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花暦句会報:すみだ(平成30年9月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点2句
宥しあふ齢となりて梨を剥く    高橋 郁子
香煙に過ぎし日ゆらぐ秋思かな   加藤 弥子

瓢棚むかしは何処も大家族     高橋 郁子
秋の峰空を貫く間歇泉       桑原さかえ
秋の暮屋台の客待つ野良猫     貝塚 光子
強風に耐えて岬の秋薊       長澤 充子
ふれあひてコスモス彩を競はざる  加藤 弥子
野分去り遠き昨日でありにけり   工藤 綾子
隠沼に沈む倒木月天心       岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞香煙に過ぎし日ゆらぐ秋思かな」〜弥子さんの句。「秋思」は秋の頃の物思い。作者は花暦の大ベテラン作家であり、人生の哀れや寂しさをいろいろ経験されてきた。お彼岸のお墓参りで供えた線香か、あるいは仏壇の線香の煙に目を凝らし、物思いにふけっている。年を経れば経るほど思いも深まるに違いない。煙の揺らぎに「過ぎし日」を重ね合わせている。「強風に耐えて岬の秋薊」〜充子さんの句。岬の風は強い。ましてや秋は野分の風も吹いて来る。そこに自生する「鬼薊」や「山薊」などを総称して「秋薊」と呼ぶ。高さは約1メートル。根は太く長い。強い風に耐えて咲く秋薊のたくましさに、作者は素直に感動している。(潔)

花暦句会報:東陽(平成30年9月24日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「月」一切、「芒」

高点2句
新米を研ぐそれだけの今日の幸     岡崎由美子
芒野に溺れ少年不登校         沢渡  梢

白萩のこぼれて恋の路となり      廣田 健二
タワーマンションの光こぼれる無月かな 堤  靖子
夕すすき漢の匂ひ込めし鉱山(やま)  浅野 照子
草雲雀ただ寝に帰る母の家       山本  潔
秋草を束ねて壺へ日の匂ひ       長澤 充子
公園をはみだしてゐる虫時雨      飯田 誠子
雲去来して水の澄む山上湖       斎田 文子
陸揚げの秋刀魚や海をしたたらせ    新井 洋子
爽涼や二人暮しの寿司握る       貝塚 光子
月明や直方体の倉庫群         岡崎由美子
月へ旅なんて些かはしやぎすぎ     沢渡  梢

(清記順)

一口鑑賞新米を研ぐそれだけの今日の幸」〜由美子さんの句。日本人にとって、新米は特別な意味を持っている。なぜなら、新米は五穀豊穣の象徴であり、1年の食糧が確保できたという安心の証だからだ。食生活の欧米化でコメの消費量は激減しているが、秋になればスーパーには「新米入荷」の幟が立つ。そんな新米を研ぐことに作者は無上の喜びを感じている。日常の一コマを巧みに詠んだ一句。「新米といふよろこびのかすかなり」は飯田龍太の句。「白萩のこぼれて恋の路となり」〜健二さんの句。萩は日本の秋を代表する花であり、公園や遊歩道などでよく目にする。萩が風に揺れる景色は風情がある。白萩の花言葉は「思案」。その白さは清らかさの象徴でもある。揚句は恋の句として詠まれているが、作者自身のことではなさそうだ。若いカップルが通り過ぎた白萩の小道。それを眺めながら、若かりしころの自分と重ね合わせているのかもしれない。(潔)

花暦句会報:若草(平成30年9月8日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「白露」、席題「縁」

高点2句
ほんたうは秋刀魚の旨さ知らぬ俺    松本ゆうき
縁あつて我家の庭の野紺菊       石田 政江

芋の露ふるわせ寄せて葉に遊ぶ     石田 政江
虫すだく一樹の闇を深くして      岡戸 良一
天高し白髪覗かせ野球帽        森永 則子
草原の雲の行方や吾亦紅        新井 洋子
秋の雨積ん読本の縁かな        松本ゆうき
ペン先の影の濃淡白露の夜       坪井 信子
老僧の居住ひ正す白露かな       廣田 健二
血を舐めて鉄の味する白露かな     山本  潔
献血に年齢制限鳥渡る         加藤 弥子
ゆらゆらと白露の朝に瞑すべし     沢渡  梢
鳩車机上の白の露めきて        飯田 誠子

(清記順)

