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花暦句会報:すみだ(平成30年3月28日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
骨片のやうな貝殻春の波     岡崎由美子
陽炎や山ふところに眠る父母   岡田須賀子
寂しさは心のほつれ桜冷え    工藤 綾子

満開の花の愁ひを仰ぎけり    加藤 弥子
下町のビル化目にして目刺焼く  岡田須賀子
花吹雪句座に亡き師の現れさう  岡崎由美子
桜追ふ太宰をおふて五能線    貝塚 光子
大奥跡庶民集ひて春爛漫     桑原さかえ
老幹の花に来し方よみがえる   高橋 郁子
魅了さる薔薇の作句の射程距離  工藤 綾子
職退くと決めしこの道鳥雲に   岡戸 良一
湯殿へと渡り廊下の花明り    長澤 充子
おにぎりのセロハン破る春寒し  大野ひろし
(清記順)

一口鑑賞骨片のやうな貝殻春の波」〜由美子さんの句。誰しも砂浜を歩いていて、人骨のかけら?と思わせる形の貝殻を見つけた経験があるだろう。この句は、一瞬ドキッとするような体験をさりげなく詠んでいる。明るく穏やかな「春の波」に、心が救われる。東日本大震災の津波にのまれた海岸ではこれまで定期的に行方不明者の捜索が行われていたが、この春で打ち切られることになった。そんなことも、作者の脳裏にはあったのかもしれない。「おにぎりのセロハン破る春寒し」〜ひろしさんの句。春寒の候、コンビニで買ったおにぎりのセロハンを勢いよく破ったのである。上手く破らないと、海苔が千切れてしまうことがある。冷たいままのおにぎりと包装材としてのセロハンの組み合わせが妙にマッチしていて面白い。セロハンはパルプから作られる。(潔)

花暦句会報:東陽(平成30年3月24日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「春雷」「草」

高点3句
野を焼くや人は戦火を繰り返し   野村えつ子
春雷や議事堂あたり騒がしき    安住 正子
春雷や紐金色に吊し香       飯田 誠子

摘草やときに眼で追ふ渡し舟    岡戸 良一
熱の身に音の近づく春の雷     堤  靖子
師の忌来る春の屏風に一茶の句   長澤 充子
姉癒えよ雨に上むく紫木蓮     貝塚 光子
高速を曲がり花菜の精となる    浅野 照子
春一番絵馬総立ちとなりにけり   野村えつ子
咲き満ちし花に逢魔の刻のあり   安住 正子
母の忌の小町椿の白極む      飯田 誠子
右往左往する白魚の眼の確と    新井 洋子
杣村の水の溜り場座禅草      斎田 文子

(清記順)

一口鑑賞春雷や議事堂あたり騒がしき」〜正子さんの句。今の句として読めば、森友学園をめぐる財務省決済文書改ざん問題が念頭にあるのは明らか。俳句で時事問題を題材にするのは難しいが、「議事堂あたり」と、政治を俯瞰した表現に滑稽味が感じられる。朝日新聞の特ダネが出たのは啓蟄前の3月2日。啓蟄の頃に鳴る雷は「虫出し」と言われる。この句の「春雷」はまさに安倍政治の「虫出し」かもしれない。「野を焼くや人は戦火を繰り返し」〜えつ子さんの句。野焼の光景を前に、戦争を繰り返してきた人類の歴史に想いを馳せているのだろうか。米国、中国、ロシア。国際社会は今、大国が再び帝国主義に走り出している。そんな世界を俯瞰し、作者は不安な気持ちを抑え切れずにいる。(潔)

花暦句会報:若草(平成30年3月10日)

吟行:杉並区荻窪の太田黒公園・角川庭園
句会:杉並詩歌館

席題 「三月十日」「啓蟄」「水草生ふ」「歩」「縞」

高点2句
三月十日の句座江東の師を偲ぶ   岡戸 良一
啓蟄や園に石橋石畳        新井 洋子

田一枚なめるがごとく芹摘みぬ   石田 政江
三月十日水琴窟の水の声      針谷 栄子
啓蟄や館に響くピアノ音      森永 則子
春の池波紋の縞を畳みけり     新井 洋子
ゆく水のおのづと光り水草生ふ   加藤 弥子
水草生ふはや色を見せ鯉の稚魚   市原 久義
葉脈の数を数へて桜餅       廣田 健二
鷹鳩と化し俳三昧の歩を進む    岡戸 良一
三月十日竹林の狂ほしき揺れ    坪井 信子

