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花暦句会報:東陽(平成30年1月27日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「寒雀」「道」

高点3句
海に日の道を伸ばして初日の出   野村えつ子
群れてゐることの安らぎ寒雀    野村えつ子
極寒の息を吐き出す室外機     市原 久義

羅漢槙の懐たのむ寒雀       市原 久義
遠き日の父の背中や凝鮒      岡戸 良一
玻璃越しの音の消えゆく雪の町   飯田 誠子
あわただしき日々の静まる雪の夜  堤  靖子
水仙や岬は硬き風ばかり      斎田 文子
隣まで喜々と雪掻く北育ち     貝塚 光子
一人居の繰り戸の軋み寒の暮    長澤 充子
城囲む松の貫禄去年今年      野村えつ子
湯豆腐の煮えばなの揺れ掬ひたる  新井 洋子

                      (清記順)

一口鑑賞極寒の息を吐き出す室外機」〜久義さんの句。室外機というと、夏に熱風を吹き出している印象が強いが、冬はせっせと冷気を吐き出している。試しにベランダに出て室外機の前に手を伸ばしてみたら、まさに「極寒の息」であった。冬に室外機を詠むなんて、さすがは元エンジニア。「一人居の繰り戸の軋み寒の暮」〜充子さんの句。冬の夕暮れ時、一人で家にいると、妙な音を聞くことがある。作者は繰り戸の軋む音を聞いた。ただそれだけのことなのだが、冬の日が落ちる時間帯に、急に不安や寂しさを覚える気持ちが詠い込まれている。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成30年1月24日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
雪積むや鉄のにほひの非常口      加藤 弥子
連山の裏はふいごか寒夕焼       加藤 弥子
癒えし身の試歩は産土初天神      高橋 郁子

冬菊の冬菊として刈らずおく      工藤 綾子
醬油さす下仁田葱の甘さかな      桑原さかえ
手書なる白寿の叔母の賀状かな     福岡 弘子
雪晴の畑に突き出る棒の先       岡崎由美子
能面のふくみ笑ひや寒灯下       加藤 弥子
藍染めの法被下ろして初太鼓      大野ひろし
あら玉の紅ひく喜寿の心意気      長澤 充子
雪晴れて光の匂ふ朝かな        岡戸 良一
ちやんちやんこもう意志通す男の子   高橋 郁子
プラントの灯り煌煌年明くる      市原 久義
転けぬよう老夫(つま)と腕組む初大師 貝塚 光子
背筋から奇声飛び交ふ寒稽古      岡田須賀子

                        (清記順)

一口鑑賞連山の裏はふいごか寒夕焼」〜弥子さんの句。「ふいご(鞴)」は風を送りだして火をおこす皮製の袋。鍛冶屋や鋳物屋などが用いる。冬の連山を染める夕焼は精錬の火のように美しい。風を受けた炭火が赤々となる様子を思い浮かべてみてもいい。この句は、自然の織りなす景に「鞴」という道具をぶつけたところが巧みだ。「背筋から奇声飛び交ふ寒稽古」〜須賀子さんの句。剣道だろうか。厳しい寒さの中、剣士が稽古に励んでいる。気合とともに発する奇声が飛び交う。声はピンと伸びた背筋が聞こえてくるのだ。(潔)

花暦句会報:若草(平成30年1月13日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「虎落笛」、席題「初鏡」
   

高点3句
虎落笛新任の地の駅頭に     岡戸 良一
心音か時計の音か雪催      坪井 信子
人恋ふや人無き里の虎落笛    市原 久義

ひととせに心めぐらす初湯かな  廣田 健二
まだ生きる力をしかと七日爪   岡戸 良一
糶終へしトロ箱の山虎落笛    飯田 誠子
鏡餅礼に始まる豆剣士      新井 洋子
松過ぎし厨の隅の一升瓶     岡崎由美子
ネクタイの幾何学模様初鏡    市原 久義
新築の戸ごとの明かり家の春   森永 則子
蠟梅の一枝を鼻で迎へけり    加藤 弥子
屋上の三百六十度の淑気     坪井 信子
ひと日なほひと年疾き柚子湯かな 針谷 栄子

                     (清記順)

一口鑑賞虎落笛新任の地の駅頭に」〜良一さんの句。サラリーマン時代の思い出だろうか。新任の地に降り立って聞く虎落笛(もがりぶえ)とは、思わず首をすくめたに違いない。冬の強い風が柵や竹垣に吹き付けてヒューヒューと音を立てるのが虎落笛。「もがる(虎落る・強請る)」には「逆らう」「いやがる」という意味もある。「糶終へしトロ箱の山虎落笛」〜誠子さんの句。市場の糴(せり)が終わり、空になったトロ箱が山と積まれている。築地に住む作者にとっては、見慣れた光景でも、虎落笛によって情景は一変する。市場にいつもとは違う寂しさが漂う。(潔)

花暦句会報:連雀(平成30年1月10日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「松過ぎ」

高点4句
飼鳥の鋭き一声も御慶かな      向田 紀子
平成の想いの深きお正月       進藤 龍子
吾の帰り待つ人のなし冬薔薇     束田 央枝
松過ぎて常にもどりし皿の数     加藤 弥子

松過ぎの日差しに棚のうす埃     中島 節子
竜の玉十七文字転がして       矢野くにこ
HBの鉛筆硬し初句会        根本 莫生
松過ぎの風の素通る裏鳥居      坪井 信子
春着脱ぐ少し寂しき老の胸      田村 君枝
松過ぎて賑はい去りて一人膳     田崎 悦子
松過ぎの塗椀みがく紅絹(もみ)の布  松成 英子
年輪の皺もめでたし初鏡       加藤 弥子
古今集の恋歌一首筆はじめ      春川 園子
杖置いて神の鈴振る初詣       進藤 龍子
幾年や此処武蔵野の初句会      束田 央枝

                       (清記順)

一口鑑賞飼鳥の鋭き一声も御慶かな」〜紀子さんの句。「御慶」は新年に述べる祝辞。ふだんから顔を合わせている間柄でも改まってお祝いの言葉を交わすことでめでたさを覚える。作者は、元旦に飼鳥が発した鋭い声も「御慶」と受け止めたのである。インコだろうか、オウムだろうか。めでたい気分になっている人間界の空気を、鳥自身も感じたのかもしれない。「鋭き一声」に荘厳な感じがこもっている。「松過ぎの日差しに棚のうす埃」〜節子さんの句。兼題「松過ぎ」で詠まれた一句。きれいに掃除をして迎えた正月も松の内を過ぎる頃には普通の生活が戻ってくる。作者は棚の埃を目にした瞬間、日常へ戻るのと同時に、そこはかとない寂しを感じたに違いない。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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