すみだ句会(すみだ産業会館)
高点2句
くさぐさのいのちのなかの初蛍 加藤 弥子
羽抜鶏己の影を啄めり 加藤 弥子
夕さりの隠沼群るる蚊食鳥 高橋 郁子
大道芸投銭光る夏の雲 工藤 綾子
朝涼や船荷のとどく湖の宿 貝塚 光子
物置の隅にグローブ父の日来 岡崎由美子
礼文島に信号一つ敦盛草 桑原さかえ
峡深く早瀬に和して夕河鹿 長澤 充子
俎の傷まで乾く梅雨晴間 加藤 弥子
篁を風のさわがす旱梅雨 岡戸 良一
(清記順)
一口鑑賞「物置の隅にグローブ父の日来」〜由美子さんの句。使い古したまま表面も硬くガサガサになったグローブ。もう使われることはないが、父親とのキャッチボールの思い出が詰まっているのだろう。決して捨てることのできないものとして、グローブは物置の隅に存在しているのである。思い出の中の父親に感謝して詠んだ「父の日」の一句。「峡深く早瀬に和して夕河鹿」〜充子さんの句。河鹿は山地の渓流や森などに生息している蛙。美しい鳴声が牡鹿に似ていることから、その名が付いたという。この句は旅吟だろうか。流れの速い浅瀬と河鹿の声を一緒に聴きながら、心休まるひとときを過ごしたに違いない。(潔)
東陽句会(江東区産業会館)
席題「夏至」「瀬」
高点3句
瀬をのぼる容に鮎の焼かれをり 安住 正子
神木の一千年の木下闇 安住 正子
十薬や貸家の紙の新しく 堤 靖子
アメ横やケバブの匂ふ露地の朱夏 安住 正子
路地裏は昔のままや風涼し 斎田 文子
眼下の灯涼し天空レストラン 新井 洋子
夏落葉峡の早瀬に呑み込まる 岡戸 良一
水月湖のきららきららと夕涼し 貝塚 光子
祭半纏うしろ姿の男振り 飯田 誠子
瀬波立ち山夕立の来たりけり 野村えつ子
水割りの琥珀のグラス夏至の宵 長澤 充子
黙々と釣餌まるめる日焼の手 浅野 照子
老鶯や逢瀬たのしき芭蕉庵 堤 靖子
(清記順)
一口鑑賞「十薬や貸家の紙の新しく」〜靖子さんの句。玄関先に十薬が群生する家に貼られた「貸家」の紙。その紙が新しいと見て取ったところがこの句のお手柄。読み手も想像力を掻き立てられる。最近まで人が住んでいたのかもしれない。貸家にせざるを得なくなった事情はさまざまだろうが、そんなことにはおかまいなしに十薬は真っ白い花を咲かせている。空き家問題が深刻化している現代。「十薬や」という詠嘆にこの国の未来への憂いも感じられる。「黙々と釣餌まるめる日焼の手」〜照子さんの句。釣堀での一コマだろうか。だんご餌を丸める人の様子に見入っているうちに、「日焼の手」に目が止まった。もしも餌がミミズとかゴカイだったら、そうはいかなかったかもしれない。(潔)
若草句会(中目黒会議室)
兼題「蝸牛」、席題「青」
高点4句
黒糖に残る潮味沖縄忌 針谷 栄子
かき氷右脳左脳に雷走る 針谷 栄子
八十路なほ夢見る自由青葡萄 加藤 弥子
湿原は山気のるつぼ水芭蕉 加藤 弥子
演武する女子の一列夏祭 廣田 健二
肩書も名刺もなくて更衣 岡戸 良一
マグマ噴き病める地球や花柘榴 坪井 信子
ばらの棘薄紅に雨の午後 石田 政江
灸花咲くや余生といふ気儘 加藤 弥子
月光へ角を向けをり蝸牛 針谷 栄子
黒塀に白く過去引くなめくじり 新井 洋子
緑陰に「ロバのパン屋」を待つ子かな 森永 則子
蝸牛大き葉の上の鎮座かな 神戸 康夫
(清記順)
一口鑑賞「八十路なほ夢見る自由青葡萄」〜弥子さんの句。「青葡萄」は熟する前の小さくて堅いぶどう。若さの象徴と言っていい。しかし、作者は「80代になってもまだ夢見る自由はあるのよ」と強がっている。いや失礼、決して強がりなどではない。平均寿命の伸びにより、80代だからこそ見られる夢があってもいいはずだ。前向きに俳句を詠んでいる限り、夢は持ちたいし、叶うものだと信じたい。「月光へ角を向けをり蝸牛」〜栄子さんの句。月光も蝸牛も古今東西、俳人が好む題材。それだけに類想句はあるかもしれないが、角が月に向かって伸びていくという把握が何だか懐かしい。蝸牛の角を飽きずに観察した子どもの頃を思い出す。そういえば、近年、蝸牛が少なくなったように思うのは気のせいだろうか。(潔)
連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「梅雨」
高点5句
いつよりか婚期自由に花南瓜 中島 節子
梅雨茸やグリム童話の小人たち 加藤 弥子
ポスターの青き地球やトマト園 根本 莫生
青梅雨や自問自答の独り言 束田 央枝
万緑や生成り木綿のバッグ背に 向田 紀子
雷鳴に途切れし話戻しけり 中島 節子
覚えある声の主や夏帽子 向田 紀子
遠慮なく生ゆ十薬の住み心地 束田 央枝
町騒を子守唄とし星涼し 飯田 誠子
梅雨晴間地蔵の背の半乾き 田崎 悦子
山の堂に火災報知器五月闇 田村 君枝
太宰忌や割りし卵に血の走り 加藤 弥子
老いては子に従うべきか茄子の花 進藤 龍子
上水の緑いや濃き桜桃忌 根本 莫生
誘蛾灯青し一人の夜行バス 松成 英子
パラボラに鳩の集まる電波の日 坪井 信子
(清記順)
一口鑑賞「ポスターの青き地球やトマト園」〜莫生さんの句。トマト園に貼られたポスター。環境緑化か、自然農法推進などの広告だろうか。青く、水々しい地球の写真が大きくプリントされている図柄が目に浮かぶ。作者は改めて地球の美しさに感動すると同時に、この星の未来に思いをはせている。真っ赤に熟れたトマトに囲まれて詠んだ一句。「老いては子に従うべきか茄子の花」〜龍子さんの句。老いても子には迷惑をかけずに暮らしたい、と誰しも思うことだろう。しかし病気になったり、一人暮らしで心細くなったりすれば、なかなかそうは言ってもいられない。薄紫色で何とも味わい深い「茄子の花」。この季語が効いている。作者は人生を振り返りながら自問自答している。(潔)