かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「吾亦紅」
印象句
携帯をマナーモードに虫の声 霜田美智子
【一口鑑賞】秋もたけなわ。いつの間にか蟬の鳴き声が途絶え、草叢からいろいろな「虫の声」が聞こえてくる。まさに〈露しげき葎の宿にいにしへの秋にかはらぬ虫の声かな〉(源氏物語「横笛の巻」)である。そんな「虫の声」を愛おしむ作者。劇場や映画館でするのと同じように「携帯をマナーモードに」したのだ。身近に鳴く虫たちを驚かせないようにという気持ちが表れている。伝統的な季語に現代的な携帯電話を取り合わせたユーモラスな一句。(潔)
秋雲や錆幾年の転車台 佐治 彰子
初めての自己紹介や秋祭 西村 文華
屈みつつ萩のトンネル風と過ぐ 笛木千恵子
性(しょう)を見て間引く匠や竹の春 近藤 文子
秋祭仕舞太鼓の佳境かな 小野寺 翠
晩年はさらりと生きむ吾亦紅 三尾 宣子
捕物帳三の巻へと夜長かな 伊藤 けい
瀬戸内を包む幻想霧の朝 五十嵐愛子
日の匂ひ残る刈田のかちがらす 新井 洋子
独り言多くなりけり吾亦紅 片岡このみ
夢を見し数だけ花に吾木香 山本 潔
読み返す父への弔辞秋彼岸 新井 紀夫
妣恋し故郷恋し吾亦紅 西川 芳子
秋澄むやいぼとり地蔵のよだれかけ 千葉 静江
(清記順)
東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句しせほ 例句/自然薯の全身つひに堀り出さる 岸風三樓
印象句
しんがりの先生の手に穂草かな 安住 正子
【一口鑑賞】この日の最高点を獲得した一句。出席者からは「自然に詠まれていて折句とは気づかなかった」との声が上がった。折句は作ってみると楽しいが、ただの言葉探しに終わる危険性をはらむ。その点、この句は日常のなかの一コマを題材にしながら、さらりと詠まれていて無理がない。いつも通学路に立ち子どもたちの交通安全を見守っている作者。先生の姿もよく観察しているからこそ生まれた一句。下五の「穂草かな」に温かみが感じられる。(潔)
信濃へと井月を訪ふ暮秋かな 岡戸 林風
こぼれ萩昼は乾きし涙石 新井 洋子
ゐのこづち猿が蚤とるごとく取る 松本ゆうき
晩年や吾を励ます鉦叩 斎田 文子
ポケットに同居Suicaと団栗と 中川 照子
信州や鶺鴒の鳴く保安林 山本 潔
新蕎麦の絶品といふ法師の湯 堤 やすこ
恋路には免許はいらぬ照紅葉 飯田 誠子
長き夜やモツ煮の旨い立ち飲み屋 新井 紀夫
予定なき日々や台風迷走す 中島 節子
(清記順)
若草句会(俳句文学館)
兼題「窓」
印象句
カーナビに任す遠出や野菊晴 新井 洋子
【一口鑑賞】今や車の運転にカーナビは欠かせない。かつては助手席の連合いが地図を見誤れば、喧嘩のもとになったものだが、そんなストレスからも解放された。それはさておき、カーナビと「野菊晴」を取り合わせた俳句に初めて出合った。さぞかし充実したドライブだったのだろう。富安風生に〈かかる日のまためぐり来て野菊晴〉がある。昭和20年の作で、安否の分からなかった俳友たちと再会し、平和の帰ってきた野菊の小径を歩いた喜びが詠まれている。あれから77年。(潔)
重陽にちむどんどんの「艸」句会 にしい季衣子
モンローかくびれ自慢の大ふくべ 新井 洋子
この窓は星を見るため星月夜 山本 潔
山葡萄わが手にかけてワインにす 石田 政江
指組めば届く祈りや窓の月 沢渡 梢
機織の糸屑の舞ふ夜なべの灯 新井 紀夫
胸キュンとなることありや敬老日 松本ゆうき
行合の雲の流れや遠案山子 岡戸 林風
竹幹の白き粉ふく秋気かな 安住 正子
島唄に宿る海神鳥渡る 針谷 栄子
おむすびのころころころり馬肥ゆる 吉﨑 陽子
助手席の案山子労ふ老農夫 市原 久義
能面の眼のひかり秋の雷 飯田 誠子
(清記順)
