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艸句会報:すみだ(令和5年4月26日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題:「今・日・和」(任意に詠み込み)

印象句
カヤック漕ぐ掛け声高く夏に入る   長澤 充子
【一口鑑賞】カヤックは水上のスポーツやレジャー用の一人乗りの小舟。もともと北極圏の先住民族が海で猟をするために使われていた。クローズドデッキのなかに足を前方に伸ばして坐り、両端に水かきのついたパドルと呼ばれる櫂で漕ぎながら進む。カヌーの一種と捉えれば夏の季語ともなり得るが、この句はあくまで「夏に入る」が主題。川で高校生たちがカヤックの練習をする様子を見かけた作者。掛け声の高さに夏の到来を感じて素直に書きとめた一句。(潔)

今を詠む句帳片手に目借時      岡戸 林風
囀や古刹に古き投句箱        福岡 弘子
啄木忌菊坂下のいり豆屋       髙橋 郁子
足場組む鳶の若さや風光る      内藤和香子
木の芽和頷くだけの味見役      岡崎由美子
庭荒れて生り放題の夏蜜柑      長澤 充子
夏はじめ駅のピアノの三和音     江澤 晶子
光から光へ鳥や潮干潟        山本  潔
病室の夫励まさん若葉道       貝塚 光子
山吹や雨に和らぐカフェテラス    大浦 弘子
蚕豆や今日一日の夢のあと      松本ゆうき

(清記順)
※次回(5月24日)の兼題はテーマ「下町の川」

艸句会報:かつしか(令和5年4月23日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「蜃気楼」

印象句
漁船いま蜃気楼へと呑まれゆく    新井 洋子
【一口鑑賞】「蜃気楼」は晩春の季語。空気の温度変化による光の異常な屈折により、見えるはずのないものが海や砂漠などに浮かび上がる現象。「蜃」という水中の大蛤が吐き出す気によってつくられる幻影と考えられたことが語源のようだ。掲句は、この日の最高点を獲得した。実際に見たことがない人にもそれらしい映像が頭に浮かんだからだろう。「漁船いま」の措辞に臨場感がある。国内では魚津市の蜃気楼が有名。同じものは二度と見られないという。(潔)

蜃気楼空けてしまつた玉手箱     高橋美智子
遠のける街の喧騒飛花落花      平川 武子
萬愚節炙り出しの絵燃えにけり    霜田美智子
青い鳥探す途中や蜃気楼       小野寺 翠
蜃気楼AIに問ふ詩の未来       山本  潔
しばらくは留守といふ家たんぽぽ黄  笛木千恵子
寄り道の一つ増えたる日永かな    西川 芳子
初夏だより令和と書くも常となり   近藤 文子
ランチ皿運ぶロボット昭和の日    片岡このみ
伸び伸びと自由自在に花薺      西村 文華
遠隔の恋の話や蜃気楼        伊藤 けい
端座して法話を聴くや弥生尽     新井 紀夫
そよ風や代官山の花楓        五十嵐愛子
能登瓦光る町家や燕来る       佐治 彰子
天と地の間に人の世目刺焼く     新井 洋子
ファミレスの給仕ロボット夏隣    千葉 静江

(清記順)
※次回(5月28日)の兼題は「葉」の詠み込み

艸句会報:東陽(令和5年4月22日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題 テーマ「折句たおく」例句 旅せんと思ひし春も暮れにけり 虚子

印象句
田螺鳴く幼なじみと酌む一夜     岡崎由美子
【一口鑑賞】「田螺鳴く」は「亀鳴く」と同じ春の季語。秋の「蚯蚓鳴く」「蓑虫鳴く」と同様で、実際には鳴かないものを鳴かしてしまうところが俳句の面白いところ。和歌や古い文献に基づいているようだが、空想の季語として定着している。久しぶりに小学校の同級会に出た作者。コロナ禍で会えなかった幼なじみとも再会して昔話に花が咲いたのだろう。この句は、季語がほどよく効いている。折句とは思えない、全く不自然さのない作品に仕上がった。(潔)

まくなぎと客引きからは逃げるのみ  松本ゆうき
春の夢はるかに響く打球音      飯田 誠子
ひんやりと谷戸の夕ぐれ残る花    岡崎由美子
春筍の土もち上げてゐる時間     安住 正子
たんぽぽや親に似てくる暮らしぶり  堤 やすこ
株分けを育て幾年君子蘭       中島 節子
青きもの青く茹で上げ春惜しむ    新井 洋子
泰山木咲く大きな家の句会かな    斎田 文子
少年のこころ抱きて茅花引く     岡戸 林風
山ざくら峠をひとつ越えてより    山本  潔
雪解道短歌へのみち家持像      中川 照子
聞き逃すことの増えたり草の餅    向田 紀子
桜蘂降る流鏑馬の女騎手       新井 紀夫

