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艸句会報:東陽(令和元年9月28日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「秋刀魚」「棚」

高点4句
虎猫があくびして去る曼珠沙華   山本  潔
少女らのちぢめる言葉笑ひ茸    堤 やすこ
無宿猫釣瓶落しの石段に      新井 洋子
鱗雲谷中猫町坂の上        貝塚 光子

高級魚の棚に新入り大秋刀魚    貝塚 光子
城跡は風の音のみ新松子      斎田 文子
人間が地球をこわす秋刀魚焼く   堤 やすこ
採り残す観光園の葡萄棚      安住 正子
幾何学の好きな神さまいぼむしり  松本ゆうき
邯鄲やとほき戦の語り部に     浅野 照子
夜半の秋問へば無言という返事   新井 洋子
手わたしの白桃赤子抱くやうに   飯田 誠子
月曜日の教会の扉や昼の虫     岡崎由美子
秩父路の樹々に親しき山の霧    山本  潔
榠樝の実兜太の撫でし木に触れて  小泉 裕子
若鹿の一瞬ひるむ細き四肢     長澤 充子
切れ味の良き秋刀魚選る魚の棚   岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞無宿猫釣瓶落しの石段に」〜洋子さんの句。「無宿猫」と言われると、ただの野良猫ではなく、人間で言えば「風来坊」のような、他所からやってきた、ちょっと粋な存在に思えてくるから不思議だ。そんな猫が陣取っている石段にも秋の夕暮は早い。「無宿猫」にもやがて冬がやってくる。「鱗雲谷中猫町坂の上」〜光子さんも猫好きならではの一句。似たような句はたくさんありそうだが…。「人間が地球をこわす秋刀魚焼く」〜やすこさんの句。今年は秋刀魚漁の不漁が深刻だという。北海道近海の水温が平年より高く、秋刀魚が寄り付かないらしい。これも地球温暖化の影響だろうか。この句は上五〜中七の断定と下五の「秋刀魚焼く」が響き合って人類への警鐘を鳴らしている。(潔)

艸句会報:すみだ(令和元年9月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)

高点2句
廃業を告げる達筆秋澄めり     松本ゆうき
秋簾暮しの透ける路地の家     工藤 綾子

栃の実の落ちて林道風の中     長澤 充子
おおかみの遠吠えに似て野分かな  松本ゆうき
桐一葉万物にある裏表       工藤 綾子
梵鐘の余韻のゆくへ桐一葉     福岡 弘子
ずつしりと夕顔の実の尻座る    高橋 郁子
栗おこわ焚いて互いの故郷自慢   貝塚 光子
渡り鳥むらがる湖に知らぬ鳥    大浦 弘子
はらからの老いてちぐはぐ衣被   岡崎由美子
ゆふらりと雲の影ゆく大花野    岡戸 良一

(清記順)

一口鑑賞秋簾暮しの透ける路地の家」〜綾子さんの句。夏の日差し除けに吊るしてあった簾が、秋になって半分くらい巻き上げられていたり、編目が広がっていたりして寂れた感じになる。そんな簾越しに「路地の家」の中が透けて見える様子をうまく言い止めた。「ゆふらりと雲の影ゆく大花野」〜良一さんの句。雄大な景を俯瞰して一物仕立てで端的に描いている。一見、シンプルな句に見えるが、読めば読むほど味わいが出てくるのは、上五の「ゆふらりと」に情感がこもっているからだろう。大花野を眺めている作者自身もこの景の中に溶け込んでいる。(潔)

艸句会報:若草(令和元年9月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「蟷螂」、席題「六」

高点3句
教科書は六号活字夜学の灯      松本ゆうき
かまきりの振り向きざまの目のみどり 新井 洋子
おほらかにずれてカラオケ敬老日   安住 正子

面倒くさいをとことをんないぼむしり 松本ゆうき
月今宵六波羅蜜寺の闇照らす     岡戸 良一
かまきりの天に許しを乞ふ姿     新井 洋子
直立の尾花が囲む六地蔵       小泉 裕子
被災地の一戸一戸に今日の月     針谷 栄子
秋の雲アンモナイトになるつもり   坪井 信子
家訓として握るおむすび颱風来    飯田 誠子
十六夜の五句出し六句選の句座    山本  潔
秋風やわが庭に干す笊と樽      石田 政江
大白桃のうぶ毛の彼方山河あり    加藤 弥子
露の玉散るや八雲の住居跡      沢渡  梢
ワイパーに縋る蟷螂見得を切る    市原 久義
登校子につかまつてゐる子蟷螂    安住 正子

(清記順) 

一口鑑賞教科書は六号活字夜学の灯」〜ゆうきさんの句。席題「六」から発想した教科書の「六号活字」にリアリティーがある。秋の季語「夜学」も効いている。文字のサイズは「号」や「ポイント」などで規定される。活版印刷の時代には「号」も使われ、大きい順に初号、1〜8号だった。かつて日本の公文書は5号と定められており、現代のパソコンのワープロソフト「Word」では10.5ポイントに当たる。ちなみに「六号活字」はほぼ8ポイント。「Word」では最も小さい。「家訓として握るおむすび颱風来」〜誠子さんの句。台風が来るのを前に、せっせとおむすびを握っているのである。それだけのことなのだが、「家訓として」の一言で、この句は奥行きが広がる。雨戸を閉めたり、懐中電灯や水を用意したり、いろいろ防災対策を施していく中で、最も重要なのは食料の確保。おむすびがあるだけで、不安な気持ちもなぜか落ち着くから不思議だ。近年、日本列島は大きな自然災害があちこちで起きている。危機管理の面でも「家訓」には意義があったのかもしれない。(潔)

艸句会報:連雀(令和元年9月4日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「新涼」

高点2句
細筆の掌に馴染みをり涼新た    束田 央枝
後継誌は「艸」と決定秋高し    加藤 弥子

花野来てなにも要らぬと思ひけり  矢野くにこ
特攻兵のごとぶちあたり蝉かなし  加藤 弥子
新涼や手熨斗でたたむ白のれん   飯田 誠子
黙といふ安らぎのなか吾亦紅    横山 靖子
新涼やうすももいろの猫のみみ   坪井 信子
少年にして貫禄や草相撲      松成 英子
腹八分今日も守れず獺祭忌     束田 央枝
かなかなや古民家園に亡夫と聴く  春川 園子
下校児のゲームの話カンナ咲く   中島 節子
重ね置く本に紛れし秋団扇     岡崎由美子
波を打つステンドグラス秋涼し   山音(やまね)
目の前をモンローのごと秋の蝶   松本ゆうき
わが母を知らぬ夫の掌墓洗ふ    向田 紀子
秋涼し嬰に見られぬ蒙古斑     進藤 龍子

(清記順)

一口鑑賞「細筆の掌に馴染みをり涼新た」〜央枝さんの句。手紙を書いているのか、あるいは写経でもしているのか。夏の暑いときには書き物をするのも億劫だったが、秋になった途端に文字を書く意欲も湧いてきたのだろうか。もっとも、作者は書道の達人。日頃から書をやる人だからこそ、細筆一本を持つ手に新涼を感じ取ったのである。繊細な人の一句。「少年にして貫禄や草相撲」〜英子さんの句。少年の姿が何とも生き生きしている。上五から中七への句またがりを巧みにこなし、「貫禄や」の措辞も絶妙だ。相撲の歴史は古く、聖武天皇の代から旧暦7月に宮中儀式として行われたことから秋の季語になった。「草相撲」は副題。今も秋祭に神社の境内などで子どもたちが相撲を取る行事が残っている。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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