(清記順)

一口鑑賞三月十日の句座江東の師を偲ぶ」〜良一さんの句。今や3月といえば、東日本大震災・原発事故の「3・11」が鎮魂の日だが、昭和20年3月10日に東京の下町はB29を主力とする米空軍による大空襲を受けた。死者10万人とも言われる悲劇の日は「三月十日」という季語になった。故舘岡沙緻師は、戦災から復興した下町の暮らしをこよなく愛した。「水草生ふはや色を見せ鯉の稚魚」〜久義さんの句。水温むころの池には、さまざまな水生植物が生えてくる。水中を覗いていると、鯉の稚魚も現れた。よく見れば、稚魚も色付いている。見たものを感じたままに詠んだ。俳句は観察から入り、描写によって一句を成す。(潔)

花暦句会報:連雀(平成30年3月7日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「桃の花」

高点2句
庭中の梅咲くころか兜太亡き   坪井 信子
けふよりは後期高齢桃の花    中島 節子

友失せてぼやく米寿の君に春   根本 莫生
鳥曇身辺整理捗らず       束田 央枝
湾は春ヨットの動き遅々として  春川 園子
春眠の瞼に雨を聞いてをり    加藤 弥子
春愁や帰宅の椅子に背凭れて   中島 節子
駄菓子屋の店守る媼つばめ来る  田村 君枝
高みより甲斐の里曲の桃の花   進藤 龍子
夫の残せし本の赤線夜半の春   横山 靖子
塀の隙より蒲公英の黄の力    田崎 悦子
菜の花の黄が吹きとばす愁ひかな 坪井 信子
若き母を泣かせし記憶桃の花   岡崎由美子
江の電の大曲りして軒に春    向田 紀子
どの家も桃を咲かせる桃の里   飯田 誠子
水車まはる小川に続く蜷の道   松成 英子

(清記順)

一口鑑賞庭中の梅咲くころか兜太亡き」〜信子さんの句。2月20日に死去した金子兜太への追悼句。兜太の代表句「梅咲いて庭中に青鮫が来ている」を踏まえたのは明らか。「庭中の梅」という措辞は抑制が効いている。たったそれだけで読み手の目に「青鮫」が浮かぶのは、兜太の句の喚起力が強いからだろう。伝統、革新の違いを超えて、多くの俳人が兜太の死を悼んでいる。「湾は春ヨットの動き遅々として」〜園子さんの句。動いているのか、止まっているのか分からないヨットを眺めている。ヨットは夏の季語だが、上五で「湾は春」と言い切っており、季が重なった感じはない。むしろ、春のきらきらとした湾に浮かぶヨットの感じを、下五の「遅々として」で上手く言い表している。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成30年2月28日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句  
  兜太逝く
幻のおおかみ追つて春星に    岡崎由美子
針穴に春の光を通しけり     工藤 綾子
せせらぎは己を囃し温みけり   加藤 弥子

春風や楽器ケースを背に少女   岡戸 良一
逸早くこぼれ日捉へ迎春花    工藤 綾子
並ぶ人に間一髪やしずり雪    桑原さかえ
浅春や土竜の上げし土の艶    加藤 弥子
椿の枝揺らし落つるや春の雪   大野ひろし
群れ鳩の白き一羽や三月十日   岡田須賀子
花鳥となりしインコの梢に群れ  貝塚 光子
如月の光をかへす聖橋      岡崎由美子
よく笑ふ嬰の歯覗く二月尽    高橋 郁子
蒲公英や幟の傾ぐ分譲地     市原 久義
大川の水門開く水の春      長澤 充子

(清記順)

一口鑑賞針穴に春の光を通しけり」〜綾子さんの句。窓に注ぐ春の日差しを受けながら、縫い物をするところだろうか。老眼で針になかなか糸が通らないもどかしさを感じつつ、ふと光に包まれた一瞬。糸よりも先に春の光が針の穴を通ったのである。感受性豊かな作者の一句。「せせらぎは己を囃し温みけり」〜弥子さんの句。春が来た上水の散歩。立ち止まってせせらぎを見つめている。水の流れる音に意識が集中していく。まるでお囃子のように賑やかだ。こうして水が温んでいくんだという把握はお見事!(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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