句が詠めれば、秋が楽しくなってくるに違いない。(潔)

花暦句会報:連雀(平成29年9月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「九月」

高点2句
故郷の南瓜ごろごろ納屋母屋    矢野くにこ
 曾孫急逝二歳
花えごの一花ほろりとこぼれけり  加藤 弥子

怠慢のおのれ励まし九月句座    進藤 龍子
口語調のなじめぬ読経西瓜食む   向田 紀子
青柿の短かき命拾ひをり      田崎 悦子
秋めくや雲の流れも水音も     春川 園子
師の筆の色紙に適ふ白露かな    束田 央枝
夕顔の実木箱はみ出し駅の市    中島 節子
逝きてより母を身近に天の川    飯田 誠子
苔石の黙や色なき風の中      坪井 信子
望の夜の二人分なる胡麻よごし   矢野くにこ
青柿のしじまに落ちて無為の日々  加藤 弥子
荒鵜一羽引きもどされる篝の火   松成 英子

                      (清記順)

一口鑑賞「花えごの一花ほろりとこぼれけり」…弥子さんの句。「曾孫急逝二歳」の前書きに一瞬、息を飲んだ。えごは落葉高木で、初夏に小さな白い花が下垂する。その一つが「ほろり」とこぼれたのである。戸惑いともつかぬ感情と、力の抜けるような深い悲しみが込められている。「俳句は挨拶」と言われる。それは自然への挨拶と人間への挨拶に分けられる。この句は身内の儚い命への惜別の句。「青柿のしじまに落ちて無為の日々」も悲しみがよく分かる。合掌。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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