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艸句会報:すみだ(令和4年10月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「驚」

印象句
秋冷や楽の茶碗の手に重し      髙橋 郁子
【一口鑑賞】秋も半ばを過ぎると、寒さを肌で感じるようになる。朝晩の空気や風、雨だけでなく、家のなかでも素足で歩くと床が冷たい。そんな季節の移ろいを体感で詠むのも俳句の楽しみの一つと言っていい。この句は、冷やかさのなかでいつも使っている楽茶碗が重いと感じたのだ。病み上がりで体が疲れているせいかもしれないし、何やら気がかりなことがあるからかもしれない。秋の深まりは心身の微妙な変化を気づかせてくれる。(潔)

狗犬の驚く木の実時雨かな      岡戸 林風
マイナンバーとうとう義務化そぞろ寒  大浦 弘子
擂粉木の音の軽さやとろろ汁     内藤和香子
虫の夜や古き家計簿読み返し     福岡 弘子
落日と色を一つに柿熟るる      山本 吉徳
式部の実日差しをかへす色の冴へ   工藤 綾子
長き夜も驚くほどの早寝かな     松本ゆうき
胡桃よりぬくもり貰ふ老の指     矢島 捷幸
駅前のジャズにスイング秋うらら   貝塚 光子
古書店の珈琲コーナー秋惜しむ    山本  潔
教会の白壁覆ふ蔦紅葉        長澤 充子
賑やかに鯊釣舟の一家族       岡崎由美子

(清記順)

艸句会報:かつしか(令和4年10月23日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「時雨」

印象句
裏木戸を通り過ぎたる時雨かな    三尾 宣子
【一口鑑賞】兼題「時雨」で詠まれた一句。冬の初めにさっと降ってはさっと上がる雨。北西の季節風が山地に当たって雨雲をつくり、山から山へ移動して行く。ことに京都の時雨は名高い。得体の知れない何者かがやって来る気配を感じた作者。やがて雨がパラパラっと音を立てて通り過ぎていったのだ。今や「裏木戸」のある家は珍しい。旅先の宿での体験を思い起こして詠んだのかもしれない。「時雨」がまるで生き物のように感じられる。(潔)

子育ての担い手ばかり敬老会     高橋美智子
豊の秋禿頭くもりなく光り      新井 洋子
竹垣を組む地下足袋や昼の虫     伊藤 けい
しやりしやりと研ぐ包丁や菊日和   片岡このみ
時雨るるや化野までの人力車     五十嵐愛子
時雨来て奥社は遠き杉並木      佐治 彰子
時雨るるや船のワイパーこきこきと  霜田美智子
対岸を子らの走りて片時雨      西川 芳子
空澄むや東京港のコンテナ船     笛木千恵子
時雨るるや積み荷の多き宅配車    山本  潔
時雨忌や俳句齧りて遠き道      小野寺 翠
柿喰らふ添削の朱にうなづきつ    近藤 文子
ジョギングの肩怒らせて朝時雨    西村 文華
時雨るるや無我の境地の座禅かな   新井 紀夫

(清記順)

艸句会報:東陽(令和4年10月22日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句ひあな 例句/灯が洩れて秋の簾となりにけり
   詠込「文」

印象句
することのなくて耳かく小春かな   堤 やすこ
【一口鑑賞】一読してすっと心に入ってきた。ただ耳をかいただけのことなのに真実味がある。上五から中七への句またがりにも淀みがない。下五に置いた「小春かな」が効いている。初冬の季語で、本格的な冬の寒さに向かう前の、暖かさの戻る日和を言う。俳句は十七音の短い詩型だから、多くを言うことはできない。この句は「することのなくて」のシンプルな言葉がそれらしい情景を浮かび上がらせた。この秋、作者はめでたく卒寿になられた。(潔)

冷やかに朝の浦町なまこ壁      岡戸 林風
路地裏の耳かけ地蔵菊日和      斎田 文子
一葉落つ朝の散歩の永田町      山本  潔
アルバムに一通の文秋深し      岡崎由美子
新聞のまづ漫画より文化の日     中島 節子
比叡にも悪僧をりし流れ星      中川 照子
実柘榴や弁士碑文の露西亜文字    松本ゆうき
高速の船に乱るる鴨の陣       新井 紀夫
仏手柑ありがたしとも怖しとも    新井 洋子
火恋し削除に終はる夜のスマホ    向田 紀子
秋深し写真の裏の父の文字      堤 やすこ
付け文といふ遠き日や葉鶏頭     飯田 誠子
日の燦と赤き色増す七竈       安住 正子

(清記順)

艸句会報:若草(令和4年10月8日)

若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「衣」

印象句
独り身の起き伏し後の更衣      岡戸 林風
【一口鑑賞】「後の更衣」が晩秋の季語。更衣は平安時代の宮廷行事だったのが江戸の頃には一般に普及した。ただ単に「更衣」と言えば夏の季語だが、「後の更衣」は10月に入って冬物に替えること。作者は、1年前に奥様を亡くされた。それまで季節ごとに着る物を出してくれた人がいなくなり、今さらながらに感謝の念が湧いてくると同時に、更衣もままならない侘しさが身に染みるのだろう。兼題「衣」から今の作者自身を詠んだ一句。(潔)

