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艸句会報:東陽(令和2年1月25日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「探梅」「展」

高点2句
車掌だけ乗り降りをして枯野駅     野村えつ子
吟行の今日の幹事は雪女        新井 洋子

冴返る金の細工の指輪立        堤 やすこ
白壁に枯蔦展ばす線描画        岡戸 林風
珈琲の湯気立ち揺らぐ雪催       長澤 充子
探梅や切通しぬけ海展け        野村えつ子
今頃は春節ならむ遠千鳥        中川 照子
磨かれし寄木造りの床寒し       飯田 誠子
新しく垣設へて梅の園         斎田 文子
先頭の車窓に展け初景色        新井 洋子
葉牡丹や古き地球の展開図       山本  潔
初天神傘寿に小さき鷽守        貝塚 光子
咳けば風邪かとそつぽ向きし夫     安住 正子

(清記順)

【一口鑑賞】吟行の今日の幹事は雪女」洋子さんの句。下五の「雪女」が人気を集めた。雪国の伝説に登場するお化けで、道に迷った男を虜にし、凍え死にさせてしまう怖い存在だ。「雪の精」「雪女郎」「雪の鬼」などとも言う。この句では、何と吟行の幹事さんを「雪女」にしてしまったところにユーモアがある。幻想的な季語を日常の中に取り込んだ作者も雪女だったりして…。「初天神傘寿に小さき鷽守」光子さんの句。句会当日はまさに「初天神」。全国各地の天満宮の新年最初の縁日で、東京の亀戸天神では前日から鷽替の神事が行われる。下町に住む作者は、この日がちょうど80歳の誕生日でもあり、鷽鳥を模したお守りを替えてきた。「小さき鷽守」に傘寿を迎えた感慨と長寿へのささやかな願いが込められている。(潔)

艸句会報:すみだ(令和2年1月22日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「寒」一切

高点2句
今生きることに生きると氷柱伸ぶ   工藤 綾子
あかときの殊に呼び合ふ寒鴉     山本  潔

久女忌の文を焼きたる火の青き    山本  潔
日溜りや川原に弾む寒鴉       長澤 充子
八十路なる命の重さごまめ嚙む    髙橋 郁子
大寒や鉢をはみだす五葉松      福岡 弘子
大きめの焼芋選び掌につつむ     桑原さかえ
夢一つ叶ふが夢よ明の春       工藤 綾子
リハビリの散歩に夫と冬日向     貝塚 光子
冬銀河小さき吾にできること     松本ゆうき
蒼穹と大地のあはひ冬木の芽     岡戸 林風
年末の帰省みやげに「艸」も入れ   大浦 弘子

(清記順)

【一口鑑賞】今生きることに生きると氷柱伸ぶ」綾子さんの句。雪国では氷柱が軒下の地面に届くくらいに伸びているのは珍しくない。根本の太さとは対照的に、先端が細く尖っている様子は恐ろしささえ感じる。関東では日光や秩父などで氷柱が観光スポットになっているところもある。今年は暖冬でなかなか氷柱が育たないらしい。この句は「生きることに生きる」という措辞によって、氷柱の伸びていく様子と自らの生への執着を重ね合わせた。「蒼穹と大地のあはひ冬木の芽」林風さんの句。よく晴れた日の冬木の芽はまさにこんな感じだ。落葉樹の枝に芽が膨らんでいるのを見るとホッとする。この句は、動詞はもちろんのこと、余計な言葉を使わず、「あはい(間)」によって冬芽と天地の関係を巧みに描写した。(潔)

艸句会報:若草(令和2年1月11日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「寒卵」、席題「久」

高点2句
一陽来復創刊号の届きたる       市原 久義
敷き藁に残る温もり寒卵        市原 久義

火の落ちし七輪午後の初社       市原 久義
久闊を叙して友との初句会       岡戸 林風
空にまだ昭和の絵柄いかのぼり     山本  潔
冴え冴えと草間彌生の絵の狂気     新井 洋子
久義さんの元気が嬉し初句会      安住 正子
今日は今日の暁の色寒卵        針谷 栄子
湯治宿すぐに完売寒卵         飯田 誠子
冬茜象亡きあとの象舎にも       坪井 信子
浮世絵は影のなき世や三が日      羽生 隣安
寒卵病の床の父の膳          沢渡  梢

(清記順)

一口鑑賞一陽来復創刊号の届きたる」久義さんの句。「俳句は滑稽なり。俳句は挨拶なり。俳句は即興なり」(山本健吉)と言われる。この句は「艸」創刊号がちょうど冬至の日に届いた喜びを即興でシンプルに詠み、優れた挨拶句になっている。上五の「一陽来復」は「冬至」の言い換え季語。冬の真ん中から春への転換点であり、衰えた太陽がこの日から復活に転じる。作者は2年前の春に不慮の交通事故に遭い、今もリハビリに励む日々を過ごしているが、この日は一念発起して句会に出席した。「一陽来復」に自身の回復への強い思いも重ね合わさっている。「浮世絵は影のなき世や三が日」隣安さんの句。誰もが見ているものに新たな気付きを与えることも俳句の楽しみの一つ。言われてみれば、確かに浮世絵には影がない。「三が日」はお正月気分が続き、日常の雑事から解放される。いわば一年の中では最も影の少ない時間かもしれない。そう考えると、この句は浮世絵と季語の取り合わせも効果的だ。(潔)

艸句会報:連雀(令和2年1月8日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「酒」

高点2句
子年なり知つてゐるかい嫁が君     松成 英子
雷神像の逆立つ髪や寒旱        進藤 龍子

この齢重ね来て謝す去年今年      横山 靖子
一病はあれど息災七日粥        進藤 龍子
読初は母の謡の和綴じ本        飯田 誠子
酒酔ひの本音大声春隣         束田 央枝
「山本」てふ年酒の味よ「艸」船出   石田 政江
元朝や下戸と言へども二・三献     中島 節子
厄年を無縁と生きて初詣        向田 紀子
ゆつくりと野良猫のゆく雪催      松成 英子
紅型は沖縄の華はつ暦         松本ゆうき
医通ひの朝の裏道実千両        坪井 信子
初旅の車窓きらめきカップ酒      岡崎由美子

(清記順)

一口鑑賞子年なり知つてゐるかい嫁が君」英子さんの句。今年は子年。十二支の最初で、新しいサイクルの始まりである。「鼠算」の連想から子孫繁栄の象徴だ。当のネズミはそんなことを知る由もないが、作者は「知つてゐるかい」と優しく呼びかけている。普段は厄介者のネズミも正月三が日は「嫁が君」と呼ばれ、大切に扱われる。それを踏まえた何とも微笑ましい一句。「医通ひの朝の裏道実千両」信子さんの句。定期的に通う病院へのルートはいつも裏道なのだろう。なぜなら、そこには季節ごとに楽しめる句材がいろいろあるからだ。今は、濃い緑の葉の上に千両の紅い実がたくさん付いている。日常の中の季語を大切にしている作者ならではの一句。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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