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艸句会報:すみだ(令和元年11月27日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「鍋」

高点3句
茅門の屋根を彩る散もみじ       高橋 郁子
おでん屋台今日の疲れの大きな背    岡崎由美子
雪吊りに自ずと背筋伸ばしけり     岡戸 良一

風評など気にしませんと鮟鱇鍋     岡戸 良一
時雨るるや宮の土俵の徳俵       岡崎由美子
悪相の魚も加へて寄せ鍋に       工藤 綾子
河豚鍋や父の小言もうわの空      大浦 弘子
山時雨祖谷の吊橋傘すぼめ       貝塚 光子
枇杷の花ひとり暮しも身につきて    福岡 弘子
鍋焼うどんの鍋の年季も味の内     高橋 郁子
底冷えの軒行灯や妻籠宿        桑原さかえ
どこまでも健やかなひと石蕗の花    松本ゆうき

(清記順)

一口鑑賞おでん屋台今日の疲れの大きな背」由美子さんの句。おでんが美味しい季節になった。夕暮れどき、ふと通りかかった街角の屋台にはもう明かりが灯り、おでんから湯気が立ち込めている。風除けの透明なビニールシートはまだ半分ほど開き、客の後ろ姿もよく見える。作者は一人の客の「大きな背」に「今日の疲れ」を感じ取ったのだ。日常の中のよく目にする一コマを切り取った一句。「鍋焼うどんの鍋の年季も味の内」郁子さんの句。寒くなると必ず食べたくなるものの一つに鍋焼うどんがある。ぐつぐつ煮えた土鍋に大きめに切ったネギや椎茸、蒲鉾などとともに、生卵が落としてある。うどんは熱々。フーフー言いながら食べれば体の芯から温まる。作者は、そんな鍋焼うどんの使い込まれた土鍋に着目したのである。タレの焦げ跡がしみ込み、見た目にも風情がある。まさに「味の内」だ。(潔)

艸句会報:東陽(令和元年11月23日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「一葉忌」「手」

高点3句
針山にむかし黒髪一葉忌       野村えつ子
AIの世に追ひつけず大根切る     堤 やすこ
ひとつづつ山暮れてゆく木守柿    野村えつ子

物産展に干薇や一茶の忌       貝塚 光子
店番の小巾刺しをる一葉忌      飯田 誠子
一人では漕げぬシーソー息白し    中川 照子
句会へと急ぐしぐれの一葉忌     堤 やすこ
灯の消えてよりのやすらぎ菊人形   野村えつ子
冬銀河星のガイドのペンライト    岡崎由美子
秩父嶺の山容変はり落葉焚く     向田 紀子
菰巻や明日を信じて頑張るか     斎田 文子
革張りのメニュー帳古り散紅葉    長澤 充子
軍扇を手に山頂の冬将軍       岡戸 良一
校正のあの手この手や一葉忌     山本  潔
大榾のつつかれ元気とり戻す     安住 正子
釣書は手がき三つ折り冬うらら    羽生 隣安
書くほどのことあるやなし日記買ふ  松本ゆうき
AIの喋る勤労感謝の日        新井 洋子
(清記順)

一口鑑賞針山にむかし黒髪一葉忌」〜えつ子さんの句。「針山」は「針刺し」のこと。「針立て」「針坊」とも言う。手芸の縫針を刺しておくための台で、綿を詰めて作る。かつては針が錆びるのを防ぐため、髪の毛やゴマなど油分のあるものを詰めたという。中七の「むかし黒髪」はまさにそのことを言っている。素朴な日用品が「一葉忌」と響き合っている。この句は女性陣に圧倒的な共感を呼んだ。「一人では漕げぬシーソー息白し」〜照子さんの句。描かれているのはシーソーと白い息だけだが、自ずと公園や校庭の遊具の景が思い浮かぶ。遊び相手のいない子どもは一人でシーソーの前に佇んでいる。そんな子どものそこはかとない寂しさと、それを見つめる作者の優しい眼差しが感じられる一句。ひょっとすると、子どもの頃の作者自身かもしれない。(潔)

