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花暦句会報:東陽(平成30年10月27日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「紅葉」「色」

高点3句
命尽くる刻は測れず秋深む     堤  靖子
うろこ雲だんだん貝になるわたし  山本  潔
権現様のお愛想ほどの初紅葉    浅野 照子

菊膾地酒は舌に響きけり      飯田 誠子
さわやかに一輪車漕ぐ膝頭     沢渡  梢
鬼門除けの札は金色空高し     堤  靖子
つまべにの種を弾きて人見知り   新井 洋子
水草の紅葉はじまる瀬音かな    長澤 充子
短冊にしるす一句や十三夜     岡戸 良一
削られし山の叫びか櫨紅葉     野村えつ子
竹林を抜けて直路や秋燕忌     山本  潔
山裾へ晩稲ひろごる黄の世界    浅野 照子
大岩の迫る神橋初紅葉       貝塚 光子
恙なき雁の渡りを祈りけり     斎田 文子
十月や身の影を鋤く畑仕事     安住 正子

(清記順)

一口鑑賞命尽くる刻は測れず秋深む」〜靖子さんの句。秋も深まる頃になると、誰しも寂寥の気持ちが強くなる。しかも辺りはしーんと静まりかえっている。そんなときに、作者はふと呟いたのである。「命はいつ尽きるか測れない」と。誰しも感じることを素直に詠んで共感を得た一句。「権現様のお愛想ほどの初紅葉」〜照子さんの句。日光の旅から帰ってきたばかりという。旅吟が早速、席題「紅葉」に結び付いた。日光東照宮のまだ色づき始めたばかりの紅葉を「権現様のお愛想ほど」と叙したところが何ともユニーク。お愛想ほどであっても、今年の紅葉と出会えたことへの喜びが伝わってくる。この句の「権現様」は徳川家康の尊称。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成30年10月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点2句
余生なほ炎ゆるいろ欲し鶏頭花   加藤 弥子
空よりも地のぬくもりに秋の蝶   岡崎由美子

色鳥やはじめ冷たき木椅子の背   加藤 弥子
十三夜庭にをさなの忘れ物     岡崎由美子
跡地いま自然に帰り草の絮     岡戸 良一
木道に弾む靴音初紅葉       長澤 充子
治癒を待つ厨の隅の新走り     貝塚 光子
母何時か子の名を忘れ赤とんぼ   工藤 綾子
剥落の萬年橋や秋暮るる      高橋 郁子
町外れの無人交番神無月      桑原さかえ

(清記順)

一口鑑賞余生なほ炎ゆるいろ欲し鶏頭花」〜弥子さんの句。深紅の鶏頭花はまさに燃え上がる炎の色。余生と呼ぶべき年齢に入っていることを自覚しながら、なおも「炎ゆるいろ欲し」とは、生への執着を詠んだ句と言っていい。一日一日を大事に生きている作者だからこそ、鶏頭花の色が切ないくらいに愛おしいのではないか。そんな気持ちを素直に詠める俳句っていいなぁと思う。「空よりも地のぬくもりに秋の蝶」〜由美子さんの句。花壇か畑の土の上だろうか。秋の蝶がじっと止まっている。何だか心地良さそうな蝶の様子を眺めていると、地の温もりが感じられてくるようだ。うっかり空へ舞い上がれば、そこはもう冬の空気かもしれない。もうしばらくの間、秋の蝶でいたいと思っているのは作者自身に違いない。(潔)

花暦句会報:若草(平成30年10月13日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「秋燈・秋灯」、席題「街」「音」

高点3句
人はみな灯に戻りゆく暮の秋    加藤 弥子
秋灯シフォンケーキの月の色    坪井 信子
美濃紙の墨を吸ひあぐ秋灯下    針谷 栄子

木々を打つ私雨も秋の音      山本  潔
「草花を詠むといいよね」庭は秋  石田 政江
秋の蜘蛛築山うらに通せん坊    森永 則子
ハロウィンの魔女東京の街を行く  岡戸 良一
底紅の紅にとどかぬ街の音     坪井 信子
瓢箪や娘は母に物申す       廣田 健二
秋霖やアズナブールの黒いシャツ  沢渡  梢
横文字の読めぬ墓碑銘こぼれ萩   飯田 誠子
立飲みのネクタイ緩め秋ともし   新井 洋子
パソコンの値百円いわし雲     松本ゆうき
赤とんぼ肩に手に君は何者     針谷 栄子

(清記順)

一口鑑賞美濃紙の墨を吸ひあぐ秋灯下」〜栄子さんの句。兼題「秋灯」に対し、美濃紙という素材を持ってきたところが素晴らしい。美濃紙は岐阜県で奈良時代の頃から製造されている。伝統工芸品として知られ、その技法は重要無形文化財にも指定されている。澄みきった秋の灯に照らされた和紙に、たっぷりと墨を含んだ筆を置いた瞬間に墨が吸い込まれていく。和紙の質感とともに、墨の匂いもしてくるようだ。趣のある一句。「底紅の紅にとどかぬ街の音」〜信子さんの句。「底紅」は木槿のこと。赤紫や白などの花を咲かせる。中でも真っ白な花の底の部分が赤いものを底紅と呼ぶ。街から離れたお寺の境内や小さな公園、あるいは路地裏に咲く底紅だろうか。作者は赤い部分に視線を合わせながら、静寂の中にいる。席題「街」「音」の両方の文字を巧みに詠み込んだ。(潔)

花暦句会報:連雀(平成30年10月3日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「茸」

高点2句
すでに沙緻つひに眸も逝き九月   中島 節子
逆縁や丈の短かき曼珠沙華     向田 紀子

いそいそと父の背の籠茸狩     束田 央枝
ちちろ鳴く庭に立ちゐる夫小さし  田村 君枝
月を得て切り絵のごとし大欅    向田 紀子
紅茸を生やすは魔女か毒盛つて   春川 園子
歩をゆるめ秋七草を諳んずる    飯田 誠子
倒木をくぐる秋水山毛欅林     進藤 龍子
臥待ちの窓辺に亡母の文机     岡崎由美子
新雑誌「兜太」お目見得秋高し   根本 莫生
教会は文化遺産に浦の月      坪井 信子
柚の香やひとりのための厨ごと   加藤 弥子
露草の吹かれて瑠璃をこぼしけり  田崎 悦子
御社の龍の呼びしか秋の雷     松成 英子
松茸の前見るだけの客となり    中島 節子

(清記順)

一口鑑賞すでに沙緻つひに眸も逝き九月」〜節子さんの句。少し説明が必要だろう。沙緻(舘岡沙緻)と眸(岡本眸)はともに富安風生、岸風三樓に俳句を学んだ。眸が昭和55年に『朝』を創刊すると、沙緻もこれに参加。「俳句は日記」を信条とし、日常の中から詩の言葉を掬い上げた。沙緻は平成10年に『花暦』を創刊。それぞれの道を歩むことになった二人の句には「不屈な精神」を共通点として見いだすことができる。沙緻は平成28年5月1日、85歳で死去。眸は今年9月15日に亡くなった。享年90歳。揚句は、そんな二人への親しみを抱きつつ、哀悼の意が込められている。「秋風や柱拭くとき柱見て」「秋深き音生むために歩き出す」は眸の句。この秋は多くの人に愛誦されているはずだ。しみじみと。合掌。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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