かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「葉」
印象句
絵葉書に添へる一句や夏来る 片岡このみ
干涸びて路地にS字の蚯蚓かな 西川 芳子
【一口鑑賞】このみさんの句。普段から友達との手紙のやりとりを大事にしているのだろう。スマートフォンのメールやLINEの便利さにはかなわないが、手紙には手紙の良さがある。春から夏への季節の変わり目に添えたのはどんな一句だったのか。受け取った人は夏の到来を実感したに違いない。芳子さんの句は「蚯蚓」が夏の季語。しかも干涸びてS字形になって死んでしまった姿を直視している。生きとし生ける物への慈愛に満ちた一句。(潔)
若葉喰み空に近づく麒麟かな 新井 洋子
協議の輪解けて夏場所取り直し 小野寺 翠
若葉風爪立ちて見る大道芸 新井 紀夫
万巻の書に撓る床夏に入る 佐治 彰子
湧水の音高々と夏はじめ 伊藤 けい
句を添へて庵主の板書風薫る 笛木千恵子
バリバリと開く唐傘梅雨に入る 片岡このみ
倒木よ命宿すか梅雨茸 近藤 文子
夏に入る太極拳の青畳 西村 文華
葉陰より夏蝶出づるかくれんぼ 髙橋美智子
百年の神宮の森青葉木菟 霜田美智子
少子化に希望の風や五月鯉 平川 武子
木漏れ日や姿見えねど滝の音 五十嵐愛子
青時雨旅の葉書を濡らしけり 山本 潔
ひとり居の窓辺に揺るゝ青葉かな 西川 芳子
初夏の甘納豆へ爪楊枝 千葉 静江
(清記順)
※次回(6月25日)の兼題は折句「ひたな」
例句 引越しのたびに大きくなる金魚 星野恒彦
東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句「あしな」例句 頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋
印象句
走り梅雨養生中といふ芝生 向田 紀子
青林檎芯の味まで懐かしき 新井 紀夫
【一口鑑賞】紀子さんの句。春に芽吹いた若芝が成長し、夏になり青々としてくると実に清々しい。人々にとっては憩いの場である。ただし、美しさを保つには手入れも肝心。「養生中」の一言によって、その場の様子や最近までそこに遊んでいた人たちの残像が浮かんでくる。「走り梅雨」が効果的。紀夫さんの句は、折句とは気付かせないような自然な詠みぶり。こどもの頃に齧った信州の青林檎の味が忘れられないのだろう。「芯の味まで」に説得力がある。(潔)
星七つ重しと飛ぶや天道虫 向田 紀子
河骨の花咲く沼のよどみ濃し 飯田 誠子
照子さんの「蜃気楼」完成を祝し
麦秋の旅へいざなふ俳画集 山本 潔
指輪もう似合はぬ指や胡瓜揉む 岡崎由美子
代り映えなき身にうれし更衣 堤 やすこ
油虫しやかりきなりし流し台 松本ゆうき
雨蛙子規の庵に何さがす 中川 照子
青柚子や師の句碑の文字なめらかに 安住 正子
明日葉や島をふちどる波頭 新井 洋子
青空を白き雲ゆく夏はじめ 斎田 文子
明日を待つ静かな心茄子の花 岡戸 林風
黄砂降る新駅囲むクレーン群 新井 紀夫
アイスティー幸せさうに馴初めを 中島 節子
(清記順)
※次回(6月24日)の兼題は折句「なわと」
例句 夏羽織われをはなれて飛ばんとす 正岡子規
すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題:テーマ「下町の川」
印象句
祭来る美倉・万世・聖橋 髙橋 郁子
何事も話せる主治医窓若葉 福岡 弘子
【一口鑑賞】今月から新型コロナウィルスの感染症法上の分類が引き下げられたことに伴い、各地で祭が復活している。東京ではその先陣を切る形で神田祭が4年ぶりに開催された。郁子さんの句は、神田川に掛かる橋のなかから三つの名前を詠み込んだだけだが、「美倉・万世・聖橋」というフレーズのなかの六つのイ音が心地良いリズムを生んでいる。福岡弘子さんの句。信頼する主治医との会話は楽しいひとときでもあるのだろう。「窓若葉」が実に清々しい。(潔)
船乗りの斜めに傾ぐ夏帽子 松本ゆうき
在りし日の母に一句や月見草 大浦 弘子
川隔て向き合ふベンチ南風吹く 岡崎由美子
側溝に歩道に積もる夏落葉 髙橋 郁子
五月雨の夜の大川水あかり 長澤 充子
一之橋から二之橋へ街薄暑 山本 潔
小満や下町運河に潮満ちて 岡戸 林風
神殿へ婚礼の列若葉風 福岡 弘子
