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艸句会報:すみだ(令和2年2月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「余寒」「冴返る」

高点2句
生きるとは繰り返すこと地虫出づ   髙橋 郁子
回廊の長き余寒を踏みにけり     髙橋 郁子

飼ひ猫の廊下を駆くるだけの恋    岡崎由美子
城登るマスクの列の忍者めく     貝塚 光子
灯台の光に踊る波の花        大浦 弘子
ゲームにも倦み春愁の眼鏡拭く    岡戸 林風
捨て畑やペンペン草のはびこれり   髙橋 郁子
ウイルスに怯(おび)える日本冴返る 福岡 弘子
いつまでも老いない雛や何を待つ   松本ゆうき
春光の巨木万枝を包みをり      工藤 綾子
満面の笑み返す嬰春うらら      桑原さかえ
本堂へ軋む廻廊冴返る        長澤 充子

(清記順)

一口鑑賞】「回廊の長き余寒を踏みにけり」郁子さんの句。早春の頃に大寺や城を訪れたことのある人なら、その寒さは分かるだろう。しんしんと冷える真冬の寒さとは異なるが、寒明け後の「残る寒さ」も決して侮れない。掲出句はそんな感覚を「余寒を踏みにけり」で体感的に巧みに表現している。「飼ひ猫の廊下を駆くるだけの恋」由美子さんの句。恋猫がいろいろ格闘している様子を詠んだ句は多いが、「廊下を駆くるだけの恋」という把握が上手い。時代が変われば猫も変わる。飼猫に対する作者の慈愛が感じられる。「ゲームにも倦み春愁の眼鏡拭く」林風さんの句。掴みどころのない愁いが「春愁」。作者のもてあましたゲームとは一体何だろう。新型コロナウィルス騒動が拡大する中、「眼鏡吹く」にうんざりした感じがよく表れている。(潔)

艸句会報:東陽(令和2年2月22日)

東陽句会(江東区産業会館)
席題「水温む」「白」

高点1句
表具屋の古き玻璃戸や春一番      岡崎由美子

しやぼん玉吹くたび母の顔を見て    堤 やすこ
宝前の鏝絵の白狐冴返る        岡戸 林風
青鮫忌黄犬忌国は大丈夫か       山本  潔
遠雪嶺生き方ひとつ貫いて       飯田 誠子
野辺に出で土ふかふかと水温む     貝塚 光子
鳥雲に少年のごと腹の鳴る       松本ゆうき
よちよちの転び上手や下萌ゆる     野村えつ子
脚色をすこし加へて春の夢       岡崎由美子
和紙漉きの手元素早し水温む      長澤 充子
東風なれや押し戻さるるビルの間    斎田 文子
霊園に番地のありて梅日和       向田 紀子
山の子も都会で老いて花粉症      安住 正子
堤防は恋の通ひ路島の猫        新井 洋子

(清記順)

一口鑑賞】「表具屋の古き玻璃戸や春一番」由美子さんの句。表具屋は掛物や巻物、書画帖、屏風、襖などの専門店。平安か鎌倉の頃に中国から伝来した技術に由来するが、近年は後継者不足に陥っている。この日は、関東地方に春一番が吹いた。作者は、根津界隈を歩いた際に見かけた表具屋を思い浮かべながら、早速、一句に仕立てた。「古き玻璃戸」に懐かしさが込められている。「和紙漉きの手元素早し水温む」充子さんの句。旅先で見た和紙漉きの光景を思い出しながら詠んだ。職人の「手元」に焦点を絞ったことでうまくまとまっている。和紙の起源については諸説あり、①日本で自然に紙漉きが始まった ②渡来人がもたらした−の二つに大別される。400年頃には公権力によって紙による記録が始まったことが「日本書紀」に記されているという。(潔)

艸句会報:若草(令和2年2月8日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「若草」、席題「二」

高点2句
春めきて活字にも棲む睡魔かな     飯田 誠子
逝く人の多き二月の鯨幕        沢渡  梢

俎板に春のリズムの厨事        新井 洋子
花びら餅懐紙に透ける余生かな     飯田 誠子
百蕾の枝のはざまの春動く       岡戸 林風
福豆をネイルアートの掌が抛る     市原 久義
ふるさとは二月の雪のなかりしと    安住 正子
神鹿の鼻のしめりや若草野       針谷 栄子
若草や学びたきこと多々あれど     小泉 裕子
ものの芽のほぐるる栗鼠園の小道    坪井 信子
若草を踏む厚底のスニーカー      沢渡  梢
言ふなれば昭和二桁牡丹の芽      山本  潔
春の雲西に東にややややに       松本ゆうき

