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花暦句会報:東陽(平成29年11月25日)

東陽句会(江東区文化センター)
席題「綿虫」

高点3句
凩にゆがみさうなる昼の月      野村えつ子
マラソンの黒髪を追ふ雪婆      斎田 文子
綿虫の邪馬台国のやう浮遊      浅野 照子

しがらみを断つて木の葉の降り頻る  市原 久義
道ひとつ隔て花街三の酉       浅野 照子
可愛いと又着せらるる七五三     貝塚 光子
スポットの影さへ美しきスケーター  新井 洋子
黄落の閑けさを踏むスニーカー    安住 正子
山茶花や池の澱みの鯉の鰭      飯田 誠子
冬林檎日々の暮しに気負ひなく    堤  靖子
城址ひとり木の葉時雨の只中に    岡戸 良一
紅葉且つ散るビル街の稲荷堂     野村えつ子
摩崖仏の瞼を濡らす山時雨      斎田 文子

                       (清記順)

一口鑑賞綿虫の邪馬台国のやう浮遊」〜照子さんの句。席題「綿虫」から一気に邪馬台国へとインスピレーションがわくところがこの人らしい。綿虫が浮遊する様子はどこか神秘的だ。それは邪馬台国に秘められた古代ロマンに通じるところがある、とでも解釈すればいいだろうか。綿虫と邪馬台国を理屈抜きに結びつけたところに俳諧味がある。「冬林檎日々の暮しに気負ひなく」〜靖子さんの句。冬の到来とともに世間は年越しの準備などで慌ただしくなる。それでも作者は気負うことなく、一日一日を大事にしている。林檎は日本の果物の代表であり、一年を通じて食べられる。冬の間は風邪の予防にもなるから、食卓には欠かせない。作者にとって「冬林檎」は健康の拠り所なのかもしれない。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成29年11月22日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
山路より低き軒端の掛大根       岡崎由美子
いとけなき花を抱きて冬の草      市原 久義
赤ペンを稿の栞に一葉忌        岡戸 良一

風よりもかろき瀬音や冬の川      加藤 弥子
初時雨江東運河一の橋         岡戸 良一
庭落葉吹かるるままに吾が人生     桑原さかえ
湯婆(たんぽ)抱く一日の終る安らぎに 岡崎由美子
穏やかな午後の日差や落葉掃く     大野ひろし
日和得て橋の欄干ゆりかもめ      長澤 充子
悴む手沙蚕(ごかい)の口に針を刺す  福岡 弘子
静寂の天地を結ぶ滝氷柱        工藤 綾子
落葉焚髪のおくまで燻されて      市原 久義

                        (清記順)

一口鑑賞赤ペンを稿の栞に一葉忌」〜良一さんの句。書き溜めた原稿を推敲していて、ふと疲れを感じたのだろうか。あるいは、お茶でも飲みたくなっただけかもしれないが、持っていた赤ペンを栞がわりにした動作に、ちょっとした緊急性が感じられる。一葉忌は11月23日。夭折の女流作家への想いもマッチしている。「悴む手沙蚕(ごかい)の口に針を刺す」〜弘子さんの句。寒い日の釣りの一コマ。「沙蚕」と聞いただけでゾクゾクしてしまう人もいるだろう。作者は「沙蚕の口」に針を刺しているのである。平然と?恐る恐る?どっちかな。(潔)

花暦句会報:若草(平成29年11月11日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「立冬」 席題「赤」

高点3句
赤心を語り尽くさむ榾の宿      市原 久義
赤々と最上の馬刺冬に入る      針谷 栄子
ふつくらと藁灰冬の来る匂ひ     加藤 弥子

山柿の百顆夕日をちりばめて     岡戸 良一
立冬の光の中に鳩降り来       廣田 健二
生木断つ鉈の一打や冬来る      市原 久義
炬燵する電気コードの癖なほし    森永 則子
飴色の店や灯やおでん酒       新井 洋子
錦秋の東茶屋町師の影と       石田 政江
みちのくの音なき村の紅葉山     山本  潔
わたむしのわたのおもさのただよへり 加藤 弥子
蒟蒻をちぎる役えて芋煮会      針谷 栄子
ダイヤモンド婚とや葛湯でも吹くか  坪井 信子
冬薔薇陶のピエロの涙かな      岡崎由美子

                         (清記順)

一口鑑賞赤々と最上の馬刺冬に入る」〜栄子さんの句。山形県の最上地方は古くから馬の産地。この句は席題「赤」からとっさに詠んだのだろうが、見事な旅吟の出来具合。立冬に訪れた旅先の料理屋。皿に盛った馬刺しが実に鮮やか。ついついお酒が進んでしまいそうだ。「蒟蒻をちぎる役えて芋煮会」〜これも栄子さんの句。芋煮会は東北地方で行われる季節行事。最も盛んなのは山形県だが、最上地方では味噌仕立ての汁に豚肉、置賜地方では醤油仕立ての汁に牛肉。いずれにしても里芋、蒟蒻がたっぷり入っている。作者は蒟蒻をちぎりながら芋煮会を楽しんでいる。(潔)

花暦句会報:連雀(平成29年11月1日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「十一月」

高点2句
名のつかぬ赤子父似や新松子     中島 節子
  「末の孫結婚」
寿ぎの日のしづかに来たりななかまど 加藤 弥子

野分中いのちまるめて雀飛ぶ     加藤 弥子
水底に十一月の杭の影        進藤 龍子
月寒く亡夫の椅子孤独なる      束田 央枝
霜月や墨の匂ひの中にをり      春川 園子
木枯一号警官の帽飛ばしけり     根本 莫生
秋天の蒼にまけじと日本海      横山 靖子
誌に集ふ十一月の花暦        中島 節子
長雨に倦みし朝や鵯の影       向田 紀子
銀行の避難訓練冬に入る       田村 君枝
牧の牛里におろすも十一月      松成 英子
口中に黒飴ひとつ日の糧か      田崎 悦子
階二千喘ぐ羽黒の草紅葉       飯田 誠子
アンデスのうす紅の塩十三夜     坪井 信子

                      (清記順)

一口鑑賞霜月や墨の匂ひの中にをり」〜園子さんの句。「霜月」は旧暦11月の異称。冷え込みが本格的になるが、雪が降るにはまだ早く、「雪待月」とも呼ばれる。作者は書に没頭していたのだろう。気がつけば墨の匂いに包まれている。師走を迎える前のひととき。背筋を伸ばし、凛とした佇まいの作者を想像する。「銀行の避難訓練冬に入る」〜君枝さんの句。現代は5年に一度のペースで大きな自然災害が起きている。銀行の訓練といえば、かつては師走前の防犯訓練だったが、いつの間にか避難訓練になっている。世の中の変化を感じさせる一句。「冬に入る」は立冬の日。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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