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艸句会報:すみだ(令和3年8月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「宙」

高点2句
秋暑し売るか捨つるか読まぬ本    松本ゆうき
宙を飛ぶ夢を見てゐる箒草      貝塚 光子

鉄塔の迫る高さに稲光        岡崎由美子
韓藍や宙に弧を描く戦闘機      山本  潔
己が身を守るはおのれ赤とんぼ    松本ゆうき
向日葵や俯いてなほ日を追ひぬ    工藤 綾子
けふ処暑の心もとなき白き腕     岡戸 林風
湯治場にまたぎのつくる蝮酒     貝塚 光子
蜩や昼なほ暗き修験道        福岡 弘子
蓮の葉の風にくるくる水の玉     内藤和香子
秋めくや木漏れ日揺るる園の池    桑原さかえ
藤村の詩を諳んじつ秋の空      大浦 弘子
オリーブの鉢に水やる今朝の秋    長澤 充子

(清記順)

【一口鑑賞】宙を飛ぶ夢を見てゐる箒草」光子さんの句。「箒草(ほうきぐさ)」はこんもりと丸みを帯びている。その名が示すとおり草ぼうきを作るのに利用された。最近は「コキア」と言った方がピンとくる人が多いかもしれない。晩夏に穂状の小花をつけ、秋に結実する。この実は「とんぶり」と呼ばれ“畑のキャビア”として料理に珍重される。作者は「箒草」になりきって宙を飛ぶ夢を見ているのである。なんだかほのぼのとした気分になる一句。「オリーブの鉢に水やる今朝の秋」充子さんの句。マンションのベランダにさまざまな植物を育てている作者。まだまだ暑さは厳しいが、立秋の朝に水をやる気分は格別だろう。いろいろな鉢が並ぶなか、オリーブに焦点を絞った詠みぶりがいい。(潔)

艸句会報:東陽(令和3年8月)

東陽通信句会

高点2句
江戸つ子を気取つて啜る走り蕎麦   中川 照子
秋風鈴ときどき息を吹き返す     飯田 誠子

父よりも母よりも生き盂蘭盆会    斎田 文子
日傘閉づ纏ふ日差しをひと振りし   新井 洋子
手花火の匂ひ残りて深き闇      飯田 誠子
朝顔やけふは寝坊の一年生      貝塚 光子
一身を風にまかせて猫じやらし    安住 正子
手でちぎるナンをカレーに終戦日   山本  潔
八月や流れゆくもの遠ざかる     堤 やすこ
子どもらは河童と人魚夏終る     松本ゆうき
味噌汁のかをりふくふく今朝の秋   岡崎由美子
ほつほつと対岸に灯や夜の秋     岡戸 林風
虱にも黒白ありき終戦日       中川 照子
総身にまとふ浜風秋立ちぬ      中島 節子

(清記順)

【一口鑑賞】江戸つ子を気取つて啜る走り蕎麦」照子さんの句。家族で行ったお蕎麦屋さんでの一場面かもしれない。上品に音を立てずに食べようとする周囲の人々を尻目に、「そんなに気取ってどうするの。江戸っ子はねぇ〜」と大胆にもりそばを啜ってみせたのだろう。作者の大好きな歌舞伎にもそんなシーンがありそうだ。「八月や流れゆくもの遠ざかる」やすこさんの句。上五の切れに強い感慨が込められている。暦のうえでは夏から秋に変わるが、暑さはまだ厳しい。そんななかに原爆忌と敗戦忌があり、お盆も重なる。中七の「流れゆくもの」とは一体何だろう。おそらく大いなる時間。強いて言えば作者にとっての「昭和」という時代そのものなのではないか。(潔)

艸句会報:かつしか(令和3年8月22日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「鳳仙花」

高点2句
菩提寺の雨のにほひや著莪の花    中山 光代
地に脚の一つとどかず茄子の馬    山本  潔

銀漢や川面を青き高炉の灯      霜田美智子
天の川テトラポットに白い波     平川 武子
スカートの裾ひるがへし白雨かな   西川 芳子
子ら辻に明かりともして地蔵盆    佐治 彰子
秘めごとの種が弾けて鳳仙花     三尾 宣子
花柄の爪を真つ赤に鳳仙花      新井 紀夫
手の中に爆ぜゐて楽し鳳仙花     山田 有子
吾は母に姉は父似よ鳳仙花      伊藤 けい
マージャンの疲れリセット秋の風   西村 文華
馬上の子背筋をぴんと秋の空     片岡このみ
年甲斐もなく弾けたし鳳仙花     五十嵐愛子
盆の月姉さん被りの母夢に      中山 光代
風吹けば一茶の一句艸の市      山本  潔
はじけたき青春はどこ子らの夏    小野寺 翠
借家に爪紅と三年かな        高橋美智子
かそけしや高架下なる夕化粧     笛木千恵子
鳳仙花想ひ出つなぐ同窓会      千葉 静江
むかご採る山の静けさ引き寄せて   新井 洋子
ひぐらしや三歩先行く夫の背な    近藤 文子

