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艸句会報:かつしか(令和4年4月24日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「落し角」(「落」「角」の詠み込みも可)

印象句
生き方を自問してをり落し角     西川 芳子
【一口鑑賞】牡鹿の角は春に根元から抜け落ちる。これが「落し角」。角が落ちた鹿は気力が萎えるらしく、どこか寂しげに見える。遅くとも秋には新しい角が現れるが、それまでどんな気持ちでいるのだろう。この句は、そんな鹿のことを思いやりながら、作者自身の今を重ね合わせている。頼りにしていたお兄様が亡くなり、途方に暮れているそうだ。こうして俳句を詠むことで、自分の心を落ち着かせているのかもしれない。(潔)

花吹雪天守の鯱に届かざる      佐治 彰子
蚕豆の三つ子に双子一人つ子     小野寺 翠
村正の妖刀伝や春の雷        笛木千恵子
亀有の角の伊勢屋の柏餅       新井 紀夫
この風に乗れば天下よ五月鯉     近藤 文子
きりりと立つ楷の新樹と孔子像    五十嵐愛子
戦止むひまわり畑春の夢       西村 文華
春惜しむ銀座の角のテラス席     山本  潔
落し角仏像展の阿修羅像       千葉 静江
冷やかしを冷やかされ買ふ植木市   霜田美智子
春寒や北信五山はるかなり      伊藤 けい
汐まねきかはたれ星に振る鉗     新井 洋子
ほろ苦し蕗刈る指の先までも     片岡このみ
空想癖の孫につかまり春炬燵     高橋美智子

(清記順)

艸句会報:東陽(令和4年4月23日)

東陽句会(江東区産業会館)

印象句
憲法記念日点字のごとく活字撫づ   松本ゆうき
【一口鑑賞】今年も「憲法記念日」が近づいてきた。ロシアのウクライナ侵攻による国際情勢の緊迫化もあり、改憲論議に拍車がかかりそうだ。そんな状況を目の当たりにしながら、憲法関連の本を書棚から引っ張り出したのだろう。そのなかには活版印刷の古い本もあり、指でなぞると「点字のごとく」文字が触れるのだ。この句はその一点に絞って詠まれており、抑制が利いている。活字を愛するのと同じように、平和憲法を大事に思う作者の気持ちが感じられる。(潔)

初燕スクールレーン新しく      堤 やすこ
初蝶来植木鉢など並べ替へ      安住 正子
四月尽妻の遺品の手つかずに     岡戸 林風
暮れてゆく水のひかりの花筏     飯田 誠子
菜種梅雨客三人の荒川線       向田 紀子
高圧線の伝ふ頂上山笑ふ       斎田 文子
花ミモザ散るモザイクの石畳     中島 節子
長堤の茅花流しや夕明り       貝塚 光子
飛花落花双手あげゐる車椅子     中川 照子
永き日をクラリネットの音が紡ぐ   新井 洋子
あかときの土鳩鳴きやむ穀雨かな   山本  潔

(清記順)

艸句会報:若草(令和4年4月9日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「奥」

印象句
春愁断つポップコーンの爆ぜる音   針谷 栄子
【一口鑑賞】春に訳もなく哀しくなったり、物思いにふけったりするのが「春愁」。秋の「秋思」ほど深い感情ではなく、春ならではの淡い哀感を言う。作者は、何となく憂鬱な日にポップコーンを作ったのだ。自宅でもフライパンや電子レンジを使って手軽に作れる。その弾ける音を聞いているうちに気持ちが明るくなってきたのだろう。「春愁断つ」が一見大げさな印象だが、「ポップコーン」の語感と響き合ってユーモラスな句になっている。(潔)

あちこちに納むる会費四月馬鹿    新井 紀夫
たんぽぽや帝釈天と寅さんと     松本ゆうき
奥付の月日の嵩や昭和の日      吉﨑 陽子
木蓮のほどけるやうな終りやう    隣   安
奥多摩の奥の源流花筏        安住 正子
春の蚊来勝手知つたる顔をして    市原 久義
花疲れ茶漬けで済ます夕餉かな    沢渡  梢
老桜風生句碑と対座して       石田 政江
朝ぼらけ祖谷渓に聴く初音かな    飯田 誠子
子も犬も蝶も佛も野辺が好き     坪井 信子
花筏師の七回忌すぐそこに      山本  潔
葛飾の真間の奥津城余花の雨     岡戸 林風
顔に塗る無料サンプル万愚節     新井 洋子