連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「飯」
印象句
耄碌は向かうから来る秋の雲 松本ゆうき
【一口鑑賞】澄みわたる青空の高いところに浮かぶ「秋の雲」。眺めていると爽やかな気持ちになる一方で、寂しくなったり、郷愁にかられたりすることがある。いつの間にか自分の年齢を意識するようになった作者。頭をよぎるのは「耄碌(もうろく)」の文字。この句は、老いることへの不安な気持ちを吐露しながらも、一種の開き直りによって生を達観しようという心持ちが伝わってくる。ユーモラスな内容に季語がほどよく利いているからだろう。(潔)
何ごともなく夕暮るるとろろ汁 束田 央枝
レントゲン写真のやうな秋の雲 渕野 宏子
上寿まで生くるこころや茸飯 坪井 信子
佃煮と一膳飯の夜食かな 山本 潔
秋暑いま字の乱れたるわが手紙 春川 園子
月代をのせて寄す波返す波 松成 英子
秋の夜や手拍子にのるジャズバンド 中島 節子
山若葉昼を灯して秘湯宿 横山 靖子
切々と鳴く秋蟬の声一つ 矢野くにこ
飯田橋歩道橋より昼の月 向田 紀子
(清記順)
船橋句会(船橋市勤労市民センター)
兼題「有、楽」
印象句
風爽か両国橋をくぐりゐて 平野 廸彦
【一口鑑賞】この日は午前中にミニ吟行(浅草橋駅〜柳橋〜薬研堀〜両国橋〜回向院〜両国駅)を楽しんだ。残暑が厳しいなかとはいえ、川に沿って歩くと秋らしさが感じられた。両国橋の近くには神田川の河口があり、岸辺に沿って散策するには絶好の場所。この句は、橋の下で感じた涼しさを素直に書きとめた。原句は上五の季語が「秋風や」だったが、傍題にある「風爽(さや)か」に替えてみた。この方が作者の実感に近いのではないだろうか。(潔)
秋茜静まりかへる橋の町 新井 紀夫
秋の夜や楽々生きて来た素振り 沢渡 梢
神田川山手の秋を大川へ 矢島 捷幸
有明の大橋行けば秋の風 小杉 邦男
気楽なる都電の旅や鰯雲 並木 幸子
正客の楽の一碗風炉名残 岡戸 林風
橋詰の小さき舟宿式部の実 岡崎由美子
橋桁に水かげろふや秋の川 安住 正子
有り無しの風にささやく竹の春 山本 潔
寄せ植ゑの公民館の花壇かな 三宅のり子
法師蟬終楽章を鳴きとほす 市原 久義
有り難うの言葉ほしくて送る梨 飯塚 とよ
風音の強くなりけり盆用意 針谷 栄子
(清記順)
かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「文」
印象句
残暑なほ熱の地球に抱かれて 佐治 彰子
【一口鑑賞】今年の夏は記録的な猛暑となり、立秋後の「残暑」も身に応える日が続いた。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などで世界が混沌とするなかにあって、余計な疲れを感じている人も少なくないだろう。しかし、暑さへの恨み節を言っても仕方がない。「地球に抱かれて」いる自分自身を見つめながら、気候変動のダイナミズに思いを馳せる作者。上五の「残暑なほ」に心のゆとりが感じられる。(潔)
一文字笠の緒締めて風の盆 霜田美智子
巣ごもりの一日は長し鶏頭花 伊藤 けい
帰省子の帰りしあとや人疲れ 片岡このみ
人は木にもたれて休む文月かな 山本 潔
水盤に育つひと株稲の花 近藤 文子
秋高し埴輪の口の「ほう」と開き 新井 洋子
文ちやんは良妻賢母菜を間引く 髙橋美智子
今朝秋や熱きまま飲む薬草茶 千葉 静江
古文書の吾妻鏡や蔦かづら 小野寺 翠
リハビリは牛歩のやうね文字摺草 三尾 宣子
盂蘭盆会AI 国からアイボ来る 西村 文華
腰痛を言ひ訳にして昼寝かな 西川 芳子
虹立つや姉妹そろつて身を反りぬ 笛木千恵子
仕舞船出で渡し場の虫すだく 新井 紀夫
白い歯を見せて球児の夏終る 五十嵐愛子
(清記順)