(清記順)

【一口鑑賞】花柄の爪を真つ赤に鳳仙花」紀夫さんの句。「花柄の爪」というからには、白っぽいマニキュアに“花柄”を施したおしゃれな爪が思い浮かぶ。その爪が鳳仙花の汁で真っ赤に染まったのだろうと想像したが、作者は「“花殻”を摘んだ爪が赤く染まったことを詠んだだけ」という。「殻」と「柄」の違いが思わぬ解釈を生んだ一句。「年甲斐もなく弾けたし鳳仙花」愛子さんの句。鳳仙花は、実が熟すと弾けて種を飛ばす。作者も子どものころに実を指で挟んで種が弾けるのを楽しんだ思い出があるのだろう。この句は「年甲斐もなく」に作者の気持ちが素直に表れている。コロナ禍で溜まる鬱憤をぜひ晴らしてほしい。(潔)

艸句会報:若草(令和3年8月7日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「紀」

高点2句
皿替へていつものメニュー今朝の秋   針谷 栄子
泡ひとつ吐いて金魚の夢ごこち     飯田 誠子

新酒酌むあては紀文の焼きちくわ    山本  潔
寄添ふといふ優しさや甘野老(あまどころ)  岡戸 林風
養生の身を委ねたる籐寝椅子      安住 正子
新秋や少女の頃の愛読書        沢渡  梢
原爆忌青き地球を壊すまじ       飯田 誠子
ときをりは散りたきこころ水中花    坪井 信子
大往生と思へば蟬は死んだふり     松本ゆうき
白樺の風惜しみなく避暑の宿      新井 洋子
油照り水かけられて遊ぶ犬       石田 政江
原爆忌赦されぬこと赦すこと      市原 久義
コロナ禍の教育論よ夏の月       吉﨑 陽子
秋茄子を焼いて信濃の刺身とも     新井 紀夫
「どこでもドア」あればジュラ紀へ夏休 針谷 栄子

(清記順)

【一口鑑賞】皿替へていつものメニュー今朝の秋」栄子さんの句。句会の日はちょうど立秋。連日の猛暑でまだ実感はないが、秋の気配をいち早く感じて詠むことが俳句の醍醐味でもある。いつもと同じ朝食を作りながら、お皿を替えるところが繊細な作者らしい。朝の食卓にあたる光や食器の音、サラダの色合いなどに忍び寄る秋を感じたのである。「泡ひとつ吐いて金魚の夢ごこち」誠子さんの句。一読して泡を吐いた金魚の様子が目に浮かぶ。続いて金魚の眠そうな目玉が見えてくる。「金魚の夢ごこち」と言っているが、「夢ごこち」なのは作者自身なのだろう。読み手もなんだかほのぼのとした気分になってくる一句。(潔)

艸句会報:船橋(令和3年7月31日)

船橋句会(船橋市勤労市民センター)
兼題「辛」

高点2句
辛抱とみんみん蟬に諭さるる     市原 久義
サイダーのシュワシュワ君の変声期   針谷 栄子

駄菓子屋の葭簀の中の賑はいよ    川原 美春
つくばひに病葉一葉沈みをり     沢渡  梢
涼しさやビルに明かりの点るとき   小杉 邦男
狛犬の阿吽をさらひ蟬時雨      中川 照子
すれ違ふ胴長の犬百日紅       山本 吉徳
猛暑日の激辛カレーなら許す     山本  潔
雷鳥の一家寄り来る八合目      矢島 捷幸
人の世に甘さ辛さやソーダ水     岡戸 林風
田舎から夏野菜みなひよつとこ    三宅のり子
何気ない言葉にゆれてをみなへし   並木 幸子
涼しさや敗者勝者の深き礼      針谷 栄子
炎熱のコートを弾む黄のボール    市原 久義

(清記順)

【一口鑑賞】辛抱とみんみん蟬に諭さるる」久義さんの句。この夏もコロナ禍は収束しておらず、むしろ第5波が拡大中だ。「辛抱しなさいよ」とみんみん蟬に諭されたのは国民全体だろう。この句は、土の中で長い年月を過ごし、やっと成虫になって地上に出てきた蟬の視点で現在の社会を捉えている。みんみんの抑揚のある鳴き声が妙に心に響いてくる。兼題「辛」の文字をさらりと詠み込んで諧謔の句に仕上がった。「田舎から夏野菜みなひよつとこ」のり子さんの句。実家から届いた夏野菜だろうか。ダンボール箱を開けるとキュウリやナス、トマトなどが新聞紙に包まれてごっそり入っている。どれも規格外で形は良くないが、いかにも新鮮で美味しそうだ。そんな野菜の様子を「ひよつとこ」と言いとめたところにユーモアと詩心が感じられる。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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