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艸句会報:かつしか(令和4年12月25日)

かつしか句会(亀有学び交流館)
兼題「五」

印象句
ボーナスや五黄の寅の娘来る     西村 文華
【一口鑑賞】「五黄(ごおう)の寅」は九星気学と干支の占いにおいて、強い運勢を持つ年に生まれた人を指す。近年では1950年(昭和25)、1986年(昭和61)、そして2022年(令和4)が該当する。この句は「ボーナスを持って五黄の寅の娘が遊びに来た」と解釈した人が多かったが、実はそうではなく、最近4人目にして初めて女のお孫さんが誕生した喜びを詠んだという。兼題「五」から「五黄の寅」への発想がユニーク。おめでとうございます。(潔)

小流れに攩(たも)持つ子ども小春空 伊藤 けい
煌めきだす聖夜の湾や展望台     五十嵐愛子
心充つ大根一本使ひ切り       新井 洋子
伝説の北信五山眠りけり       霜田美智子
着ぶくれて有馬記念の五点買ひ    山本  潔
あと五年生きると見込み日記買ふ   新井 紀夫
するめ焼くストーブ列車五能線    片岡このみ
冬の月三百六十五歩の跡照らす    近藤 文子
下仁田の葱買ふための遠まはり    小野寺 翠
病室の窓を横切る枯葉かな      西川 芳子
何時からか赤出汁仕立て納豆汁    西村 文華
玲瓏たる冬満月やひとり鍋      佐治 彰子
雪時雨旅の終りの石舞台       高橋美智子
薬飲む水から白湯に冬の朝      三尾 宣子

(清記順)

艸句会報:東陽(令和4年12月24日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題「視」

印象句
おしやべりに楽しく疲れシクラメン  安住 正子
【一口鑑賞】「シクラメン」は地中海東北部原産。もともとは春咲き、秋咲きのある野生種で、16世紀末にヨーロッパへ渡り、多くの園芸品種が生まれた。歳時記では春の季語だが、近年はクリスマスや正月に楽しまれるようになっており、冬に詠まれても違和感はない。歳末の忙しい時期におしゃべりに夢中になっていた作者。楽しい会話に心地良い疲れを感じながら目にした深紅のシクラメンに癒やされたのだろう。実感が伝わってくる。(潔)

着ぶくれて新宿駅の迷路かな     向田 紀子
野良猫に会ひにゆく道落葉道     岡崎由美子
毛布被つてゲームの夫の反抗期    飯田 誠子
聖樹綺羅いくさの闇は如何許り    堤 やすこ
呆け防止の新書に疲れ小春かな    中島 節子
水仙や墓地売り出しの赤幟      斎田 文子
冬怒濤視界の果ての七ツ島      安住 正子
衰へし視力師走のATM        岡戸 林風
少年の視線定まる寒稽古       山本  潔
かんむりは折紙の星クリスマス    中川 照子
水晶玉に見る過去未来暖炉燃ゆ    新井 洋子
あの世とはこんなものかな日向ぼこ  松本ゆうき
煤逃げや独演会の「芝浜」を     新井 紀夫

(清記順)

艸句会報:すみだ(令和4年12月21日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「暖房器具」一切

印象句
独り居の洋間にでんと置炬燵     福岡 弘子
【一口鑑賞】部屋の中に炉を切って櫓を組む「切炬燵」に対し、「置炬燵」は持ち運びができるという点で画期的な発明だっただろう。江戸中期には浮世絵にも描かれている。現代の電気置炬燵は昭和の高度経済成長期から一気に普及したようだ。掲句は、この冬の作者の暮らしをそのまま素直に詠んだという。「洋間にでんと」とはユーモラスで力強い一方、独り暮らしになった寂しさの裏返しのようにも感じられる。ほんのりとした味わいのある一句。(潔)

故郷は遠のくばかり雪積る      工藤 綾子
電気毛布の虜となりて予後の夫    貝塚 光子
ストリートピアノ奏づる聖歌かな   福岡 弘子
手焙や当ての鯣をあぶりつつ     山本  潔
裏高尾足裏にやさし落葉径      髙橋 郁子
年の瀬やひよいと出てくる探し物   内藤和香子
暖房のスイッチ入れて二度寝かな   長澤 充子
文机に母の似顔絵床暖房       大浦 弘子
何かまだ為残してをり師走かな    松本ゆうき
セーターを買うて一人の午後のカフェ 岡崎由美子