猫の子の重なり眠る古帽子 江澤 晶子
木洩れ日の影となりたる夏の蝶 内藤和香子
(清記順)
※次回(6月28日)の兼題は「傘・笠」
若草句会(俳句文学館)
兼題「正」 席題「雨」
印象句
新茶汲む大福餅の粉はたき 安住 正子
老木の若木に負けぬ茂りかな 市原 久義
【一口鑑賞】正子さんの句。大福には餅が手にくっつかないようにするため、取り粉がまぶしてある。片手で持ち上げた作者。粉が吹き飛ばないようにもう片方の手で軽く叩いて落としたのだ。それだけのことなのだが、「新茶」を味わうときの儀式のように思えてくるから面白い。久義さんの句は「茂り」が夏の季語。木々の枝葉が鬱蒼と茂っているさまを言う。山全体や草むらにも用いる。句会では老木を自分自身に重ね合わせて共感する声も上がった。(潔)
子規庵の厠板張り走り梅雨 安住 正子
缶蹴りの缶蹴り上げて夏に入る 沢渡 梢
ねんごろに気付きをメモる新社員 市原 久義
大正琴流るゝ路地の吊荵 霜田美智子
校庭のピンクの薔薇や「ノックアウト」松本ゆうき
玄関の正面に座す胡蝶蘭 吉﨑 陽子
煮て炊いて筍づくしの夕餉かな 石田 政江
新樹光生まれくる娘の名をすでに 新井 洋子
耳元をくすぐる初夏の風ふふふ 片岡このみ
そぼ降れるケバブの街や濃紫陽花 新井 紀夫
雨音に上目遣いの金魚かな 飯田 誠子
薫風や襟を正して行く径 岡戸 林風
根本莫生さんを悼み
呑みませう蕎麦焼酎の蕎麦湯割り 山本 潔
(清記順)
※次回(6月10日)の兼題は「青田」
連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「壺、坪」
印象句
蛸壺のごとき闇より昼寝覚 松本ゆうき
細々と一級河川蘆茂る 束田 央枝
【一口鑑賞】兼題「壺」を詠み込んだゆうきさんの句は「昼寝覚」が夏の季語。真夜中に熟睡していたつもりが、目覚めたら意外にも昼間だったのだ。「蛸壺のごとき闇」が言い得て妙。〈蛸壺やはかなき夢を夏の月 芭蕉〉の蛸になった気分だったのかもしれない。央枝さんの句。一級河川は重要な水系を、支流も含めて国が指定している。散歩コースの小さな川が「一級」であることに気付いた作者。ちょっとした驚きを巧みに書きとめた。「蘆茂る」の斡旋もお見事。(潔)
莫生さんのまさかの訃報若葉雨 春川 園子
夢はらむ天の深さや鯉のぼり 矢野くにこ
和菓子舗のガラスのケース緑さす 向田 紀子
日の本の壺ぞ憲法記念の日 松本ゆうき
師の忌来て師の誕生日来て卯月 山本 潔
あめんぼう雲から雲へ跳びにけり 飯田 誠子
古代よりの欅の勢ひ風は首夏 束田 央枝
春の香を壺に籠めたること秘密 坪井 信子
大壺の今や傘立夏に入る 中島 節子
小満や壺にさしたる野の草木 松成 英子
げんげ田や牛も寛ぐ富士裾野 横山 靖子
(清記順)
※次回(6月7日)の兼題は「七」の詠み込み
船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題 折句「はいこ」例句 白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
ミニ吟行:亀戸天神、香取神社、普門院
印象句
筆塚やわが字正さむ櫂若葉 岡戸 林風
葉桜や今憲法が声を出す 飯塚 とよ
【一口鑑賞】林風さんの句は亀戸天神での作。書家が筆に感謝するとともに、更なる上達を願って使い終えた筆を納めたのが筆塚。俳句では自分の句はもちろんのこと、人の句を清記用紙に丁寧に書くことが大事だ。櫂の木は楷書の「楷」に通じる。とよさんの句。世論調査でも改憲の賛否が拮抗するなか、平和を願う作者の気持ちが伝わってくる。「今憲法が声を出す」という措辞にハッとさせられる折句。上五の「葉桜」も効いている。(潔)
若葉風大根風や大根碑 新井 紀夫
天神の池の緑や五月晴 小杉 邦男
風そよぐ立夏の天神詣かな 平野 廸彦
廃寺に祈る影あり棕櫚の花 隣 安
灰色のイコンのイエス苔の花 沢渡 梢
亀戸に仰ぐ夏雲師の忌過ぎ 山本 潔
ガチャガチャに夢のころがる子供の日 並木 幸子
晴れ女と云はるゝ君の更衣 岡戸 林風
はればれと生きる力や今年竹 岡崎由美子
コットンのシャツの手触り今朝の夏 三宅のり子
ロボットの運ぶランチや夏に入る 川原 美春
(清記順)
※次回(6月3日)の兼題は「六」の詠み込み(「六月」を除く)