艸句会報:若草(令和元年11月9日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「立冬、冬に入る」、席題「豆」

高点3句
伝言を預かるやうに冬に入る     羽生 隣安
石榴裂けて明日への不安なくはなし  加藤 弥子
冬浅し耳朶に口笛ほどの風      坪井 信子

身の丈の幸を諾ひ納豆汁       安住 正子
千姫の眠る御廟や初紅葉       石田 政江
短日の地下街点す赤提灯       岡戸 良一
薄紅葉歩く速さの豆電車       新井 洋子
パンに塗るバターの固き今朝の冬   市原 久義
公園の寂しきところ石蕗の花     羽生 隣安
冬に入るアンモナイトと鮫の骨    山本  潔
この町の人にも慣れて烏瓜      坪井 信子
闇鍋に我が身の相も煮ゆるかな    飯田 誠子
落ちてより増す大きさの一葉かな   針谷 栄子
蓑虫や捨てきし夢の二つ三つ     加藤 弥子
仲直りすることもなく冬に入る    沢渡  梢
団栗や天文学者のポケットに     松本ゆうき

(清記順)

一口鑑賞伝言を預かるやうに冬に入る」〜隣安さんの句。暦の上では1年の中で最も厳しい季節の入口に当たるのが立冬だ。「冬に入る」「今朝の冬」などとも言う。東京は朝晩冷え込むようになったが、日中はさほどでもない。とはいえ、立冬と言われれば、そろそろ寒さへの準備をしなければと思う。「伝言を預かるやうに」とはまさにこんな感覚だろうか。寒さへ向かう人間心理を巧みに捉えた一句。「パンに塗るバターの固き今朝の冬」〜久義さんの句も立冬を迎えた感覚を上手く詠んでいる。パンにバターを塗るのは立冬の朝に限ったことではない。しかし立春、立夏、立秋とは異なり、冬の到来には緊張感が伴う。それが「パンに塗るバターの固き」なのである。(潔)

艸句会報:連雀(令和元年11月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「もつ煮」

高点3句
五十年添ひて夜寒のもつ煮込み    松成 英子
鐘一つ撞きて鎮まる伊予の秋     松本ゆうき
遊べとや墓石に飴と木の実独楽    岡崎由美子

山茶花よ母の守りし庭に咲け     松本ゆうき
白き花ばかり集めて秋の庭      横山 靖子
冬隣る七味きかせてもつ煮かな    中島 節子
凩の浅草六区もつ煮込み       岡崎由美子
茶の花や列の乱れぬ修行僧      春川 園子
夫を呼ぶ吾が声ときに鵙に似て    坪井 信子
ワイン抜く音の弾けて室の花     向田 紀子
カーブスへ老いてますます日短し   束田 央枝
色かえぬ松に日の差す即位礼     松成 英子
青あをと生ふ冬草の力欲し      進藤 龍子
花蓼やテラスに暇な椅子ひとつ    加藤 弥子
どの松も菰巻をして眠さうな     山本  潔

(清記順)

一口鑑賞「鐘一つ撞きて鎮まる伊予の秋」〜ゆうきさんの句。伊予は今の愛媛県。作者の故郷は宇和島。この句はお母様の一周忌で里帰りをした際に詠まれた。自分で撞いた鐘の音をじっと聴きながら、深まりゆく秋を感じているのである。旅吟としての味わいもあるが、それ以上に「鎮まる」という措辞に作者の心境が投影されているのではないか。母親との死別から1年。少しずつ冷静に受け入れられるようになった心持を感じさせる一句。「花蓼やテラスに暇な椅子ひとつ」〜弥子さんの句。テラスにぽつんと置かれた椅子が一脚。それを「暇な椅子」と擬人化したところに俳味がある。この句も自分自身を投影している。庭に咲いている蓼はタデ科の一年草。秋に咲くのは犬蓼(赤のまま)、花蓼、桜蓼など。穂いっぱいに淡紅や濃紅紫の粒のような花をつける。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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