すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「本」
印象句
渋団扇嫌なニュースにバタバタと 江澤 晶子
容赦なく老いの到来はじき豆 大浦 弘子
【一口鑑賞】晶子さんの句。「嫌なニュース」に実感がある。コロナ禍以降の世相を思い浮かべると、詐欺や強盗、殺人などが次々起きている。しかも耳を疑うような事件ばかりだ。加えてこの夏の猛暑。「渋団扇」は柿渋を表面に塗った丈夫なうちわ。それを思いきり胸に当てるように「バタバタと」煽いだのだろう。うんざりした気分が伝わってくる。大浦さんの句。老いの到来を感じながらも、そう簡単には受け入れたくない作者。「はじき豆」は蚕豆を炒って弾けさせたもの。老いに抗う気持ちを季語に託して詠み込んだ。(潔)
針穴に糸のむづかる暑さかな 内藤和香子
晩夏光ガラスペンもて旅だより 長澤 充子
盆踊りの手振り足取り本調子 貝塚 光子
夏草や草に本名・異称あり 松本ゆうき
蕎麦焼酎互ひの本音憚らず 岡戸 林風
葉柳や本陣跡の和菓子店 岡崎由美子
三伏の松本楼のカレーかな 山本 潔
夏のれん本場ですする蕎麦の味 髙橋 郁子
池仕舞ひ知るか知らずか蓮開く 福岡 弘子
(清記順)
※次回(8月23日)の兼題は「数」
かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「大」
印象句
縞馬の縞のよろける大南風 新井 洋子
手回しの鉛筆削り蟬の声 近藤 文子
【一口鑑賞】洋子さんの句。縞馬が実際によろけたわけではないのだろうが、そんな錯覚を起こしてもおかしくないと思えてくるから不思議。夏に吹く「大南風(おおみなみ)」との取り合わせで想像の世界が広がった。<しまうまがシャツ着て跳ねて夏来る 富安風生><縞馬の流るる縞に夏兆す 原田青児>に勝るとも劣らない一句。文子さんの句は「手回しの鉛筆削り」が懐かしい。一読して削るときの感触や木の匂いが生々しく蘇ってきた。「蟬の声」とともに子どもの頃の夏休みを思い出す。(潔)
ギヤマンの小皿に旬の香の物 三尾 宣子
読み違ふ君の本心サングラス 山本 潔
七夕や初めて書いた願ひ事 西村 文華
掃き清む尼寺白き夾竹桃 笛木千恵子
古団扇主が一句の墨の跡 近藤 文子
露天湯へ長き廊下や河鹿笛 佐治 彰子
日向へと蔓をのばして糸瓜かな 西川 芳子
大汗をかいて朝練部活の子 平川 武子
水遣りを終へるやいなや大夕立 新井 紀夫
表札に残す夫の名大西日 千葉 静江
滴りは山の涙か泣き止まず 新井 洋子
はからずも形見賜る盂蘭盆会 小野寺 翠
羅の盆僧脱ぎしヘルメット 伊藤 けい
電球の照らす駅名火取虫 霜田美智子
向日葵や撮り鉄並ぶ線路際 五十嵐愛子
(清記順)
※次回(8月27日)の兼題は「朝顔」または折句「あなや」
例句 あさがほや奈落のふちのやはらかく 正木ゆう子
東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句「かよひ」例句 烏瓜よごとの花に灯をかざし 星野立子
印象句
姉逝きて故郷遠く夕端居 斎田 文子
浜木綿や島のごとくに沖の船 中島 節子
【一口鑑賞】文子さんの句は「夕端居」が夏の季語。夕方、屋内にこもる暑さを避けて縁側や窓辺で過ごすことを言う。涼しい風に吹かれて庭の木や夕焼けの空などを眺めていると暑さを忘れる。掲句は、亡くなられたお姉さんを偲びながら、郷愁の思いに誘われている。節子さんの句。葛西臨海公園をよく散歩する作者。沖の船が島のように見えたという。思いは故郷の瀬戸内海に飛んでいたのかもしれない。「浜木綿(はまゆう)」は温暖な浜辺に自生するヒガンバナ科の植物。盛夏に白い花を咲かせる。(潔)
川崎工業地帯の夜を灯して納涼船 斎田 文子
鰻重やよき馳走とて遠慮なく 堤 やすこ
かがり火や宵を待たずに火蛾舞へり 岡戸 林風
朝顔市地下鉄車内までつづき 中川 照子
海の日の二級河川の朽小舟 安住 正子
平凡な生きざま隠す青簾 飯田 誠子
青葉木菟都心に今も深き森 新井 洋子
蚊遣火や宵の露店の人いきれ 新井 紀夫
哀しみの宵の灯ともす広島忌 山本 潔
ががんぼのよるべなき脚ひた跳ねて 岡崎由美子