(清記順)

【一口鑑賞】逝く人の多き二月の鯨幕」梢さんの句。この日は親戚のお葬式で句会に来られない人が複数いたこともあり、句会前の雑談で「なぜか二月は逝く人が多い」「まだ風が冷たくて、寒さがこたえるからではないか」という話になった。作者はそんな会話に耳を傾けながら、席題「二」の句に仕立てた。「鯨幕」という即物描写が効いている。「神鹿の鼻のしめりや若草野」栄子さんの句。「神鹿」は神の使い。この句は「鼻のしめり」以外に具体的なことは何も言っていないが、草を食む鹿の鼻に葉が付いている様子が目に浮かぶ。作者はそこに「鼻のしめり」を見たのだろう。「春の雲西に東にややややに」ゆうきさんの句。「ややややに」は「だんだんに」「どこまでも」という意味の古語。「春の雲が東西に細長く不思議な形に伸びている様子を詠んだ」という。「やややや」。春の空にはそんな形の雲が浮かんでいる。(潔)

艸句会報:連雀(令和2年2月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「早春」

高点2句
春燈ひとりの紅茶さめやすし      加藤 弥子
臘梅の色を忘れしほど香り       坪井 信子

ポインセチア残る若さに乾杯す     加藤 弥子
令和二年二月二二日風生忌       束田 央枝
天金の聖書ようすき春埃        進藤 龍子
春光や干されし魚網より雫       岡崎由美子
脚舐めて神の園生の孕み猫       向田 紀子
春あけぼの夢に出てくる悪いやつ    松本ゆうき
梅白し声にしてみる方丈記       横山 靖子
春の運河ふはりふんはり舫ひ舟     飯田 誠子
手折られて一句となりぬ猫柳      坪井 信子
ばらばらにして蟹を売る多喜二の忌   松成 英子

(清記順)

一口鑑賞】「春燈ひとりの紅茶さめやすし」弥子さんの句。春燈の下、ひとりでいると紅茶の冷めるのが何と早いことだろう。家族や友達とお喋りをしながら飲む紅茶なら、冷めてもさほど気にならないが、ひとりで飲む紅茶は「さめやすし」と感じたのだ。作者は卒寿を過ぎてなお俳句への意欲に満ち溢れている。「ひとりの紅茶」という措辞に実感がこもる。「令和二年二月二二日風生忌」央枝さんの句。今年は「2020年」「令和2年」ということもあり、2月のカレンダーは「2」という数字がやたらと目につく。2月22日は風生忌。富安風生は「艸」の師系の源流であり、それをすかさず句にした作者の柔軟性に脱帽する。風生は高浜虚子に師事。逓信省に勤めながら俳誌「若葉」を主宰。東京・池袋にあった自宅を「艸魚洞」と呼んだ。(潔)

艸句会報:船橋(令和2年1月29日)

船橋句会(船橋市勤労市民センター)

高点2句
蜜を吸ふ鳥の重さの四温かな      針谷 栄子
橋桁に稚貝鎧へる春隣         岡戸 林風

長寿橋渡る確かな恵方道        岡戸 林風
春立つや産休の娘の二重あご      川原 美春
悴みてこんがらがるや刺繍糸      並木 幸子
荒庭に水仙鉢を置いてみる       飯塚 とよ
蕎麦掻や本音洩らさぬ夫であり     岡崎由美子
煮魚のはら子の白さ雪催        針谷 栄子
外来の貝の話をして睦月        山本  潔

(清記順)

【一口鑑賞】荒庭に水仙鉢を置いてみる」とよさんの句。手入れをしないまま荒れてしまった庭。そこに水仙鉢を置いたら、どうなったのだろう?思いの外、洒落れた景になったのかもしれない。香り高く、みずみずしい水仙の存在感はなかなかのものだ。この句は「荒庭」と「水仙鉢」が響き合って読み手を想像の世界に引き込む。「悴みてこんがらがるや刺繍糸」幸子さんの句。寒い日に刺繍をしているうちに、糸がもつれて絡まりあってしまったのだ。ほぐそうにも手が悴んでうまくいかない。日常のささいな出来事も俳句になる。「春立つや産休の娘の二重あご」美春さんの句。「俳句は日記」と言われる。この句は、出産を控えた娘さんのことを書きとめた。「二重あご」に焦点を当てて何とも健康的だ。栄養をつけて元気な赤ちゃんを産んでほしいという願いが込められているのだろう。立春の喜びもほのぼのと伝わってくる。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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