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花暦句会報:東陽(平成30年4月28日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「燕」「夏近し」

高点5句
時折は白き胸張る燕の子       安住 正子
一山の彩ふくらます山の藤      安住 正子
遅桜峡の奈落をバスの縫ふ      野村えつ子
ふんぎりのつかずしまひに残る鴨   野村えつ子
妻入の家並黒々軒燕         堤  靖子

遠山は白を残せり藍微塵       岡戸 良一
緑さす倶利伽羅峠軍議石       堤  靖子
ベビーカーを留める堤の若葉風    斎田 文子
味噌和への小鉢に春を惜しみけり   新井 洋子
街路樹の爽立つ揺れや夏隣      安住 正子
夢うつつ眠れぬうつつ花疲れ     貝塚 光子
吊橋の上下たくみに夏燕       浅野 照子
ビル街に育つ叢林燕来る       野村えつ子
岩つばめ急降下して日本海      長澤 充子

(清記順)

一口鑑賞時折は白き胸張る燕の子」〜正子さんの句。上五、中七の把握が素晴らしい。自宅の軒下だろうか。身近にある燕の巣をよく観察しているなと思う。「燕の子」は孵化から20日ほどで巣立ちを始める。成長した雛が大人びて見えた瞬間を、「時折は白き胸張る」と捉えたのである。燕に対する親しみに溢れている。「ふんぎりのつかずしまひに残る鴨」〜えつ子さんの句。こちらは「残る鴨」になぞらえて自分自身を詠んでいる。羽ばたこうと思っているのに、踏ん切りがつかないまま、また1年が過ぎていく。そんな思いだろうか。諧謔味を帯びた一句。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成30年4月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
擂粉木の音まろやかに暮の春    岡崎由美子
日がみがき雨が洗ひし新樹かな   工藤 綾子
小手毬の風に弾むよ隠れんぼ    貝塚 光子

ステンドグラス填めし新駅燕来る  加藤 弥子
啄木忌雨の砂場の忘れもの     岡戸 良一
きちきちと絞る手拭昭和の日    岡崎由美子
めまとひや堂一隅に女人堂     高橋 郁子
城跡の夜空明るく椎若葉      貝塚 光子
矢車の喜び廻る峡の空       工藤 綾子
春宵や祢宜の爪弾く古代琴     桑原さかえ
師の色紙遺さる館新樹光      長澤 充子
(清記順)

一口鑑賞小手毬の風に弾むよ隠れんぼ」〜光子さんの句。小手毬は垂れ下がった枝に、白い五弁の花が球形に集まって咲く。風が吹くと、まるで鞠が弾んでいるように見える。この句は上五と中七だけではごく当たり前の景だが、下五の「隠れんぼ」で一気に世界が広がった。都会の公園だろうか。隠れんぼをして遊ぶ子どもたちの生き生きとした姿が目に浮かぶ。「春宵や祢宜の爪弾く古代琴」〜さかえさんの句。「祢宜(ねぎ)」は神職の総称。厳かな儀式の最中だろうか。古代琴の音色を想像するだけで歴史的なロマンが感じられる。「春宵」という情感に満ちた時間帯に聴けばなおさらだろう。(潔)

花暦句会報:若草(平成30年4月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「春深し」 席題「食一切」

高点4句
蒼穹の針の穴より雲雀落つ        新井 洋子
春闌くや辞書の重さと麩の軽さ      坪井 信子
ローランサンの水色が好き春ショール   森永 則子
田楽や小酌といふ句座帰り        岡戸 良一

春陰や友の不在の句座にあり       森永 則子
市役所へ転入届初燕           針谷 栄子
楤の芽の天ぷら君の誕生日        飯田 誠子
校了のほつと息つぐ暮の春        岡戸 良一
オルゴールゆつくりと止み春深し     加藤 弥子
のどけしやまなじりゆるむいしぼとけ   坪井 信子
筍飯にぎりて厚き大きな手        石田 政江
眉月の野にひと本の滝桜         新井 洋子

(清記順)

一口鑑賞蒼穹の針の穴より雲雀落つ」〜洋子さんの句。雲雀は空高く昇ることで縄張りを主張しているという。そこから一転して急降下するのが「落雲雀」。作者は、青空に舞い上がった雲雀がまるで針の穴のように小さな点になった瞬間、急降下するところを見たのである。写生の醍醐味を感じさせる一句。「ローランサンの水色が好き春ショール」〜則子さんの句。マリー・ローランサンはフランスの女性画家。1883年生まれ。1920年代に水色やピンクなどの淡いパステルカラーを用いた少女像が人気を博した。この句は、春の到来を喜ぶ作者の自画像と言っていい。ふわりと首に巻いた水色の春ショールはなんともおしゃれで清々しい。(潔)

花暦句会報:連雀(平成30年4月4日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「四月馬鹿」

高点2句
  市原久義様
とく癒えよと祈るばかりや松の芯  加藤 弥子
計らずも四月馬鹿なり退院す    中島 節子

墨汁を派手にこぼして四月馬鹿   春川 園子
単線のホーム短く諸葛菜      向田 紀子
激動の昭和は彼方陽炎へる     坪井 信子
夢いかにつつむ夕べのチューリップ 加藤 弥子
万愚節恋占ひのカード切る     飯田 誠子
四月馬鹿味噌汁焦がす一人の餉   束田 央枝
白寿までただ恙なく四月馬鹿    田崎 悦子
たんぽぽ咲く空地に隣る古墳域   根本 莫生
ささめきて流れる野川猫柳     田村 君枝
父と子としやがみて何を汐干潟   中島 節子
四月馬鹿本音ちらりと透けてをり  松成 英子
水神は小振りにおはす芹の水    進藤 龍子
身のうちの目覚めうながす初音かな 横山 靖子

(清記順)

一口鑑賞とく癒えよと祈るばかりや松の芯」〜弥子さんの句。前書きの市原氏に対し、まず上五で「早く治ってください」と呼び掛けた。続けて中七で「そう祈るばかりです」と一段と強く呼び掛け、最後は「松の芯」で結んだ。松の新芽は真っ直ぐ天に向かって伸びる。この句では祈る気持ちを示すとともに、市原氏の人柄になぞらえている。沙緻師亡き後の「花暦」誌の編集を担い、句会を続ける原動力となっているのが市原氏。先ごろ不慮の交通事故に遭い、入院中。「とく癒えよ」は皆の切なる願い。「水神は小振りにおはす芹の水」〜龍子さんの句。「芹」は春の七草の一つ。お浸しにしたり、お吸い物に添えたり、ご飯に炊き込んだりして香を楽しめる。芹の生える水辺に立つ作者の目に水神が目に止まった。龍の像か、河童の像か。あるいは本物の蛇がいたのかもしれない。いずれにしてもそれを「小振り」と見て取ったのは一つの成果。さすがは大ベテランの写生句。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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