カヌー漕ぎ四方の川風ひとり占め 中島 節子
夏風邪や冷製スープの浅みどり 向田 紀子
金子兜太世の中飽きて昼寝かな 松本ゆうき
(清記順)
※次回(8月26日)の兼題は折句「はあし」
例句 はからずも雨の蘇州の新豆腐 加藤楸邨
若草句会(俳句文学館)
兼題「味」 席題「白」
印象句
山上や雲海の帯解かれゆく 石田 政江
八方尾根ケルンは白き雲の中 片岡このみ
【一口鑑賞】政江さんの句。「雲海」は夏に限らず見られるが、登山との関連で晩夏の季語として定着した。放射冷却による自然現象だが、神秘性があり、近年は“雲海ツアー”が人気になっている。山の上で雲海をじっと眺めている作者。分厚い雲が少しずつ晴れていく様子を「帯解かれゆく」と感じたままに書き取った。このみさんも登山関連の季語「ケルン」を巧みに詠んだ。山頂や登山道の道標となるように石を円錐状に積み上げたもの。雲の中にあっても、ケルンの存在がしっかり感じられる一句。(潔)
片蔭の果てたるあとの道遠し 安住 正子
夏草や鉱山跡にねこぐるま 霜田美智子
ラベンダーの風の押しゆく乳母車 飯田 誠子
白南風や三度の味をひつまぶし 新井 紀夫
茗荷の子一つで足りる薬味かな 片岡このみ
心地良き封書の文字や風涼し 石田 政江
ここいらは紫陽花の青勝りけり 市原 久義
幽霊も毒味してゐるカレーかな 山本 潔
白シャツや紙石鹸の香のほのか 沢渡 梢
齢得てよりの倖せソーダ水 岡戸 林風
老夫婦揃ひの白きスニーカー 新井 洋子
(清記順)
※次回(9月9日)の兼題は「夢」
連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「色」
印象句
三毛猫も昼寝ピンクの舌見せて 坪井 信子
猫の手にあそばれてゐる青蜥蜴 向田 紀子
【一口鑑賞】信子さんの句。「昼寝」は夏の季語。夜の睡眠不足や昼間の暑さによる体力消耗を補うためにも有効だ。人事の季語は人間の生活に当てはめるものであり、単なる猫の昼寝では無理がある。この句は「三毛猫も〜」としたことで傍らに寝ている人間も辛うじて見えてくるのではないか。紀子さんの句も猫が登場する。もちろん主役は「青蜥蜴」。産卵期を迎えて餌になる昆虫や蜘蛛を探していたところ、逆に猫に見つかって慌てる姿が目に浮かぶ。身近な生き物たちへの眼差しが感じられる。(潔)
青林檎今なら書けるラブレター 松本ゆうき
新生姜初恋いろに漬かりけり 飯田 誠子
古代蓮水も洩らさぬ静けさよ 矢野くにこ
美容院のよもやま話熱帯魚 春川 園子
緑蔭に王座のごときベンチあり 横山 靖子
彼の人を偲ぶや四葩雨零す 坪井 信子
木の盆に蜂蜜色のかき氷 山本 潔
小児病棟受付前の七夕竹 松成 英子
惜しげもなく楊梅は地に踏む勿れ 中島 節子
烏賊釣火こよひも点る考の里 向田 紀子
夕焼や身の丈に生き安らけく 束田 央枝
(清記順)
※次回(9月6日)の兼題は「星」
船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題「半」
印象句
山原の杣の川瀬や下がり花 並木 幸子
聞こえるよおばあの願ひ慰霊の日 飯塚 とよ
【一口鑑賞】幸子さんの句。山原(やんばる)は沖縄本島北部一帯の呼び名。山々が連なり、常緑広葉樹林が広がる地域であり、ヤンバルクイナの生息地としても知られる。きこりの伐り出した樹木の流れる川を「杣の川瀬」と言い止めたところが巧み。「下がり花」は夏の夜にピンクまたは白の房状の花を付ける。いわゆる地貌季語の一つとみていいだろう。とよさんの句。「慰霊の日」と言えば6月23日。「おばあの願ひ」に沖縄の戦没者を悼む気持ちが込められている。(潔)
父の忌の庭を離れぬ黒揚羽 岡崎由美子
洋館の絵画のやうな青葡萄 三宅のり子
風鈴の音にひたりたる小半時 岡戸 林風
小半時眠る木椅子や緑さす 山本 潔
駝鳥駆くる園の暑さを蹴散らして 新井 洋子
半玉の揺るるかんざし青葡萄 沢渡 梢
修道女のごとく咲きたる海芋かな 飯塚 とよ
池の藻に緋鯉ぱくつく辺りかな 小杉 邦男
泰山木咲く禅寺の半跏趺坐 新井 紀夫
白南風や靴にペンキの付くデッキ 並木 幸子
「白が良いね」と呟く君や菖蒲園 川原 美春
(清記順)
※次回(8月5日)の兼題は「深」