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艸句会報:東陽(令和元年10月26日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「木の実」「源」

高点2句
電線はみな自由席小鳥来る      安住 正子
木の実降る余生は日付なき旅路    羽生 隣安

ちちろ鳴く巨大草鞋の仁王門     長澤 充子
源流は多摩の奥とや柿熟るる     安住 正子
「光秀」の謎そのままに花桔梗    中川 照子
橋朽ちて色なき風の渡るのみ     小泉 裕子
手酌にも順序の在りてかまどうま   羽生 隣安
猫脚の椅子のサロンや秋深し     新井 洋子
撫牛の鈴新しく七五三        堤 やすこ
「母さん」と声にしてみる秋の雲   斎田 文子
井月の口ぐせ「千両」蕎麦の花    松本ゆうき
「ボレロ」聴きし心醒めゐる夜長かな 向田 紀子
大川を鈍色に変へ台風過       飯田 誠子
能登瓦月の名残を映しけり      岡戸 良一
子ひとりの回転木馬ねこじやらし   山本  潔

(清記順)

一口鑑賞電線はみな自由席小鳥来る」〜正子さんの句。圧倒的な人気を集めた。「電線に止まる鳥たちはみんな平等だよね」という感覚を「自由席」と表現したところにこの句の眼目があるのは明らかだ。鳥のことを言いながら、人間だって平等だという思いも込めているのではないか。「小鳥来る」は秋の季語で、鶫(つぐみ)、鶸(ひわ)、連雀(れんじゃく)、鶲(ひたき)などの小型の渡り鳥のこと。雀や鴉が電線に止まっている姿は日常的によく目にするが、渡り鳥を見分けるのはなかなか難しい。何でもよく見ている作者ならではの一句。「『ボレロ』聴きし心醒めゐる夜長かな」〜紀子さんの句。「ボレロ」は1928年にフランスの作曲家、モーリス・ラヴェルがバレエ曲として作曲した。一定のリズムを保ちながら、2種類のメロディーが繰り返されていく。この句は、ボレロの生演奏を聴いた日の夜、いつまでも頭の中でメロディーが鳴り止まず、心が覚醒していく感覚を端的に詠んだ。(潔)

艸句会報:すみだ(令和元年10月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題 そぞろ寒

高点3句
秋出水詩歌も虚し千曲川      高橋 郁子
母いつか子の名を忘れそぞろ寒   工藤 綾子
茅葺や京の美山の木守柿      岡戸 良一

家中の施錠確かめそぞろ寒     長澤 充子
たから箱のどんぐりにある物語   岡崎由美子
秋の虹昭和のおかつぱ白髪に    工藤 綾子
句に夢中気づけば雨やそぞろ寒   大浦 弘子
即位礼の雨の皇居や新松子     高橋 郁子
大橋を消し海峡の霧笛鳴く     岡戸 良一
湯屋の戸に「わ」の札下がる冬隣  貝塚 光子
紅葉狩り歩き疲れて寄る足湯    桑原さかえ
見守られ歩む百歳金木犀      福岡 弘子

(清記順)

一口鑑賞秋出水詩歌も虚し千曲川」〜郁子さんの句。先の台風19号は関東甲信や東北に甚大な被害をもたらした。50を超える河川が氾濫した中で、長野県を流れる千曲川も例外ではなかった。作者にとっては思い出のある川なのだろう。この句は中七の「詩歌も虚し」に率直な気持ちが表れている。島崎藤村の「千曲川のスケッチ」をはじめ多くの文学作品に登場するし、五木ひろしの「千曲川」では旅情が歌い込まれている。ところで、芭蕉は『更科紀行』で木曽路から信州に入ったが、なぜか千曲川の句を一句も詠んでいないという。「即位礼の雨の皇居や新松子」〜これも郁子さんの句。天皇陛下の即位の礼を題材に詠んだ、いわゆる時事俳句だが、「雨の皇居」と端的に言い止めたところがうまいと思う。(潔)

艸句会報:若草(令和元年10月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「榠樝の実」、席題「体」

高点5句
その中に兜太に似たる榠樝の実   安住 正子
台風裡カレーに落とす生卵     山本  潔
閂のすとんと秋になりにけり    加藤 弥子
不屈なる子規の横顔榠樝の実    市原 久義
消費税八やら十やら秋刀魚焼く   針谷 栄子

児がくれし青き蜜柑に掌の温み   加藤 弥子
長き夜の甘みの欲しき体かな    山本  潔
林道の風のことづて秋の声     岡戸 良一
ごつごつと光の触るる榠樝の実   坪井 信子
紅白のされど寂しき彼岸花     市原 久義
体育の日団地の底の運動場     安住 正子
父母の守りし土蔵榠樝の実     松本ゆうき
秋高し部活帰りのコロッケパン   沢渡  梢
穭田の辻に双体道祖神       新井 洋子
悩むとき悩まざるとき草の花    石田 政江
師の在せし初学の道の青くわりん  針谷 栄子

(清記順)

一口鑑賞その中に兜太に似たる榠樝の実」〜正子さんの句。昨年2月に他界した金子兜太の遺句集『百年』(朔出版)がこのほど刊行された。その記念イベントが兜太の故郷、秩父でも行われ、作者も参加してきた。この句は、兜太が好きだったという榠樝の木を見てきた実感から発想した。榠樝の実のごつごつして肉厚の印象を「兜太に似たる」と見て取った。<友ら亡し青く大きく榠樝の実><老年のわれに賑やか花梨の実>はいずれも『百年』から引いた。「ごつごつと光の触るる榠樝の実」〜信子さんの句。以前、東京・国分寺市の殿ヶ谷戸庭園で見た榠樝を思い出して詠んだという。もはやこの木はないそうだが、見事に写生句として成立している。記憶にしっかり残るまで榠樝の実をよく見たからだろう。中七の「光」に詩情が溢れている。写生の大切さを教えてくれる一句。(潔)

艸句会報:連雀(令和元年10月2日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「煎餅」

高点2句
秋晴の明石海峡蛸煎餅       岡崎由美子
秋日和茶と煎餅と小津映画     松本ゆうき

広口壜の中の煎餅秋の色      進藤 龍子
あざやかに雨降つてをり蛇苺    加藤 弥子
秋灯や人恋ふときに読む句集    岡崎由美子
ぬれ煎の食感が好き小鳥来る    山音(やまね)
川底の石の翳濃き寒露かな     束田 央枝
回転ドアより秋光へ退院す     中島 節子
四畳半の煎餅布団蚯蚓鳴く     松本ゆうき
なまぬるき秋暑の枕うらがへす   坪井 信子
死ぬといふ最後の仕事むかご飯   松成 英子

(清記順)

一口鑑賞秋晴の明石海峡蛸煎餅」〜由美子さんの句。兼題「煎餅」の中で人気を得た一句。「秋晴の明石海峡」という心地良い大きな景を提示した上で、お土産としても重宝される「蛸煎餅」を持ってきたところが洒落ている。ちなみに、淡路市の「たこせんべいの里」には40種類もの蛸煎餅が売られているという。「広口壜の中の煎餅秋の色」〜龍子さんの句。「広口壜」というだけで懐かしい感じがする。子供の頃に見た駄菓子屋や煎餅屋が目に浮かぶからだろうか。外からも見える店内には陽光が差しており、広口壜の中の煎餅もよく見える。作者はそこに秋の気配を感じているのである。(潔)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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