一口鑑賞ほんたうは秋刀魚の旨さ知らぬ俺」〜ゆうきさんの句。今回、ゲストとして初参加し、いきなり最高点に輝いた。秋刀魚は秋の味覚の一つ。その美味しさや、焼き方、焼かれ方などを詠んだ句はよく目にするが、「旨さを知らぬ」という告白に意表を突かれる。子どもの頃から、秋刀魚を食べる習慣があまりなかったらしいが、この句は「旨さを知らぬ」と詠むことで、返ってその「旨さ」を引き立たせている。諧謔的な味が乗った一句。「ゆらゆらと白露の朝に瞑すべし」〜もう一人のゲスト、梢さんの一句。「ゆらゆらと」は「急がず、ゆっくりと」の意。下五の「瞑すべし」にかかる。兼題を詠み込み、「ゆっくり白露の朝に往生したい」という死生観に結びつけた。ゆったりとした調べは作者の持ち味。「ゆふらりと月綻んで水鏡」は梢さんの第一句集「たひらかに」(蒼穹社)から引いた。(潔)

花暦句会報:連雀(平成30年9月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「食」

高点2句
飽食の芥の嵩や鵙猛る         加藤 弥子
八月果つよく水呑んでよく食つて    坪井 信子

雷雨去り町生きかへる夕餉どき     田崎 悦子
羅漢さまの笑みや怒りや竹の春     春川 園子
雲海の無音の怒涛村を吞む       横山 靖子
爽やかにランチに酌めるアペリチフ   向田 紀子
釣舟草咲くや水音引き寄せて      加藤 弥子
秋うらら嬰授かりし報せ受く      進藤 龍子
机上まで秋冷いたる亡夫の部屋     束田 央枝
塩むすび旨し花火の桟敷席       松成 英子
許されよ野の花手折り食卓に      中島 節子
湯の町の朝湯戻りや花木槿       田村 君枝
露草の瑠璃耀へり通り雨        飯田 誠子
空き缶の音をころがす芋嵐       坪井 信子

(清記順)

一口鑑賞八月果つよく水呑んでよく食つて」〜信子さんの句。中七、下五の言い回しが見事に決まっている。今年の夏は異常な暑さに見舞われた。その暑さのことは何も言わずに、よく水を呑み、よく食べたという事実を淡々と連ねるだけで十分に説得力を生んでいる。こんな詠み方もあるのかと感心する。上五に据えた「八月果つ」が実によく利いている。「羅漢さまの笑みや怒りや竹の春」〜園子さんの句。「羅漢」は「阿羅漢」の略。仏教において煩悩を振り払い、最高の悟りを開いた聖者のことだ。最近では、江戸時代中期の絵師、伊藤若冲が下絵を描いた「五百羅漢」が人気を集めている。若冲の羅漢かどうかはともかくとして、この句は「羅漢さま」と親しみを込め、その表情に見入っている。自然災害が続く日本の現在を憂いつつ、まるで救いを求めているかのように。この句も季語「竹の春」が利いている。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成30年8月29日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点3句
影連れて流るるものや水の秋      加藤 弥子
ダリア真つ赤ゴスペル漏るる園真昼   高橋 郁子
秋暑し齝む牛の尾の遊び        工藤 綾子

海近き駅のポスター夏の果       岡崎由美子
朝顔の紺鉄柵を埋め尽くす       長澤 充子
果樹園の耳をつんざく威し銃      工藤 綾子
空高し牧の牛にもある序列       高橋 郁子
雪渓に残る靴跡空の青         桑原さかえ
曼殊沙華活けてみたしや火焔土器    貝塚 光子
百日紅百日咲けば百の夢        加藤 弥子
鰯雲江東運河縦横に          岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞秋暑し齝む牛の尾の遊び」〜綾子さんの句。「齝む」は「にれかむ」と読む。いわゆる「反芻」のこと。一度飲み込んだ牧草を口に戻して噛み直している牛が尾を振っている。まだ残暑の厳しい牛舎の中だろうか。それでも牛にとっては至福の時なのかもしれない。「尾の遊び」とユーモラスに書き留めたことで、牛の表情まで見えてくるようだ。「空高し牧の牛にもある序列」〜郁子さんの句。こちらは晴れ渡った空の下に放牧された牛たち。牛は群れて行動する動物。よく見ているとリーダーらしき存在が目に付いたのだろう。「牛にもある序列」は人間社会との対比。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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