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花暦句会報:東陽(平成29年12月23日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「天皇誕生日」「数へ日」

高点3句
長命水筧にあふれ天子の日      野村えつ子
ポインセチア離れて暮らす妻のこと  山本  潔
数へ日の本返し本借りて来る     堤  靖子

子を抱くやうに白菜かかへたる    新井 洋子
信号待ちのサンタに出会ふ大手町   浅野 照子
離れては相寄る柚子を檜の湯     岡戸 良一
寒靄の杜に鳥語のかまびすし     安住 正子
淡き日を集めて淡し冬桜       野村えつ子
天皇の日の日本晴なる松広場     貝塚 光子
枯蔓や明治を醸す酒の蔵       飯田 誠子
朝の日に霜の輝く草千里       長澤 充子
天皇誕生日部屋の中まで日の届く   堤  靖子
指揮棒と弓の躍動年暮るる      市原 久義
茶の花や明治生れの座りだこ     斎田 文子
闇鍋や風評もぐつぐつ煮えよ     山本  潔

                       (清記順)

一口鑑賞長命水筧にあふれ天子の日」〜えつ子さんの句。「天子」は皇帝や天皇の別号。「天子の日」といえば「天皇誕生日」のことで、古い歳時記には載っているという。この句は「長命水が筧にあふれている」と言っているだけなのに、「天子の日」と見事に響き合っている。今年は天皇陛下が生前退位の意向を示され、有識者会議の議論を経て2019年4月30日の退位が決まった。今上天皇を思いやる作者の気持ちが「長命水」に満ちている。「淡き日を集めて淡し冬桜」〜この句もえつ子さんの作。冬桜は春の桜よりも小ぶりでひそやかに咲く。淡い光をまとった感じを巧みに詠んだ。いまは亡き沙緻師とともに桜山(群馬県藤岡市)を吟行したことが懐かしく思い出される。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成29年12月22日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点2句
下町のバレエ教室聖樹の灯          福岡 弘子
不器用に生きて米寿や龍の玉         加藤 弥子

香香(シャンシャン)のピンクの産毛冬うらら 貝塚 光子
病むと聞く友偲ばるる年の暮         市原 久義
老斑の手の甲膝に日向ぼこ          工藤 綾子
ワゴンセールの古きレコード冬日和      岡崎由美子
冬日和石仏の手に松ぼつくり         福岡 弘子
大川の船の途切れしとき寒し         加藤 弥子
枝葉つけ届く隣家の冬至柚子         岡戸 良一
船頭の小唄小粋や炬燵舟           長澤 充子
きつぱりと枯れ木となりて大欅        大野ひろし

                            (清記順)

一口鑑賞下町のバレエ教室聖樹の灯」〜弘子さんの句。日暮どきだろうか。下町を歩きながら目に止まったバレエ教室。クリスマスツリーの灯が窓から漏れている。何とも心が暖まる景を素直に詠んでいるのがいい。レッスンを受ける子どもたちの表情まで目に浮かんできそうだ。「ワゴンセールの古きレコード冬日和」〜由美子さんの句。普段なら何気無く通り過ぎてしまいそうなワゴンセール。しかし、作者は足を止めた。古いレコードに懐かしさが込み上げてくる。「冬日和」という季語に安堵感がある。「きつぱりと枯れ木となりて大欅」〜ひろしさんの句。きれいに葉を落とした大欅。無数の枝が天を指して聳え立っている。まさに「きつぱりと」。(潔)

花暦句会報:若草(平成29年12月9日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「寒鴉」、席題「編」

高点3句
冬の日を握り赤子の深眠り      坪井 信子
寸胴の大根うれしくなつてくる    加藤 弥子
編集の労に感謝や年暮るる      新井 洋子

立食いの湯気のおやきや一茶の忌   新井 洋子
日溜りの濡れ縁あるく冬の蜂     飯田 誠子
編棒の師の指先や冬日和       石田 政江
漁網編む小屋は山茶花日和かな    加藤 弥子
堂裏の売卜小屋や寒鴉        岡崎由美子
寒鴉群れ夕富士を遠くせり      坪井 信子
風呂敷に包む一書や冬桜       針谷 栄子
アルバム古りラガーの夫も老いにけり 森永 則子
煮凝や海鳴りやまぬ九十九里     岡戸 良一
廃屋に「鹽(しお)」の看板寒鴉   市原 久義

                       (清記順)

一口鑑賞廃屋に『鹽』の看板寒鴉」〜久義さんの句。「鹽」は「塩」の旧字体。明治、大正、昭和中期までは「ホーロー看板」と呼ばれる金属製の屋外表示看板が商品宣伝の主流だった。今はコレクションとしてマニアの間で売買されている。「廃屋に『鹽』の看板」と言っただけで景が浮かぶ。寒鴉との取り合わせも絶妙だ。「編棒の師の指先や冬日和」〜政江さんの句。席題「編」で咄嗟に詠んだ句だろう。故舘岡沙緻師は晩年を埼玉県の本庄市で過ごした。作者の住まいも近くにあり、師の最期を看取った。編み物をしている師の指先まで記憶に焼き付いている。(潔)

花暦句会報:連雀(平成29年12月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「山茶花」

高点1句
丹精の亡夫の山茶花散り易し     束田 央枝

葉付き柚子卓に師の「柚」を紐解けり 進藤 龍子
検診異状なし電飾の冬夜空      束田 央枝
ブティックの鏡の中にゐて師走    加藤 弥子
慣れぬ字を祝儀袋に冬日和      中島 節子
逆らはず日々好日や冬初め      田崎 悦子
池の面に張り出す松の冬構      田村 君枝
底冷えの古民家の土間竃神      春川 園子
冬晴れに淡き昼月控へをり      向田 紀子
亡き友のロシア冬帽いまも眼に    根本 莫生
満腹と言へどもうまき河豚雑炊    松成 英子
山茶花のこぼれてもなほ夢のいろ   飯田 誠子
生姜湯を啜り胃の腑のありどころ   坪井 信子

                       (清記順)

一口鑑賞ブティックの鏡の中にゐて師走」〜弥子さんの句。ブティックの鏡に映る自分を見ている自分がいる。よく見ると、周囲の光景は何だか慌しい。「ああ、自分は今、師走の中にいるんだ」と実感しているのは、鏡の外にいて鏡を見ている自分。ただの鏡ではなく、「ブティックの鏡」と言ったところに造型的な広がりが感じられて面白い。「師走」という季語の斡旋もお見事。「生姜湯を啜り胃の腑のありどころ」〜信子さんの句。生姜湯は体を温める冬の飲み物。疲れを感じたり、風邪でも引きそうと思ったりしたときに、飲む人もいるだろう。作者は生姜湯が胃袋に届くところまで探っているのである。どことなく体調の不安を感じているのだろうか。体感的かつ心象的な作り方が上手い。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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