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花暦句会報:すみだ(令和元年6月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点4句
十薬や母のメールの誤字脱字     山本  潔
いつしかに瀬音にまさる夕河鹿    岡戸 良一
昼酒の醒めやらぬまま夏至の夜    岡崎由美子
忍耐も人生の糧捩り花        髙橋 郁子

子が母の餌を付けをり金魚釣     山本  潔
五月雨や番傘の行く柳橋       大浦 弘子
引際を大事にせよとアマリリス    岡戸 良一
残されし古家守りて濃紫陽花     福岡 弘子
大西瓜叩いて撫でて抱きかかへ    工藤 綾子
息詰めて仕上ぐ写仏や梅雨灯     岡崎由美子
愛猫の棺に白き胡蝶蘭        長澤 充子
神水をボトルに入れて鴨足草     桑原さかえ
雨脚に耐へて真白き手毬花      貝塚 光子
沖縄の歴史を悼む梅雨の星      髙橋 郁子

(清記順)

一口鑑賞残されし古家守りて濃紫陽花」〜福岡さんの句。今は亡きご主人の親の代からの家だろうか。その家を守りながら暮らしている。今年も庭の紫陽花が色を濃くして咲いているなあ。そんな感慨を詠った。「残されし」には家だけではなく、自分自身も残されてしまったという思いを込めたのだろう。濃紫陽花が作者の心情を映している。「神水をボトルに入れて鴨足草」〜さかえさんの句。ここで言う「神水」は神域に湧き出る水。パワースポット巡りはちょっとしたブームになっていて、神聖な水を持ち帰る人もいるようだ。この句もそんな流行を詠んだだけかもしれないが、下五の「鴨足草(ゆきのした)」で景が広がった。夏の日陰の湿地に群生し、白い花を咲かせる。葉の形にちなんで「虎耳草(ゆきのした)」、冬に雪に埋もれても葉の緑が衰えないことから「雪の下」とも呼ばれる。(潔)

花暦句会報:東陽(令和元年6月22日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「プール」「水」

高点5句
水音は水に還らず夜のプール     飯田 誠子
糟糠の妻など御免冷奴        新井 洋子
草間彌生の水玉模様サングラス    堤  靖子
一杯の珈琲とジャズ熱帯魚      岡崎由美子
鰻屋の二階運河に開く窓       岡崎由美子

不治なると医師の宣告濃紫陽花    市原 久義
Gパンの破れもモダン サングラス   飯田 誠子
風落ちて梅雨のさ中の月明かり    貝塚 光子
卓の灯に草かげろふのみどり透く   岡戸 良一
高階の外はモノトーン梅雨荒し    堤  靖子
瀬戸内の島影幾つ青岬        長澤 充子
線香花火この一本の招く闇      浅野 照子
らんちうやシルクのごとくひるがへり 山本  潔
旗靡く浚渫船や五月晴        斎田 文子
競走馬のリハビリプール湯気満つる  安住 正子
肝心な場面は落丁虎が雨       新井 洋子
屋上よりプール開きの声降り来    岡崎由美子
水叩くばかりプールの一年生     野村えつ子
(清記順)

一口鑑賞水音は水に還らず夜のプール」〜誠子さんの句。「夜のプール」という静謐な場所における水音は一体どんな音だろう。誰かが一人で泳ぐ音かもしれない。あるいは水から人が上がるときの音かもしれない。あるいは屋内プールの天井から水滴が落ちる音かもしれない。「夜のプール」における音は昼間のそれとは違い、心に響いてくるのである。席題の「プール」「水」の両方を詠み込んで不思議な詩情を醸している。「草間彌生の水玉模様サングラス」〜靖子さんの句。「草間彌生」は今年90歳。水玉をモチーフにした作品は世界的な人気を誇り、「水玉の女王」と呼ばれている。揚出句は鮮烈な水玉模様とサングラスの二物衝撃によって斬新な夏の映像を立ち上がらせた。作者自身も予想していなかったような句が出来るから席題は面白い。(潔)