海山の四股名を競ふ相撲取      松本ゆうき
色あせし文庫本読むちちろの夜    飯田 誠子
替へゐたる供花の水にも菊匂ふ    針谷 栄子
秋高しダッシュする子と測る父    新井 紀夫
秋場所や綺麗どころの抜衣紋     安住 正子
庭中をダリアに妣の好きな花     石田 政江
露草や橋の袂の道しるべ       岡戸 林風
鬼の子や襤褸の衣の一張羅      新井 洋子
藤袴つなぐ手ほしき散歩道      吉﨑 陽子
行く秋やもつ煮鮟肝酒二合      沢渡  梢
秋声や幾何学文の能衣裳       山本  潔

(清記順)

艸句会報:連雀(令和4年10月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「信」

印象句
秋めくや信玄袋提げ街へ       中島 節子
【一口鑑賞】兼題「信」から発想して詠まれた一句。「信玄袋」はもともと厚地の織物で作った手提げ袋で、口紐が付いている。和装に合うため、明治中期より主に旅行用の小物入れとして流行したという。今では、ちょっとした街歩きに重宝するファッションアイテムとして若者にも人気があるようだ。掲句は、秋めく街の散策を楽しもうという気分が「信玄袋」を通して伝わってくる。声に出して読むと、下五の韻律が軽快だ。(潔)

秋彼岸信心篤くなき私        春川 園子
白萩の零るる庭のひとところ     横山 靖子
名月に心あづけて老いひとり     束田 央枝
抜歯後の疼きにも似て地虫鳴く    向田 紀子
ミサイルが飛び越えてゆく稲田かな  山本  潔
夕蟬の泣き止む今を哀しめり     坪井 信子
余生てふ日々も楽しや鰯雲      松成 英子
信楽の壺にたつぷり花芒       飯田 誠子
秋空を祓うパンパスグラスかな    中島 節子
赤信号赤字大国赤蜻蛉        松本ゆうき

(清記順)

艸句会報:船橋(令和4年10月1日)

船橋句会(船橋市勤労市民センター)
兼題「素」

印象句
君の愚痴素直に聞ける良夜かな    川原 美春
【一口鑑賞】この日は東京メトロ東西線の浦安駅に集合し、山本周五郎の小説で有名な船宿や、その界隈の古民家、神社などを吟行してからいつもの句会場へ。さて、吟行句を押さえて最高点を獲得したのが掲出句。日常生活の一コマに兼題「素」を素直に詠み込み、句意が明解なところが共感を呼んだ。季語の力を信じて詠んだ一句。他の人の吟行句も力作が多かった。(潔)

リヤカーの幅の路地より素風かな   隣   安
べか舟の在りし川面や鰡跳ねる    新井 紀夫
秋うらら猫実二丁目猫カフェ     沢渡  梢
古民家に十月の風やはらかし     山本  潔
秋のこゑ魔除けの獅子の釘隠し    岡崎由美子
枝折戸を開くやそこに小さき秋    矢島 捷幸
どこまでもコバルトブルーの月夜かな 三宅のりこ
蔦絡む鳥と目の合ふ素十の忌     並木 幸子
彫深き本殿の龍浦祭         岡戸 林風
鯊釣の入れ食ひ急ぐ次の竿      小杉 邦男
拾ふ気はなくも気になる銀杏の実   中島 節子

(清記順)

艸句会報:すみだ(令和4年9月28日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「秋の雨」

印象句
好きなこと学ぶ晩年豊の秋      長澤 充子
【一口鑑賞】誰しもこうありたいと願うだろう。俳句はもちろんのこと、シャンソンや手芸など幅広い趣味を持つ作者。コロナ禍で好きな旅行に出かける機会が減ったこともあり、学びに余念がないようだ。そんな日常生活を振り返りながら、ふと口を衝いて出てきたような一句。「豊の秋」は五穀一般の実りの良いことを示す季語。作者にとっては、今こそ人生の豊年と言える喜びに満ち溢れている。なんともうらやましい。(潔)

丁寧に畳む便箋秋の雨        岡崎由美子
健康寿命もう少しほし吾亦紅     髙橋 郁子
くたくたの糸瓜でこするあばらぼね  矢島 捷幸
みなどこか陰を持ちゐる榠櫨の実   内藤和香子
ローマ字で刻む墓石や秋の雨     山本 吉徳
秋雨の染みゆく峡の古生層      山本  潔
湯上がりの夫に糸瓜の化粧水     貝塚 光子
泣き止まぬ深夜の赤子秋の雨     工藤 綾子
萩の寺埋もれしままに芭蕉句碑    岡戸 林風
茜雲彼の地は戦火秋燕        大浦 弘子
露の身に軽重ありや草の花      松本ゆうき
花野へと昆虫放つ男の子       福岡 弘子

(清記順)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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