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艸句会報:すみだ(令和2年12月23日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「数へ日」

高点2句
葉ボタンの渦に記憶の周波数     並木 幸子
綿虫の漂ふ黙や樹々の黙       貝塚 光子

数へ日のあれもこれもが繰り越しに  三宅のり子
数へ日や老には老の役目あり     髙橋 郁子
数へ日の居場所となりし句座一つ   岡戸 林風
文机の一灯冴ゆる夜の句集      岡崎由美子
里山の落葉溜りは子らの基地     貝塚 光子
数へ日やテディベアを繕ひて     川原 美春
冬至風呂労はりほぐす膝小僧     内藤和香子
来世への手形のつもり古日記     山本  潔
冬の雨奥に遺影の写真館       並木 幸子
家計簿の余白にふはり木の葉髪    工藤 綾子
少しづつ馴染む晩学石蕗の花     福岡 弘子
一年の憂さ吹きとばす大くさめ    松本ゆうき
湖畔の朝馬車来て御者の息白し    長澤 充子
逝く年や五臓に染みる故郷の酒    大浦 弘子

(清記順)

【一口鑑賞】葉ボタンの渦に記憶の周波数」幸子さんの句。この日が2020年の句座納め。掲句を採った4人中、3人が特選でいずれも「『記憶の周波数』という表現に斬新さを感じた」という。一方で「句意が分かりにくい」との意見も出た。作者によれば、今年のいろいろなことが渦を巻いたような葉牡丹の形に重なり合って「記憶の周波数」という言葉になった。例えば「葉牡丹や記憶の渦の周波数」とでも直す余地はあるが、まずは作者の感覚を大事にして原句のままとした。「一人ひとりが詩情を培い、オリジナリティーを追求する」ことが「艸」の出発点。新しい年もこの気持ちを大事にしていきたい。(潔)

艸句会報:東陽(令和2年12月)

東陽通信句会

高点2句
山茶花やキッチンカーに招き猫    新井 洋子
ふところに列車走らせ山眠る     野村えつ子

冬木の芽子ら駆けてゐる芝の上    貝塚 光子
点りても寂しき赫よ青木の実     向田 紀子
一陽来復光のとどく机・椅子     堤 やすこ
一碧の沖に船置く枯尾花       中島 節子
眉引きしのみのこもり居冬ざるる   安住 正子
子らの声散つて明るくなる枯野    岡崎由美子
極月の声に気合や消防士       野村えつ子
裸木の並木は空を支へをり      新井 洋子
知りつくす日本の都ゆりかもめ    岡戸 林風
うたた寝と読書と雪見障子かな    山本  潔
遠富士や青首大根肩並べ       斎田 文子
走り根の滑る小径や冬木立      長澤 充子
江戸弁の売り子の声や年の市     飯田 誠子
日短か雀色時ひとを恋ふ       松本ゆうき
日記買ふ「残日録」と銘打ちて    中川 照子

(清記順)

【一口鑑賞】ふところに列車走らせ山眠る」えつ子さんの句。ローカル線の旅だろうか。寒々しい中にあっても、冬日の当たる雑木山の景に何だかほっとさせられる。「山眠る」は北宋の画家・郭熙(かくき)の画論の一節「冬山惨憺として眠るが如し」に基づいた季語。眠りの中にある雑木山が列車の音をぼんやりと聴いている感じだ。冬の山を擬人化して的確に詠んでいる。
 「一碧の沖に船置く枯尾花」節子さんの句。小高い丘に立つ作者。沖に広がる碧い海を俯瞰している。キラキラ光る水平線には船が動いているようでもあり、泊まっているようでもあり。振り返れば、近くには枯尾花の野が広がっている。まるで一枚の絵のような一句。「遠富士や青首大根肩並べ」文子さんの句はよく目にする写真のようだ。青首大根の並ぶ畑をアップにして、遠くに富士山が小さく写っている。
 「日記買ふ『残日録』と銘打ちて」照子さんの句。何事にも細やかな作者のこことだから、かつては夢を綴る「夢日記」だったかもしれない。今は「残実録」と名付けたが、決して開き直ったわけではない。年の功で人生を達観するようになった証だろう。これからも「残実録」を長い長い俳句の記録にしてほしい。(潔)

艸句会報:かつしか(令和2年12月20日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「師走」

高点1句
侘助が満開ですねお義父さん     山田 有子

七草の籠を買ひ来る師走かな     山田 有子
居酒屋の手書きのメニュー年暮るる  三尾 宣子
笑ひ皺いつしか消えて十二月     小野寺 翠
健診の縮みし背丈干大根       霜田美智子
柚子風呂や孫は大人に「なにぬねの」 中山 光代
冬枯や野仏の顔薄れをり       近藤 文子
師走空上野浅草一万歩        片岡このみ
目覚しの三度に覚悟の冬の朝     笛木千恵子
喪中とてやるべき事はやる師走    五十嵐愛子
愛想良き人型ロボット街師走     新井 洋子
振舞の酒も自粛の夜警かな      新井 紀夫
ブティックの夜のウインドに雪女   山本  潔
水鳥や湖畔の宿のログハウス     佐治 彰子
ありし日の母と仕立てし蒲団かな   伊藤 けい

(清記順)

