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花暦句会報:東陽(平成31年1月26日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「春隣、待春」「面」

高点4句
次の世の夫はロボット魚は氷に 浅野 照子
雀らの呼び出してゐる蕗の薹  野村えつ子
待春や辻占煎餅「吉」と出て  新井 洋子
自転車を父に習ふ子春隣    堤  靖子

白足袋やAの五列のます席へ   新井 洋子
東京の渇き池面の蓮の骨    堤  靖子
春待つや三面鏡に鳥の影    山本  潔
眼なき面に夕日や達磨市    岡崎由美子
女正月蹠つるりと恙なし    貝塚 光子
久女忌の裏面見せぬ冬満月   岡戸 良一
春を待つ壁一面の千羽鶴    長澤 充子
水注ぐ花瓶の音も春隣     野村えつ子
寒昴干されし儘の柔道着    浅野 照子

(清記順)

一口鑑賞次の世の夫はロボット魚は氷に」〜照子さんの句。今、世界中でAIロボットと結婚する人が増えているという。「まさか!?」と驚く人も多いだろうが、ネットで検索してみると確かにそんな事例が報告されている。「人間とロボットの結婚は2050年までに合法化される」と予想する専門家もいる。この句はそんな現実を踏まえており、決して絵空事ではない。季語「魚は氷に(魚氷に上る)」は七十二候の一つ。太陽暦では2月14日ごろからの5日間。春の訪れを感じる空想的な言葉が作者の個性とマッチしている。「水注ぐ花瓶の音も春隣」〜えつ子さんの句。晩冬になると、寒さが続いていてもふと春の温もりを感じるようになる。作者は花瓶に水を注いだときの音の変化を「春隣」と感覚的に捉えたのである。同じような季語でも「春近し」は客観的、「春待つ」は心象的な内容になる。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成31年1月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点2句
楪や大内山に日の光      貝塚 光子
護摩焚きの読経響ける寒御堂  長澤 充子

仏の座薬鉢のこる極楽寺    高橋 郁子
連なりて連なりて山春を待つ  工藤 綾子
初東雲に今年の決意確かめり  桑原さかえ
お茶室や一輪挿しの寒椿    大浦 弘子
髪染めてひとり気儘に女正月  長澤 充子
好好爺の掌の餌に冬雀     貝塚 光子
湖見えて一期一会の寒蜆    岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞楪や大内山に日の光」~光子さんの句。「楪(ゆづりは)」は新年の季語。常緑高木で、長い楕円型の葉は表面に光沢がある。初夏に新しい葉が出るが、古い葉は新しい葉が生長するまで残り、やがて世代を譲るかのように落ちる。縁起物として正月飾りに用いられてきた。中七の「大内山」は皇居のこと。今年5月に行われる皇位継承を念頭に置き、「楪」との取り合わせに感慨が込もる。平成最後の一般参賀は明るい日の光に包まれていた。「仏の座薬鉢のこる極楽寺」~郁子さんの句。「仏の座」は春の七草の一つ。新年に鎌倉の極楽寺へお参りに行ったのだろう。ここは山門を入って参道を進むと、本堂手前の右手に薬鉢と茶臼が置かれている。そのままの景を詠んだだけなのだが、極楽寺という場所柄もあり、「薬鉢」をめぐる物語を連想させる。(潔)

花暦句会報:若草(平成31年1月12日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「餅花、繭玉」、席題「熱」

高点3句
風のほかまとふものなし枯芙蓉   坪井 信子
餅花や鴨居に父と母の額      新井 洋子
冬ぬくし鳩の形のビスケット    飯田 誠子

スクラムの底よりラガー等の熱気  坪井 信子
平成の次も幸あれ餅の花      山本  潔
「タマ」といふ猫の卒塔婆冬の菊  廣田 健二
ビューティーサロン鏡の中の冬薔薇 石田 政江
気掛かりな一言添へて賀状来る   沢渡  梢
熱帯びる女ばかりの福笑      針谷 栄子
冬籠広き世間を狭くして      新井 洋子
一期一会寒雀とていとほしや    加藤 弥子
餅花やどこか寂しき母の里     松本ゆうき
餅花の先の小判や風の音      飯田 誠子
餅花や女系家族の母の郷      岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞餅花や鴨居に父と母の額」〜洋子さんの句。「餅花」は小正月の飾り物。柳や榎などの枝に小さくちぎった餅を花のようにつけて高いところに飾り、豊作を祈る。この句では、餅花を飾った近くの鴨居に父と母の額が掛かっているのである。ほのぼのとした家族を思わせる光景だ。「父と母の額」と言っただけで余計な説明をしていないところがいい。読み手に想像させるのも俳句。洋風化で鴨居のない家も多くなったが、最近は餅の花をあしらった素敵なアレンジメントも売っている。「『タマ』といふ猫の卒塔婆冬の菊」〜健二さんの句。墨田区両国の回向院(えこういん)を吟行しての作。ここには人に限らず、「全ての生あるものを供養する」という理念から、犬猫や小鳥などの供養塔がある。卒塔婆に記された数々のペットの名前の中でも「タマ」は猫の代表格。作者にも思い入れのある名前なのだろう。供養塔には菊をはじめたくさんの花が供えられていたはずだ。(潔)

花暦句会報:連雀(平成31年1月9日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「正月」

高点1句
数の子や倅もやつと子の親に   中島 節子

冬鴎群れて水面を占領す     田崎 悦子
初笑素人寄席の旦那ぶり     向田 紀子
相寄りて小さき幸や福寿草    加藤 弥子
工事場の裸電球頬凍てる     中島 節子
初御空女手に打つ大太鼓     春川 園子
元号のなき日めくりや屠蘇祝ふ  飯田 誠子
冬麗やお別れ会は聖歌にて    束田 央枝
膳のもの並べてよりの初鏡    坪井 信子
波頭低くくずれて野水仙     松成 英子

(清記順)

一口鑑賞数の子や倅もやつと子の親に」〜節子さんの句。お孫さんが生まれた(生まれる)喜びを詠んでいるのだが、それをストレートに言わず、「倅」を主人公にしたところが微笑ましい。季語は「数の子」。お節料理の定番メニューの一つで、子孫繁栄を祈る意味が込められている。新年のめでたさに身内の喜びごとを巧みに重ね合わせた一句。前回の連雀で取り上げた「寄鍋や独り身とほす娘来て」も節子さんの句。いずれも子を思う母親の愛情がにじみ出ている。「初御空女手に打つ大太鼓」〜園子さんの句。初詣に行った際の光景だろうか。淑気みなぎる元日の空の下に、女性が大太鼓を叩く映像がくっきりと立ち上がる。政府が女性活躍の旗を振り始めてから5年余り。なかなか思うようには進まない現実もあるが、新年の厳かな行事の一場面に女性が立っている姿が清々しい。間もなく平成が終わる。女性の大太鼓は新しい時代への希望を打ち鳴らしている。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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