(清記順)

艸句会報:連雀(令和4年4月6日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「住」

印象句
ボール蹴り清明の野の展ごれり    束田 央枝
【一口鑑賞】「清明」は二十四節気の一つ。春分から15日目で、太陽暦では4月5日頃。万物が清らかで生き生きとしていることを示す「清浄明潔」の略とも言われる。いろいろな花が咲き、人々の気持ちも明るくなってくる。日々の散歩を欠かさない作者。この日も野原を歩いていると、サッカーボールが転がってくるではないか。気合を入れて蹴り返すと、野原が広がったように感じられたのだ。元おてんば娘の作者が「清明」を体感した瞬間の一句。(潔)

西海は亡夫の古里島ざくら      坪井 信子
戦なき日々をつむいで大桜      横山 靖子
養花天封筒ごとに出費先       矢野くにこ
花樒ビルの囲める小さき墓地     松成 英子
春疾風屋根が飛んだといふ便り    松本ゆうき
囀や古墳出土の町に住み       向田 紀子
薇の元気を巻いてゐる形       山本  潔
竹秋や古き調度に埋れ住み      飯田 誠子
ペンギンの潜る水面へ散る桜     中島 節子
沈丁花使ひ走りの夜道かな      渕野 宏子

(清記順)

艸句会報:船橋(令和4年4月3日)

船橋句会(船橋市勤労市民センター)
兼題「晴」

印象句
お稽古はここまでにして桜餅     市原 久義
【一口鑑賞】「桜餅」は江戸時代に向島(墨田区)の長命寺門前の茶店で作られたのが始まりという。小麦粉と白玉粉を溶いて焼いた薄皮で餡を包み、塩漬けの桜の若葉でくるんだもの。独特の香りに引き寄せられる。掲句は、何かの稽古の際に差し入れられた桜餅が気になって仕方がなかったのだろう。稽古を早めに切り上げ、お茶もいれて「さあ、いただきましょう」というその瞬間に詠まれたような一句。読者も思わず食べたくなる。(潔)

人のこゑ地のこゑ枝垂桜かな     山本  潔
花人となり弘法寺の磴百段      安住 正子
真間四丁目弘法寺の桜狩       新井 紀夫
もう母の顔となりたる孕猫      針谷 栄子
春風や「健気」てふ名の仔犬ゐて   川原 美春
久方の真間の探勝花の雨       岡戸 林風
野遊びの子らは光の妖精に      岡崎由美子
地味に生き桶の田螺の泡ひとつ    並木 幸子
潮干狩遠き船より寄する波      小杉 邦男
難民に母と子多し春おぼろ      飯塚 とよ
山門の仁王二体や桜散る       平野 廸彦
窓よりの春の光やオムライス     三宅のり子
山門に真間を見晴す花の句碑     隣   安
春雨や晴れ男だと言つたはず     沢渡  梢
手児奈姫いはれの井戸や春の雨    石田 政江

(清記順)

艸句会報:東陽(令和4年3月)

東陽通信句会

印象句
雛仕舞ふ雛の吐息と吾が吐息     岡崎由美子
【一口鑑賞】俳句には一読して意味が明快なものもあれば、曖昧だが惹かれる句もある。どちらがいいとは一概に言えない。私は作者の心の揺らぎを感じたいと思っている。掲句は雛納めの場面。思い出の詰まったお雛様との対話を大事にしてきた作者。何かと不安なことが多い今の世の中にあって、仕舞う前に自分自身の気持ちをお雛様に打ち明けたのだろう。二つの「吐息」からそこはかとない寂しさが伝わってくる一句。(潔)

帰り際女雛の髪にふれゆく子     中川 照子
気がつけばドラマの終り春眠し    斎田 文子
何とまあ日の経つ速さ彼岸過ぎ    堤 やすこ
生垣に門を構へず梅屋敷       向田 紀子
限りなくうぐひす色の春の夢     山本  潔
橋脚にからみし蔓の芽吹きかな    安住 正子
追憶の淡き苦みや青き踏む      岡戸 林風
麗かや大川端に夫とゐて       貝塚 光子
山寺の大回廊や花吹雪        長澤 充子
手秤の右手左手春キャベツ      新井 洋子
蒲公英やころころ笑ふお嫁さん    飯田 誠子
今すぐに戦止むべし麦青む      松本ゆうき
亀鳴くや体重計へ二度三度      中島 節子

(清記順)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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