fc2ブログ

艸句会報:すみだ(令和5年6月28日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「傘、笠」

印象句
浜風や母の微睡む浜日傘       岡崎由美子
五月雨や手放すピアノ少し弾く    福岡 弘子

【一口鑑賞】由美子さんの句。声に出して読むと、「浜日傘」の下で微睡む母の姿とともに、心地良い韻律が響いてくる。打ち出しの「浜風や」に続き、中七、下五も「ハ(Ha)」で始まる。さらに17音のなかに「ア(a)」の音が11音もあり、まさに風の吹くようなリズムを生んでいる。俳句は調べが大切と思わせてくれる一句。福岡さんの句は、長年親しんできたピアノとの別れを詠んだ。「少し弾く」に惜しむ気持ちが込められている。昭和の名曲「雨音はショパンの調べ」のメロディが聴こえてくるようだ。(潔)

喜寿傘寿卒寿そろうてソーダ水    山本  潔
ふるさとの廃線覆ふ竹落葉      大浦 弘子
破れ傘何やら潜み雨やどり      貝塚 光子
ビル街を傘の色どる梅雨の昼     内藤和香子
夏バテに酢の物酢豚酢味噌和へ    江澤 晶子

 「艸」夏号
旅心誘ふ表紙絵山開き        髙橋 郁子
傘寿などまだまだ若し浮いてこい   松本ゆうき
雲海の切り岸に立つ日の出前     長澤 充子
傘持つて父待ちし駅蚊喰鳥      岡崎由美子
木漏れ日に雨の雫や破れ傘      岡戸 林風
新婚の嫁の見立ての白日傘      福岡 弘子

(清記順)
※次回(7月26日)の兼題は「本」

艸句会報:かつしか(令和5年6月25日)

かつしか句会(亀有地区センター)
兼題 折句「ひたな」例句 引越しのたびに大きくなる金魚 星野恒彦

印象句
低く高く棚田かすめて夏燕      佐治 彰子
一言の旅の絵はがき夏の峰      平川 武子

【一口鑑賞】この日、かつしか句会では初めて折句に挑戦した。彰子さんの句は、棚田に飛来した「夏燕」を詠んでいる。「低く高く」が燕の動きを的確に伝えており、棚田をかすめる様子も目に浮かぶ。よく旅をしている作者。心に残る景を思い出しながら、折句とは思えないような自然な一句に仕上がった。武子さんの句は「旅の絵はがき」を題材にした折句。病気で外出のままならない作者による欠席投句だが、互選では最高点に輝いた。下五に置いた「夏の峰」が読み手の目にも鮮やかに立ち上がる。(潔)

ニュートンの林檎の木の実まだ青し  五十嵐愛子
広げつつ畳み皺とる夏衣       佐治 彰子
老猫の闊歩の寺や額の花       笛木千恵子
ひとすぢに高き空へと夏の蝶     西川 芳子
額の花親も口開け離乳食       平川 武子
虹立ちて消えて人の世おもろかな   近藤 文子
文字摺草約束ひとつ違へけり     三尾 宣子
ひきがへる田毎田毎に鳴き合へる   新井 紀夫
リハビリの送迎バスや梅雨の中    伊藤 けい
水無月やLINEの友は亡くなりぬ     西村 文華
街薄暑昭和を残す喫茶店       小野寺 翠
秘め事や箪笥に仕舞ふ夏の帯     千葉 静江
花ゆうな少年の読む平和の詩     山本  潔
窓ガラス全て拭きあげ夏は来ぬ    霜田美智子
水中の岩と化す河馬日の盛り     新井 洋子
貸しボート退屈さうに揺れてをり   片岡このみ

(清記順)
※次回(7月23日)の兼題は「大」

艸句会報:東陽(令和5年6月24日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句「なわと」例句 夏羽織われをはなれて飛ばんとす 正岡子規

印象句
蝸牛知らぬ言葉に知らん顔      中川 照子
九十の夏やピンクのスニーカー    堤 やすこ

【一口鑑賞】照子さんの句。インターネットの社会になり、日々新しい言葉が生まれている。SNSやテレビを見ていても「何のこと?」と首を傾げる場面が増えた。そんな「知らぬ言葉」の洪水に恐れを抱く作者。「知らん顔」をしているのが一番と開き直った自分を「蝸牛」になぞらえているのだろう。やすこさんの句。「九十の夏」を迎えてなお若々しく矍鑠(かくしゃく)としている作者。「ピンクのスニーカー」をぶつける感覚が素晴らしい。何事にも前向きな気持ちがあればこその一句。見習いたい。(潔)

名をなせる我らが主宰闘魚たり    安住 正子
亡き人の若書きの詩や遠花火     山本  潔
夏来たる若馬駈ける都井岬      斎田 文子
何となく脇道を行く土用の日     岡戸 林風
鳳梨積む店の一隅異国の香      新井 洋子
目袋の垂るゝ吾が顔夏の風邪     新井 紀夫
鉄鍋に炊きたての香や鮎の飯     向田 紀子
生卵若布味噌汁土用入        堤 やすこ
潮入の逆巻く池や夏椿        中島 節子
夏至の日の老人ひとりマチス展    松本ゆうき
襟足の白さ眩しく夏祭り       飯田 誠子
なまくらの吾を諾ひ心太       岡崎由美子