【一口鑑賞】侘助が満開ですねお義父さん」有子さんの句。「侘助」はツバキ科の樹木。椿に似た白や紅の小ぶりの花をつける。豊臣秀吉が朝鮮出兵した際に「わびすけ」という人物が持ち帰ったという説もあるが定かではない。寒くなり侘助が庭に咲くたびに義父のことが懐かしくなる作者。義父が大事に育てていたのだろう。死者への「満開ですね」という呼び掛けに親しみが込められている。
 「笑ひ皺いつしか消えて十二月」翠さんの句。「笑ひ皺」は文字どおり笑ったときにできる皺。若い頃は気にならなかったが、年齢とともに特に女性には気になるものらしい。しかし、師走の忙しいなかにあっては「笑ひ皺」を作る余裕もないということだろう。この句は「十二月」の慌ただしさを軽妙に伝えている。
 「振舞の酒も自粛の夜警かな」紀夫さんの句。昨今、夜警を行うところは少ないかもしれない。昔は「火の用心!」という声の後に「カチ、カチ」という拍子木を打つ音が聞こえてきたものだ。作者の住む亀有界隈では毎年行われているというが、今年は恒例の振舞酒が自粛に。これを楽しみに夜警に参加していた人もいただろう。コロナ禍の影響はこんなところにも表れている。(潔)

艸句会報:若草(令和2年12月12日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「安」

高点1句
夢で行く月面歩行羽根蒲団      針谷 栄子

老いもまた夫婦の絆冬林檎      針谷 栄子
十二月八日電車の窓開けて      山本  潔
収束の見へぬコロナ禍鰤起し     吉﨑 陽子
しぐるるや黒姫山の影移り      石田 政江
湯豆腐や掬う木の香のちりれんげ   安住 正子
一年の安堵に浸かる冬至風呂     市原 久義
ギャラリーに集ふ句友や十二月    沢渡  梢
おでん酒安全靴の泥乾び       新井 洋子
漬樽の箍締め直す十二月       飯田 誠子
安らぎや冬芽の眠りゐる大地     坪井 信子
風呂吹や心安らぐ日を恃み      岡戸 林風
走り根にハンドル取られ冬の暮    新井 紀夫
冬夕焼十年先は何処で見む      松本ゆうき

(清記順)

【一口鑑賞】夢で行く月面歩行羽根蒲団」栄子さんの句。羽根蒲団がなんとも気持ち良さそう。軽く、ふわふわした感じはまさに月を歩いているイメージ。人類が初めて月に降り立ったのは1969年。あれから既に半世紀。最近は惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウのかけらを採取して地球に運んできた。そんなニュースが作者に月へ行く夢を見させてくれたのかもしれない。
 「おでん酒安全靴の泥乾び」洋子さんの句。兼題の「安」から発想した「安全靴」。仕事を終えた職人たちがおでんをつつきながらお酒を飲んでいる。立呑み屋か屋台だろう。この句は靴の乾いた泥に着目したところがお手柄。危険と隣り合わせの工事現場や、仕事を終えた職人の安堵の表情が思い起こされる。
 「安らぎや冬芽の眠りゐる大地」信子さんの句。すっかり葉を落とした冬の木々。その造形は美しい。秋のうちに作られた芽を抱きながら木々が越冬する大地はまさに安らぎのなかにある。上五の「安らぎや」に詩情が感じられる。
 「風呂吹や心安らぐ日を恃み」林風さんの句。「風呂吹き」は大根や蕪の皮をむいて厚めに切り、昆布を敷いた鍋でゆっくりと煮る。みりん、砂糖などを入れて練った味噌を塗り、柚子を散らして熱いうちに食べれば体も心も温まる。この句はコロナ禍収束への願いが込められている。(潔)

艸句会報:連雀(令和2年12月4日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「笑」

高点3句
冬ぬくし遺影の母の片笑窪      安住 正子
マンホールの蓋はアートよ町師走   坪井 信子
舟唄の声のかすれや木の葉髪     山本  潔

木枯によろけて独り笑ひかな     飯田 誠子
徳俵とはまこと福の名大相撲     坪井 信子
参道の雲母の光る冬日和       進藤 龍子
冬満月この世更けゆき透明に     横山 靖子
山茶花笑むわが通院の往復に     春川 園子
母さんの作り笑ひや竈猫       山本  潔
日向ぼこ忘れ上手な齢となり     安住 正子
ひょっとこにどっと笑って里神楽   松成 英子
川筋を真一文字や冬の鷺       松本ゆうき
思ひ出し笑ひ笑はれ落葉道      中島 節子
冬靄に浮島かとも遠赤城山      向田 紀子
風に乗るカリヨンの音や冬薔薇    矢野くにこ
五十年の硯の重く漱石忌       束田 央枝

(清記順)

【一口鑑賞】「冬ぬくし遺影の母の片笑窪」正子さんの句。今回の兼題「笑」は「笑い」そのものから離れて発想するのはなかなか難しい言葉。作者は若くして亡くなった母親の遺影に「笑い」を見つけた。片笑窪のお母さんはチャーミングな表情をしているのだろう。「冬ぬくし」に作者の気持ちが表れている。
 「木枯によろけて独り笑ひかな」誠子さんの句。寒い日に着膨れて買い物に出かけた作者。木枯の吹き荒ぶなか、信号待ちをしていたのかもしれない。強風にあおられてよろけてしまった。周りを気にしながら、思わず独り笑いをしている作者の姿が目に浮かぶ。「思ひ出し笑ひ笑はれ落葉道」節子さんは実際に誰かに笑われてしまったことを詠んだ。いったい何を思い出したのだろう。いずれの句も笑いをやや自虐的に捉えて楽しい句になった。
 「風に乗るカリヨンの音や冬薔薇」くにこさんの句。カリヨンは複数の鐘を組み合わせて音楽を奏でる。もともとはフランドル地方(ベルギー、オランダ)の伝統楽器で、14世紀ごろから教会や鐘楼に設置されるようになった。この句を一読して神代植物公園のカリヨンを思った。薔薇園前の広場に設置されており、季節に合った曲を演奏する。今なら冬薔薇がじっとその音を聴いている。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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