(清記順)
※次回(5月27日)の兼題は「折句あしな」<例句>頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋

艸句会報:若草(令和5年4月8日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「通」 席題「竹の秋」

印象句
警策や春睡に陥いらん時       新井 紀夫
【一口鑑賞】「警策」は「きょうさく」または「けいさく」と呼ばれる。禅宗において、座禅のときに用いられる扁平な棒状の道具のこと。座禅中に駄気や眠気から覚まさせるために、僧がこれで肩のあたりを打つ。馴染みの寺で月に一度、座禅に励む作者。睡魔に襲われ、今まさに眠りに落ちようとした時に警策に叩かれたのである。「春睡」は「春眠」の傍題。春はどの時間帯でも眠くなるが、この句はその瞬間を詠んだ。中七以降の句またがりも上手くいった。(潔)

心づくしの手話の通訳花だより    吉﨑 陽子
山吹の咲きて塞がる獣道       飯田 誠子
参道に寅さんのこゑ草団子      石田 政江
花疲れほのと明るき小料理屋     霜田美智子
花好きの母の忌日よ花祭       新井 洋子
花冷えの施設訪ふ人も無く      市原 久義
裏通り表通りの花水木        山本  潔
幾度も「彼我」通読や春の宵     安住 正子
木通咲き海の風くる切通し      岡戸 林風
天上の供花と思ほゆ桜かな      沢渡  梢
鉄砲隊ありし辺りや竹の秋      新井 紀夫
たんぽぽの絮のごとくに生きたしや  松本ゆうき
生け垣に見慣れぬ鳥や竹の秋     片岡このみ

(清記順)

艸句会報:連雀(令和5年4月5日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「家」

印象句
リハビリを更に励もう初桜      春川 園子
【一口鑑賞】「初桜」はその年の春に初めて咲いた桜の花。気象庁の開花宣言は目安であって、我々は身の周りで最初に目にとまった桜を「初桜」「初花」として詠めばいい。もちろん品種を染井吉野に限る必要もない。リハビリ生活を送っている作者。花に会えた喜びが力となって湧いてきたのだろう。「更に励もう」の措辞に実感がこもる。この句は、深見けん二の〈人はみななにかにはげみ初桜〉に呼応して詠まれたのではないか。思いを新たにする一句。(潔)

春北風や池の波紋の砕けをり     束田 央枝
ドタキャンの娘もかくや落椿     松本ゆうき
歳ごとに花の命を思ひけり      春川 園子
早世の少なき家系紫木蓮       向田 紀子

 坂本龍一逝く
竜天に登り哀しきピアノかな     山本  潔
走り根を大きく広げ城桜       飯田 誠子
家族みな一重瞼よ春深し       松成 英子
春雷や夫の鼻唄それつきり      中島 節子
春雷や非戦非核の啓示とも      横山 靖子
恐竜の話延々花筵          坪井 信子
白牡丹風の日の無垢保ちをり     矢野くにこ

(清記順)

艸句会報:船橋(令和5年4月1日)

船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題「装」 ミニ吟行:里見公園

印象句
花屑の道や雲踏む心地して      隣   安
【一口鑑賞】今月の船橋句会は市川市国府台の里見公園を訪ねた。桜の名所として知られるが、16世紀には小田原の北条氏と安房の里見氏が2度に渡り合戦を繰り広げたところ。飛花落花のなかを、この土地の歴史に思いを馳せながら歩いた。掲句は、道一面に広がる花屑の印象を「雲踏む心地」と捉えたところに詩心が感じられる。誰も雲は踏めないが、こう言われると読む方も納得してしまう。同時作の〈こんこんと泉のやうに落花かな〉もこの日の実感。(潔)

人はみな羅漢の顔に花吹雪      並木 幸子
こんこんと泉のやうに落花かな    隣   安
散りながら光る花びら西東忌     山本  潔
バス停にキラキラと舞ふ桜かな    平野 廸彦
青空に花も装ふ里見かな       小杉 邦男
春装の美女を間近に三鬼の忌     岡戸 林風
もう止めよ春野に行こう武装解き   川原 美春
チェーンソー響く家並み萬愚節    沢渡  梢
花散るや杖をつきゐて仁王立ち    三宅のり子
花時は冒険したく家を出る      飯塚 とよ

(清記順)
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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