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花暦句会報:東陽(平成29年10月28日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「台風」「触」

高点1句
蓑虫の朝日に光る命綱         飯田 誠子

コスモスコスモスパステルカラーの漣  市原 久義
眺めやる雨の象潟合歓は葉に      貝塚 光子
心根を揺らし大型台風来        山本  潔
燈下親し舌頭十転して未だ       新井 洋子
台風一過月光青くしづもれる      飯田 誠子
喉通る水の硬さや冬近し        岡戸 良一
枝つきの柿に触るれば亡夫の声     浅野 照子
有耶無耶の関てふ峠秋しぐれ      堤  靖子

                        (清記順)

一口鑑賞蓑虫の朝日に光る命綱」〜誠子さんの句。「蓑虫」はミノガ科の蛾の幼虫。蓑のような巣に潜み、木の枝にぶら下がっている。何となく親近感を覚えるが、昔の人は鬼の子と考えていた。「鬼の子」「鬼の捨子」とも呼ばれる。この句は、朝日が当たってキラキラ光っている蓑虫の糸を「命綱」と見て取った。小さな生き物への作者の優しい視線が感じられる。「枝つきの柿に触るれば亡夫の声」〜照子さんの句。「枝つきの柿」という具体性が上手い。それを手にした瞬間、亡きご主人との思い出が鮮明に蘇ったのである。一種のフラッシュバック。故人への思いをたった17音で表現できるのが俳句。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成29年10月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
裂織の野良着色なき風に立つ    市原 久義
銀杏の踏まれるばかり学生街    岡崎由美子 
新蕎麦や信濃は山を重ね合ふ    高橋 郁子

十六夜や神話を語る神楽殿     福岡 弘子
満開のコスモスガードレール超ゆ  大野ひろし
天水桶残る湯屋跡ゑのこぐさ    岡田須賀子
秋霖や路面に滲む街灯       長澤 充子
武蔵野に樹々の声聴く暮秋かな   岡戸 良一
山里の一村すすき花盛り      桑原さかえ
歳重ねいよいよ頑固唐辛子     工藤 綾子
伏す妻の乾きし喉に擂り林檎    市原 久義
磑ニキロ巨杉の覆ふ秋気かな    貝塚 光子
世の中の進化に遅れ大根煮る    高橋 郁子
残照の森を透きゐる秋意かな    加藤 弥子
一輪の野菊厠に蕎麦処       岡崎由美子

                      (清記順)

一口鑑賞山里の一村すすき花盛り」〜さかえさんの句。一読して句意は明快。芒(すすき)は秋の七草の一つ。日当たりの良い山野に自生する。山里の村全体に芒が群生し、風になびく花穂が輝いている。懐かしくもあり、物悲しくもある風景を目の当たりにしながら、作者は「花盛り」と言い切ったのである。「世の中の進化に遅れ大根煮る」〜郁子さんの句。IT、AIなど現代社会の進化は著しい。そんな流れについていけない自分にジレンマを覚えながら、もはや諦めるしかないと割り切っている。「大根」は冬の家庭料理に欠かせない食材。技術の進化も大事だが、作者にはもっと大切にしたいものがある。(潔)

花暦句会報:若草(平成29年10月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「稲架」 席題「香」

高点4句
うそ寒の暮れて明るきガード下   岡崎由美子
連山を隠して越の稲架高し     岡戸 良一
水に沿ふ秋の金魚となりにけり   新井 洋子
雨の日の木犀の香のゆきどころ   坪井 信子

岬鼻に居り銀漢をふりかぶり    新井 洋子
団栗やダリの版画のイエス像    山本  潔
宮相撲「相撲甚句」で終りけり   針谷 栄子
灯の透ける釣瓶落しの勝手口    岡崎由美子
里へ下る軽トラ稲架に見え隠れ   市原 久義
香の物添へて新米塩むすび     岡戸 良一
潮騒や稲架の連なる千枚田     廣田 健二
棒稲架や父祖の地にして旅にして  加藤 弥子
猫足の香炉の青磁秋深む      飯田 誠子
次の世は朱鷺に生まれむ香を聞く  坪井 信子

                      (清記順)

一口鑑賞うそ寒の暮れて明るきガード下」〜由美子さんの句。「うそ寒」は「薄寒」から転じた言葉とされ、秋のうちに感じる寒さ。間近に迫る冬への不安を何となく覚えながらも、どこかのガード下の明るさに心惹かれたのだろう。「うそ寒」から「ガード下」への転換に意表を突かれる。新橋や有楽町なら、ちょっと一杯やりたくなるところ。「里へ下る軽トラ稲架に見え隠れ」〜久義さんの句。あちこちに稲の干された山間地の農村だろうか。作業を終えて里へ帰る軽トラが稲架で見えたり隠れたりしている。ただそれだけのことなのだが、作者は少年のような心でその光景を目で追っている。(潔)

花暦句会報:連雀(平成29年10月4日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)

好評8句
冬瓜の白く煮上り一人の餉     進藤 龍子
亡き人の佐渡の句想ふ夜の秋    進藤 龍子
返り咲く菖蒲ひともと夫癒えよ   矢野くにこ
とんぼうの夕べの祈り翅伏せて   矢野くにこ
珍しく秋果購ひ亡妻偲ぶ      根本 莫生
藤村の初恋の君林檎の香      束田 央枝
石榴裂け母家は幽き部屋多し    加藤 弥子
長椅子に臥して秋思の足の裏    坪井 信子

大根蒔くぱらつく雨はよしとして  松成 英子
野仏にうす日とどきし草の花    田崎 悦子
秋の灯に淡く光りてガラスペン   進藤 龍子
無花果やロシアの酒の火のごとし  加藤 弥子
篁の戦ぎこぼせし秋の声      坪井 信子
鳥海山の稜線流し霧疾し      飯田 誠子
飼鳥に診察券ありそぞろ寒     向田 紀子
落暉いま秋白波の日本海      横山 靖子
身に沁むや亡夫の蔵書を処分せり  束田 央枝
ガリ版誌捨てし若き日賢治の忌   根本 莫生
足の痛みよくなる兆し小鳥来る   春川 園子
晩節の足音なりき帰り花      矢野くにこ

                      (清記順)

一口鑑賞珍しく秋果購(あがな)ひ亡妻偲ぶ」〜莫生さんの句。奥様を亡くした後の独り暮らし。埋めようのない心の隙間を抱えた生活の中で、ふと気が向いて仏前に秋果を供えた。「珍しく」と、ちょっと照れてとぼけてみせるところが作者らしい。「身に沁むや亡夫の蔵書を処分せり」〜央枝さんの句。こちらは亡きご主人の蔵書を思い切って処分したのである。その途端に悲しみが心に染み込んできた。秋の寂しさと相まって実感がこもった一句。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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