(清記順)

艸句会報:若草(令和4年12月10日)

若草句会(ギャラリー バルコ)
兼題「大・久・保」

印象句
寒紅や豆大福の上新粉        沢渡  梢
【一口鑑賞】「寒紅」は文字通り寒中に作られた口紅。品質が良く、化粧品というだけでなく、口から入る病や虫を防ぐ毒消しとしても珍重されたようだ。この句は、上五の「寒紅や」で切れた後、直接的には何の関係もない「豆大福の上新粉」が登場する。いわゆる「二句一章」という形で俳句の骨法の一つ。冬の寒さのなか、鮮やかな紅と大福の白さの意外な取り合わせによって、ハイセンスな作者の日常が垣間見えるようで面白い。(潔)

旧かなの亡母のレシピの煮大根    霜田美智子
干大根立山(やま)風海風つかみをり 吉﨑 陽子
大らかに生きて見上ぐる冬銀河    岡戸 林風
汁までもすすつてしまう大根焚    飯田 誠子
大久保も新大久保も冬めける     山本  潔
大隠に遠き起き臥し実千両      松本ゆうき
神宮のたなごころにて七五三祝(しめいはひ)石田 政江
泥染の大島紬句座納む        沢渡  梢
河豚の鰭干して開店準備中      新井 洋子
暇無き介護勤労感謝の日       市原 久義
極月や干支の張子のうす埃      安住 正子
宿坊の朝の大玉寒卵         新井 紀夫

(清記順)

艸句会報:連雀(令和4年12月7日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「気」

印象句
冬麗の富士全容やアロエ咲く     向田 紀子
【一口鑑賞】アロエは南アフリカ原産の多肉植物。世界に400種以上の原種があるという。観賞用や食用、薬用に栽培され、日本でも11〜2月頃に一般家庭の玄関先などに赤やオレンジの花をつけているのを見かける。近年は冬の季語として歳時記に載っている。この句は季重なりだが、冬のよく晴れた日の美しい富士山を遠くから一望する感動を、足元に咲いたアロエの花が盛り立てる。作者は西東京市の眺めのいいマンションに暮らしている。(潔)

蕎麦切りの小気味よろしき町師走   向田 紀子
始祖鳥の夢追ひかける厚毛布     坪井 信子
湯気立てて老老介護風邪心地     飯田 誠子
川沿いに芝居の幟冬夕焼       松成 英子
通院と入院ばかり古暦        矢野くにこ
白菜切る音夕闇を連れてくる     束田 央枝
革ジャンや気持十歳若くなり     松本ゆうき
素つ気ない風情の猫や年の暮     山本  潔
くじ引きの三等ファイル街師走    中島 節子
胃カメラの麻酔の醒めて冬紅葉    横山 靖子

(清記順)

艸句会報:船橋(令和4年12月3日)

船橋句会(船橋市勤労市民センター)
兼題「直」、ミニ吟行「南行徳野鳥観察舎」

印象句
熱の子を抱き寒夜の当直医      並木 幸子
【一口鑑賞】12月に入った途端に寒さが厳しくなった。晩秋の夜に感じる寒さを「夜寒」「宵寒」などと言うが、冬は「冬の夜」だけで十分寒さが伝わる。その副季語が「寒夜」であり、「寒き夜」とも言う。この句は兼題「直」から「当直医」を登場させた発想力に感心する。冬の夜に熱を出した子どもが急患で運ばれてきたのだろう。当直医の慌てぶりが想像される。ましてやコロナ禍が未だに収束していないこともあり、「熱の子」にも緊張感が漂う。(潔)

憲法九条語りし人よ冬に逝く     飯塚 とよ
閑かなる野鳥病院笹子鳴く      沢渡  梢
落葉降る犬と戯る潔さん       新井 紀夫
豆柴の蹴散らしてゆく落葉かな    山本  潔
障害の吾も師走のボランティア    三宅のり子
保護鳥の標の足輪冬日差し      岡崎由美子
俎板を削り直して師走来る      川原 美春
大鷺の集へる潟や冬日和       岡戸 林風
冬日差す鳶の翼の傷癒えて      並木 幸子
落葉散る川辺掃除の爺一人      小杉 邦男

(清記順)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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