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艸句会報:東陽(令和4年1月)

東陽通信句会

高点1句
山茶花や花占ひのごと散りぬ     新井 洋子

初夢の母はうなづくばかりなり    飯田 誠子
探梅や樹間に透ける海の色      岡戸 林風
霏霏と雪ヘッドライトに集まりぬ   安住 正子
葉牡丹の園にあまねき日差しかな   堤 やすこ
携帯電話一つ解約して寒波      山本  潔
臘梅の空の青さにすきとほる     長澤 充子
園晴れて名前数多の梅の花      斎田 文子
角凧の干支の寅吠ゆ河川敷      新井 洋子
御分祠の稲荷賑はふ一の午      向田 紀子
登校児雪掻く人へ「ありがたう」   中島 節子
感染の数をただ聞く冬ごもり     松本ゆうき
寒星の欠片こつんと空缶に      岡崎由美子
墨堤に淡き日差しや梅ふふむ     貝塚 光子
子役の出待つ楽屋口息白し      中川 照子

(清記順)

【一口鑑賞】山茶花や花占ひのごと散りぬ」洋子さんの句。山茶花はツバキ科で、冬の初めから12月末ごろまで紅や白などの五弁の花をつける。春に咲く椿が花ごとポトリと落ちるのに対し、花弁がはらはらと散る。そんな様子はいかにもはかないが、作者はそこから「花占ひ」を連想したのだ。いったい何を占ったのだろう。「感染の数をただ聞く冬ごもり」ゆうきさんの句。新型コロナウイルスはオミクロン株によって流行の第6波の中にある。重症化リスクは低いとされるものの、若年層への感染が拡大している。この句は、「ただ聞く」という措辞によって、数字が人々の恐怖心を煽るような事態を客観的に見ている作者の表情が浮かんでくる。(潔)

艸句会報:すみだ(令和4年1月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「香」

高点1句
寒蜆この世に未練もう少し      髙橋 郁子

松過ぎの厨の隅の残り酒       内藤和香子
雪嶺を仰ぐ出湯や大糸線       矢島 捷幸
寒牡丹人の吐息に囲まれり      工藤 綾子
寒の入わが書の並ぶ日書展      長澤 充子
寒肥を光のごとく零しけり      山本  潔
冴ゆる夜の妻の遺稿に目を通す    岡戸 林風
吸呑みの吸口かたき寒の夜      岡崎由美子
笑ひ皺ふえるもよろし明の春     福岡 弘子
人日の灯らぬ窓や夕ざるる      大浦 弘子
大寒の麻酔痺るる歯の治療      貝塚 光子
寒月やふと触れ合ひし手のぬくみ   山本 吉徳
犬二匹躾ける少女日脚伸ぶ      松本ゆうき
極寒の心身ほどくアロマの香     高橋 郁子

(清記順)

【一口鑑賞】寒蜆この世に未練もう少し」郁子さんの句。昨年、ご主人を亡くされた作者。寂しさを感じながらも、時の流れとともに前向きな気持ちが湧いてきたようだ。蜆はカルシウムやビタミンBが豊富で、食せば肝臓の機能を助けてくれる。「寒蜆」の熱い味噌汁でも味わいながら、この先のことを考えているのだろう。気張らずに「もう少し」と肩の力が抜けているところが人気を集めた。「吸呑みの吸口かたき寒の夜」由美子さんの句。吸呑みを使うのは病気をした時くらいだろう。ここ半年余りの間に、艸では手術を受ける人が相次いだが、それぞれ強靭な精神力で乗り越えた。作者もこのほど退院したばかり。冬の夜の病院のベッドで不安を抱えながら口にした吸呑み。その吸口の硬さを体感的かつ詩的に捉えたところが見事だ。読み手にも硬さが伝わってくる。(潔)

艸句会報:かつしか(令和4年1月23日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「初東風」

高点5句
書初の夫の硯へ足すさみず      山田 有子
微笑みに微笑み返す初鏡       高橋美智子
百千鳥集ふあの家何かある      松本ゆうき
呑むほどに佳き水のごと年の酒    山本  潔
寒見舞古都の和菓子の紅ほのか    佐治 彰子

川岸の午後の散歩や日脚伸ぶ     平川 武子
初春やパンダの一家ほのぼのと    山田 有子
卓囲み笑顔ここのつ千代の春     西村 文華
初東風や落人村の峠道        佐治 彰子
印伝の小さき財布を買初に      伊藤 けい
社長の訓示壁に掲げる初仕事     高橋美智子
初御空反り返り見る御神木      近藤 文子
初春や尼の板書の楷書体       笛木千恵子
雪原の涯に煌めく海の紺       新井 洋子
初東風やペダルを踏めば旅心地    五十嵐愛子
大寒の光る水面のいと眩し      小野寺 翠
初東風やほど良き知らせ連れて来い  三尾 宣子
 愛宕神社
今更に出世坂など初詣        新井 紀夫
冬満月女医に診らるる尻ひとつ    松本ゆうき
清正の水湧くところ春を待つ     山本  潔