花暦句会報:若草(令和元年6月8日)

若草句会(中目黒会議室)
兼題「鰻」、席題「設」

高点3句
鰻重や苦手な祖母の親子丼      山本  潔
俎板に土用鰻のひとくねり      安住 正子
鰻裂く親爺の頬の刃物傷       新井 洋子

夏草に埋もるる人や畑仕事      廣田 健二
設計のミスか君んち黴の宿      松本ゆうき
街騒の抜け所なき梅雨の天      針谷 栄子
一雨すぎ房伸ばしをり青葡萄     石田 政江
色褪せし文学全集走り梅雨      岡戸 良一
空に書く艸(そうかう)の文字緑さす 新井 洋子
どくだみの花や日暮の切通し     飯田 誠子
設色す病院前の額の花        沢渡  梢
割箸は木曽の桧や冷さうめん     安住 正子
省エネの設定温度梅雨湿り      山本  潔

(清記順)

一口鑑賞俎板に土用鰻のひとくねり」〜正子さんの句。俎板の鰻がひとくねりしたところを詠んだ。ただの鰻ではない。「土用鰻」である。江戸中期、本草学者の平賀源内が鰻屋に頼まれて「土用の丑の日、鰻の日。食すれば夏負けすることなし」と書いたことが評判を呼んだという話は今に伝わる。この句の鰻もひとくねりの後、見事にさばかれて「土用鰻」になる。「設計のミスか君んち黴の宿」〜ゆうきさんの句。句意は「設計ミスでしょうか、君の家を黴の宿にしてしまったね」ということのようだ。なかなか諧謔が利いているが、作者自身が黴に向かって親しく語りかけていると読んだらどうだろう。「設計ミスかなぁ、ここが君の宿りになったね」。梅雨時に繁殖する黴はうっとおしいが、友達だと思えば少しは気分も落ち着くのではないか。おおらかに鑑賞することで、俳句の楽しさが増す。(潔)

花暦句会報:連雀(令和元年6月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「梅雨」一切

高点3句
太宰忌の街や焼き立てメロンパン   山本  潔
連結器噛み合うて梅雨深くしぬ    加藤 弥子
甚平や猫好きにして犬も好き     山本  潔

産土神の木立の奥の梅雨鴉      進藤 龍子
鯉跳ねて梔子の香を攫ひけり     坪井 信子
浮きたつも沈める色も城若葉     矢野くにこ
白服や父生涯の故郷(くに)訛    束田 央枝
卵抱く軽鴨に夕日の加勢あり     横山 靖子
新緑や絵画展出て華道展       中島 節子
色白の娘潮来の花菖蒲        飯田 誠子
桑の実や疎開の頃の日々思ふ     春川 園子
白あぢさゐ夕空軽くなりしかな    加藤 弥子
すれちがふバスの客みな梅雨の顔   山本  潔
父母の暮しつつまし帰省の夜     松本ゆうき
美術館の貸し出し日傘黒・黒・黒   向田 紀子
黒南風や飲屋の軒の換気扇      岡崎由美子
梅の実に銀の雫や雨上がる      田崎 悦子

(清記順)

一口鑑賞連結器噛み合うて梅雨深くしぬ」〜弥子さんの句。「連結器」は電車の車両と車両を結ぶ装置。かつては機関車や貨車の連結器が音を立てて繋がる場面がよく見られた。この句の「連結器」からは懐かしい光景が想起される。同時に「梅雨深くしぬ」と捉えた作者の感性に脱帽する。連結器という揺るぎのない素材と梅雨がよく合っている。昭和の映画の1シーンを見ているようだ。「白服や父生涯の故郷(くに)訛」〜央枝さんの句。「白服」が夏の季語。麻や木綿の白い生地はいかにも涼味を感じさせる。作者のお父様は白服がよく似合ったのだろう。この句には、記憶の中に焼き付いている白服の姿とともに、故郷の訛を貫いた父親への敬慕の情がにじみ出ている。気骨のある優しい人だったのだろう。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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