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花暦句会報:東陽(平成31年4月27日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「集」「初夏」

高点3句
アリーナの客の総立ち夏きざす  新井 洋子
夏兆すつづら屋に積む素編み籠  浅野 照子
道草の顔の集まる蝌蚪の池    安住 正子

地球儀の海の波立つ夏はじめ   山本  潔
藤の花羽音のなかにゐて一人   安住 正子

  下総一の宮
水馬の背ナ金色に神の池     貝塚 光子
平成も残り四日や目刺焼く    松本ゆうき
もこもこと重なり合ひて山笑ふ  斎田 文子
穏やかな余生を信じ新茶くむ   長澤 充子
平成尽くる春筍の土の濡れ    堤  靖子
平成も最後の句座に春惜しむ   野村えつ子
汐干潟耕すごとく貝を掘る    新井 洋子
船頭の替る難所や呼子鳥     浅野 照子
茅花流し途切れとぎれの旧街道  岡戸 良一
靴振つて零す浜砂暮の春     岡崎由美子
戦なき平成御世の花あかり    飯田 誠子

(清記順)

一口鑑賞夏兆すつづら屋に積む素編み籠」〜照子さんの句。「つづら」は竹籠に布海苔で和紙を貼り、柿渋と漆を塗り重ねて作る。通気性がよく、柿渋による防虫効果もあり、着物を収納するにはうってつけの収納具として重宝された。この句は、つづらになる前の素編み籠が積まれた光景に夏の到来を感じ取っているのである。日本橋人形町の今では珍しいつづら屋を訪れた際の一句。「夏兆す」という季語の斡旋がお見事。「平成も残り四日や目刺焼く」〜ゆうきさんの句。一種の時事俳句であり、「平成の世もあと四日だなぁ」という感慨を詠んでいる。ただそれだけのことなのだが、「目刺焼く」という個人的で素朴な行為を取り合わせたところに、俳諧味が生まれている。改元で世間が浮き足立っているのを尻目に目刺を焼きながら、冷静に世の中を見ている作者の姿が目に浮かぶ。(潔)

花暦句会報:すみだ(平成31年4月24日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「夏近し」

高点3句
己が影踏みて牡丹の前去らず   加藤 弥子
これよりの余生なに色四葩咲く  高橋 郁子
青饅や辛子きかせて父の味    貝塚 光子

夏近し濡れ縁に干すゴム草履   岡崎由美子
終日を読書三昧余花の雨     長澤 充子
奥吉野西行庵に忘れ雪      桑原さかえ
晩春や久に聞きたる琴の奏    大浦 弘子
葉桜や昭和は遠く大鳥居     高橋 郁子
染め抜きの一茶の一句夏のれん  工藤 綾子
花桃や渓谷列車の発車音     貝塚 光子
白牡丹おのれの蘂に汚れをり   加藤 弥子
夏近し古書街裏の喫茶店     岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞染め抜きの一茶の一句夏のれん」〜綾子さんの句。一度読んだだけで、いかにも涼しそうな夏のれんの映像が瞬間的に立ち上がってくる。中七の「一茶の一句」が圧倒的な存在感を放ち、なおかつ軽快なリズムを生んでいるからだろう。染め抜かれているのがどんな句なのかは読み手の想像次第。「薄べりにつどふ荵(しのぶ)のしづくかな」「大の字に寝て涼しさよ淋しさよ」「武士町や四角四面に水をまく」「有陰の新麦飯や利休垣」「塔ばかり見えて東寺は夏木立」…。生涯に2万句以上を詠んだと言われる一茶。どんな句を持ってくるかによって、綾子さんの句の風情も変わってくる。そんな俳句もなかなか楽しい。(潔)

花暦句会報:若草(平成31年4月13日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「蛙の目借時」、席題「地」

高点2句
目借時地雷を踏んでしまいさう    山本  潔
当り木に母の擂り癖さくら冷え    新井 洋子

目借時ブラックホールの気色(けしき)かな 松本ゆうき  
カーテンのふはり蛙の目借時     沢渡  梢
美容師に頭あづけて目借時      加藤 弥子
糸游や溶けだしさうな石仏      坪井 信子
行く先はブラックホール花筏     山本  潔
花冷や和服畳むも正座して      針谷 栄子
地球まで五千五百万光年の春     石田 政江
これはこれは桜隠しに酌む地酒    岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞カーテンのふはり蛙の目借時」〜梢さんの句。俳句で日常の中の何でもないシーンを詠むのは意外と難しい。この句はカーテンが揺れただけの場面を「ふはり」というたった3文字で描写した。これが「蛙の目借時」にうまく呼応して詩的な空間を生んでいる。「目借時」は春の眠気を誘う暖かさの中で、とりわけ蛙が鳴き始める頃はうつらうつら眠くなるという時候の季語。「地球まで五千五百万光年の春」〜政江さんの句。地球から5500万光年離れた銀河にあるブラックホールの映像がこのほど公開された。このニュースが背景にあるのだが、余計なことは一切言わずに「五千五百万光年」という距離だけを示し、その遥か彼方の春を俯瞰するかのように詠んだのである。破調も字余りもむしろ効果的だろう。壮大な一句。(潔)

花暦句会報:連雀(平成31年4月3日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「四月馬鹿」

高点2句
椅子にみな足ぶらぶらと入学児   束田 央枝
薄紙を剥ぐごと癒えて花菜風    矢野くにこ

花冷えや寺の奥なる玉座の間    松成 英子
マヌカンのシルクのドレス春浅し  坪井 信子
春暁や体内時計修正す       飯田 誠子
塀に沿ふたんぽぽの列好きな道   加藤 弥子
こぶし咲く八年前の地震の日も   春川 園子
満開の辛夷洗車の水弾く      田村 君枝
芽ぶくもの朝な朝なにいとほしき  横山 靖子
花冷や弦の調子の狂ひがち     中島 節子
塩むすび鴉に捕られ四月馬鹿    束田 央枝
深山寺や花の舞ひ込む能舞台    矢野くにこ
春三日月の低きを支ふ闇の張り   向田 紀子
夫の忌よ白木蓮に囲まれて     田崎 悦子

(清記順)

一口鑑賞椅子にみな足ぶらぶらと入学児」〜央枝さんの句。ピカピカの1年生が教室で椅子に座っている様子はまさにこんな感じだろう。嬉しくもあり、ちょっと不安でもあり…。「足ぶらぶらと」は子どもたちの心を映している。「薄紙を剥ぐごと癒えて花菜風」〜くにこさんの句。病が少しずつ快方に向かっていることを「薄紙を剥ぐごと」と表現した。きっと気持ちも前向きになってきたのだろう。「花菜風」が利いている!「花冷えや寺の奥なる玉座の間」〜英子さんの句。桜が咲いた後、思いがけず気温が下がって慌てることがある。そんな寒さが「花冷え」で時候を示す言葉。由緒ある寺での一句だろうか。冬の寒さとは違うが、「玉座の間」のひんやりとした空気が伝わってくるようだ。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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