(清記順)

【一口鑑賞】書初の夫の硯へ足すさみず」有子さんの句。年が明けて初めて筆で文字や絵を描くのが「書初」。書くことそのものを重んじる儀式として二日に宮中で行われていたのが江戸時代以降は庶民にも広まった。習字といえば墨汁に頼りがちだが、作者のご主人は硯で墨を摺ることを大事にしているのだろう。そばでじって見ている作者が「さみず(真水)」を足す様子も厳かに感じられる。「微笑みに微笑み返す初鏡」高橋美智子さんの句。いきなり「微笑みに」で始まり、さらに「微笑み返す」とたたみ掛けたところで「初鏡」が目の前に現れる。どちらも作者(あるいは読者)自身のものだとわかると、肩透かしを食わされたようでありながら、何だか楽しくなる一句。(潔)

艸句会報:若草(令和4年1月8日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「若」

高点3句
凍雲や居るべき人のゐない家     山本  潔
おしやべりに葱の顔出すエコバック  市原 久義
魴鮄のやうな顔して炬燵夫      安住 正子

風の日の寒林管弦楽のやう      坪井 信子
羊羹の尻押してゐる女正月      安住 正子
若水を鉢の魚にも分けにけり     新井 紀夫
初場所やかつて郷土に若秩父     山本  潔
東京のへそのあたりや初詣      松本ゆうき
鎌鼬疎開の記憶新たにす       新井 洋子
若返るための断食初湯かな      沢渡  梢
天を指す欅の梢や深雪晴       岡戸 林風
転ぶなよ風邪引くなよと初便り    吉﨑 陽子
独楽ぶれてこれぞ地球の断末魔    市原 久義
弓形に撓む太枝蜜柑の黄       石田 政江
大旦煮しめに咲かす捻り梅      針谷 栄子
酔ふほどに戦後を語るおでん酒    飯田 誠子

(清記順)

【一口鑑賞】おしやべりに葱の顔出すエコバック」久義さんの句。奥様と一緒にスーパーへ買い物に行った帰りだろうか。知人とばったり会って世間話に夢中になっている奥様をじっと観察している作者。奥様は時折エコバックを持つ手を替えたり、肩にかけたりしている。そのうち葱が待ちくたびれたかのようにバックから顔を出したのだ。冬の鍋物には欠かせない葱をユーモラスに捉えた一句。「若水を鉢の魚にも分けにけり」紀夫さんの句。「若水」は元朝に汲む水のこと。邪気を払う神聖なものとされ、かつては年男が井戸や川の水を汲んで神棚に供えた。今や水道水やペットボトルの水であっても、水を敬う気持ちを込めて「若水」と呼ぶ。そんなめでたい水を、飼っている魚にも分け与えた作者。生き物を愛する気持ちが現れている。(潔)

艸句会報:連雀(令和4年1月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「五日」

高点3句
逝きし人すべていとほし冬桜     横山 靖子
老いしこと忘れてゐたり初鏡     安住 正子
牛日や一人のための薬缶の湯     坪井 信子

句心に添ひて生きたし老の春     矢野くにこ
大甕の花の水替ふ五日かな      安住 正子
音信の復活うれし年賀状       向田 紀子
年新た心新たに年女         春川 園子
逝く年や父は高木母は大樹      山本  潔
健やかに老いを生きたし寒卵     飯田 誠子
野阜の冬芽促す護摩太鼓       束田 央枝
細々と残る記憶や初むかし      松本ゆうき
左手に真砂女の句集師走かな     坪井 信子
棚奥の大鉢小鉢年用意        中島 節子
赤色のパンタロン行く冬日和     渕野 宏子
娘の一家帰り洗濯する五日      松成 英子
若者とシャンパンを酌む大晦日    横山 靖子

(清記順)

【一口鑑賞】牛日や一人のための薬缶の湯」信子さんの句。正月五日が「牛日」。ちなみに一日は「鶏(けい)日」、二日は「狗(く)日」、三日は「猪(ちょ)日」、四日は「羊(よう)日」、六日は「馬(ば)日」。七日になって「人(じん)日」となる。昔の中国の占いが関係しているらしい。掲句は、世間の仕事始めと重なる日に一人でいる寂しさを詠んだのだろう。薬缶の湯を「一人のための」と限定したところに境涯感が滲み出ている。「音信の復活うれし年賀状」紀子さんの句。年賀状の発行枚数は年々減少しており、近年は「来年からは賀状を失礼します」と書き添えてくる人もいる。年賀状を書く大変さを詠む人も少なくないが、この句は音信の耐えていた人から賀状が届いた喜びを素直に詠んだ。清々しさが伝わってくる。(潔)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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