(清記順)
※次回(7月22日)の兼題は折句「かよひ」
 例句 烏瓜よごとの花に灯をかざし 星野立子

艸句会報:若草(令和5年6月10日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「青田」 席題「新茶」

印象句
先生のいがぐりあたま青田風     松本ゆうき
引く波にくすぐられたる跣足かな   安住 正子

【一口鑑賞】ゆうきさんの句。「青田風」の吹く学校の校庭に立つ教師の姿が目に浮かぶ。小学校か中学校か、あるいは高校の頃か…。かつてはどこの学校にも一見怖そうだが、心根の優しい先生がいて生徒にも慕われていた。「いがぐりあたま」が読み手の想像を掻き立てる。作者はこの先生に親しみを抱いていたのだろう。正子さんの句。「跣足」が夏の季語。砂浜に打ち寄せた波が引いていく様子を足の裏の感覚で捉えている。中七の措辞が巧み。(潔)

思ひ出す妻の指南や新茶汲む     岡戸 林風
実梅生る軒すれすれを青梅線     片岡このみ
梅雨入しておやつの英字ビスケット  沢渡  梢
天瓜粉眉間の皺の深さかな      新井 紀夫
梅雨晴間下校チャイムの間延びして  飯田 誠子
百選の水を沸かして新茶かな     安住 正子
丸めがね似合ふ教え子五月晴     吉崎 陽子
書き足して被爆者名簿曝さるる    市原 久義
青田風スープのからむちぢれ麺    山本  潔
夏薊牧に余生の競走馬        新井 洋子

(清記順)
※次回(7月8日)の兼題は「味」

艸句会報:連雀(令和5年6月7日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「七」

印象句
四葩咲く揃ひの傘の三姉妹      飯田 誠子
調律の効かぬ齢や六月来る      矢野くにこ

【一口鑑賞】誠子さんの句。「四葩の花」は紫陽花の異名。「あぢさゐ」は「あづ(集まる)さあゐ(真の藍色)」から生まれた語という。顔見知りの三姉妹と四葩の前で遭遇した作者。「揃ひの傘」を素直に書きとめたことで一句は成った。読み手にも映像が立ち上がる。くにこさんの句。卒寿を過ぎた自らを「調律の効かぬ齢」とはよく言ったもので、音楽好きらしいユーモアのセンスが感じられる。この日も句会の締めに美声を披露してもらった。(潔)

七三の男の髪や銀座朱夏       向田 紀子
上水の水音いまも桜桃忌       坪井 信子
ロボットのごと簇々と子蟷螂     松本ゆうき
一病を生きるも天与額の花      矢野くにこ
湯をさます間のもどかしく新茶かな  春川 園子
団子虫七転八倒して芒種       山本  潔
夏きざす大桟橋に白き船       横山 靖子
頬赤き志功の女人てんたう虫     飯田 誠子
顔なじみ田植のあとの湯治客     松成 英子
実直に早世の父青胡桃        束田 央枝
五穀米まぜて米とぐ芒種の日     中島 節子

(清記順)
※次回(7月5日)の兼題は「色」一切

艸句会報:船橋(令和5年6月3日)

船橋句会(ギャラリー バルコ)
自由吟行:本土寺(千葉県松戸市)
兼題「六」の詠み込み(「六月」を除く)

印象句
千六本に切りてサラダの夏大根    新井 洋子
古池の六六魚肥え梅雨深し      岡崎由美子

【一口鑑賞】洋子さんの句。「千六本」は千切りのこと。中国語で細切り大根の意味の「繊蘿匐(せんろうぽ)」から転じたようだ。兼題「六」の詠み込みで発想した夏大根のサラダがいかにも美味しそう。厳密に見ると「千六本」は冬の季語「大根」の傍題にあるが、この句の場合は気にしなくていい。由美子さんの句も兼題から「六六魚(ろくろくぎょ)」を登場させた。鯉の異称で、体の側面におよそ36枚の鱗が一列に並んでいることに由来するらしい。「古池の鯉」も驚く一句。(潔)

味噌樽の天地返しや黴の花      霜田美智子
六区小路ブーツの似合ふ初袷     並木 幸子
裏町の漢方薬舗梅雨灯        岡崎由美子
戦とはゲームにあらず立葵      飯塚 とよ
紫もうす紫もあやめぐさ       沢渡  梢
花びらも雨後のかたちに菖蒲苑    山本  潔
六道の輪廻転生天道虫        岡戸 林風
往来の蜘蛛手の橋や花菖蒲      新井 洋子
探鳥会翡翠六羽を数へけり      新井 紀夫
石段の苔やはらかく朝涼し      小杉 邦男

(清記順)
※次回(7月1日)の兼題は「半」の詠み込み
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
艸俳句会カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
999位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
小説・詩
26位
アクセスランキングを見る>>
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR