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艸句会報:東陽(令和5年10月28日)

東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句「しいか」
例句 新米といふよろこびのかすかなり 飯田龍太

印象句
師の墓参いつにするのとかけす鳴く  中川 照子
しとやかに一座の胡弓風の盆     関山 雄一

【一口鑑賞】照子さんの句。「艸」の前身「花暦」の舘岡沙緻師は石川県羽咋市の妙成寺に眠っている。すでに7回忌も過ぎたが、コロナ禍などにより墓参もままならない。「かけす(懸巣鳥)」は秋に人里近くに来て鳴く。「師も会いたがっているだろうな」。そんな思いを折句に詠み込んだ。雄一さんの句も折句。「風の盆」は北陸を代表する祭。富山市八尾地区で9月初め、編み笠を目深に被った男女が三味線や胡弓の哀感に満ちた調べにのって踊る。この句は「一座の胡弓」が巧み。作者は句会3回目。(潔)

失恋はいつもの事よ返り花      向田 紀子
  幸田弘子朗読会
「十三夜」「一葉日記」語る秋    堤 やすこ
谷川の石に躓く落葉かな       斎田 文子
優駿の新藁の香の牧舎かな      新井 紀夫

  宇和島南高同窓会
爽やかや「おっとろっしゃ」と子規の後裔(すえ) 松本ゆうき
            ※おっとろっしゃ=びっくりしたという意味の方言
鹿の声一途なる夜の甲斐の宿     岡崎由美子
ただいまと金木犀の香を連れて    関山 雄一
太極拳色なき風を手繰り寄せ     飯田 誠子
父母参加してもまばらな運動会    中川 照子
湖は水の器や月耿耿         新井 洋子
しばらくと言ひて墓前や柿紅葉    山本  潔
柿を取る竿ののけぞる日和かな    安住 正子

(清記順)
※次回(11月25日)の兼題は折句「ささち」
 例句 山茶花は咲く花よりも散つてゐる 細見綾子
※句会場は亀有のギャラリー「バルコ」

艸句会報:すみだ(令和5年10月25日)

すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「横」

印象句
寺町の長屋横丁菊日和        長澤 充子
柿・林檎初物をまづ仏前に      根本恵美子

【一口鑑賞】充子さんの句。兼題「横」で即座に浮かんでくるのが「横丁」。表通りから横に入った路地に、ところ狭しと赤提灯の店や雑貨屋などが並んでいるのを見つけると、何だか嬉しくなる。この句の「寺町の長屋横丁」は昭和の匂いがする。「菊日和」には横丁巡りをしてみたい。恵美子さんの句。日頃からご先祖様を大事にしているのだろう。「柿」も「林檎」も秋の果物として食卓に欠かせない。俳句を始めたばかりの作者。秋果の「初物をまづ仏前に」供えた心持ちを素直に詠んだ。(潔)

栗おこわ一家三人誕生日       髙橋 郁子
解体の我が家金木犀の風       福岡 弘子
横臥して内緒話や草の花       大浦 弘子
大南瓜芝にごろんとハロウィーン   貝塚 光子
独り居の長湯に浸かる秋の暮     江澤 晶子
たて横に縮む歳月木の葉髪      内藤和香子
亡き母の想ひ出深き秋袷       根本恵美子
外つ国の少女の通ふ夜学かな     松本ゆうき
ありありと多摩の横山秋澄めり    岡戸 林風
木道の軋む音して草紅葉       長澤 充子
横綴ぢの絵本めくりて秋惜しむ    山本  潔

(清記順)
※次回(11月22日)の兼題「体」

艸句会報:かつしか(令和5年10月22日)

かつしか句会(亀有学び交流館)
兼題「文化の日」

印象句
コスプレの少女神社に文化の日    新井 洋子
秋日差す浜に伏せたる盥舟      五十嵐愛子

【一口鑑賞】洋子さんの句。「コスプレ」は「コスチュームプレー」の略語で、漫画やアニメ、ゲームなどのキャラクターに変装して楽しむこと。日本の若者文化として定着している。俳句でカタカナ語を使うのは難しいが、この句は「文化の日」との取り合わせに新しみが感じられる。愛子さんの句。盥(たらい)舟といえば佐渡の名物。女性の船頭が巧みに操る様子が目に浮かぶが、掲句では秋日の差す浜に伏せて置かれており、人の姿はない。それもまた旅情を誘う。旅好きの作者ならではの一句。(潔)

強情な蔓を引き抜き秋暑し      千葉 静江
文化の日「芝浜」を聴く異邦人    新井 紀夫
夫婦とも教師でありし萩の主     小野寺 翠

 谷村新司逝く
旅立ちて冬の昴となり給ふ      新井 洋子
幼子の足の一歩や文化の日      西村 文華
旅籠屋の土間のでこぼこ秋湿     霜田美智子
よく笑ふ介護職員空高し       伊藤 けい
文化の日商い常に矻矻と       近藤 文子
下町の甘味処や秋たくる       三尾 宣子
文化の日付箋の多き料理本      西川 芳子
名書家の競ふ会場文化の日      五十嵐愛子
乱文といへど達筆文化の日      山本  潔
ガラス越しのミイラ安けし文化の日  佐治 彰子
秋草やマラソンランナー駆け抜けて  高橋美智子
留守番の夫へおでんの作り置き    片岡このみ
秋夕焼川原に犬と老人と       笛木千恵子

(清記順)
※次回(11月26日)の兼題は「小春」

艸句会報:若草(令和5年10月14日)

若草句会(俳句文学館)
兼題「読書」 席題「子」

印象句
そのことに触れず二人の夜長かな   安住 正子
望の月亡夫と出逢つた純喫茶     吉﨑 陽子

【一口鑑賞】正子さんの句。「そのこと」とは何なのか?「二人」は夫婦なのか親子なのか、あるいは恋人同士なのかも明かされてはいない。それでも読者は自分自身の経験を重ねてさまざまな想像をめぐらす。ふとした寂しさや物思いのなか、秋の「夜長」のなかにいる二人の息遣いや表情が映像となって浮かび上がる。陽子さんの句。名月を眺めながら、亡くなられたご主人との思い出が尽きない作者。出会いの場所は「純喫茶」。「純」の一文字が付いただけで響きが違う。昔を懐かしむ気持ちが伝わってくる。(潔)

旧仮名の父の蔵書や十三夜      沢渡  梢
下校子の声のちらばる猫じやらし   安住 正子
秋の夜の子の気に入りの一ページ   新井 洋子
行く秋や針谷栄子の遺句を読み    石田 政江
秋灯下紙の辞書よりスマホかな    松本ゆうき
風変はる那須の山の背草紅葉     霜田美智子
たのもしき孫の子育て聞く良夜    吉﨑 陽子
痩せ秋刀魚大根おろしたつぷりと   市原 久義
積ん読の山の崩るゝ暮の秋      山本  潔
秋深しルーツをたどる旅を子と    新井 紀夫
全集の一書机上に夜長の灯      岡戸 林風
たはむれに踏めば水吐く虚栗     飯田 誠子
子を膝にのせて見る月まん丸し    片岡このみ

(清記順)
※次回(11月11日)の兼題は「手」

艸句会報:船橋(令和5年10月7日)

船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題「有」

印象句
石仏の眠り深きや初紅葉       小杉 邦男
野仏や秋風抜ける暗き径       有賀 昭子

【一口鑑賞】記録的な猛暑、残暑で休んでいたミニ吟行が復活!この日は船橋市内の御瀧不動尊へ。JR船橋駅北口からバスで約30分。参道がいきなり森を抜ける小道になっており、吟行気分が盛り上がる。そこに点在する石仏たちの「眠り」にスポットを当てたのが邦男さんの句。「初紅葉」との取り合わせが人気を集め、最高点を獲得した。昭子さんの句も同じ場所で詠まれた。上五に「野仏や」と置いて、その存在を浮き立たせた上で、秋風の吹き抜ける参道の様子を描写した。(潔)

嫁ぎゆく次女のアルバム稲の秋    三宅のり子
露草や渡るすべなき弁天堂      岡崎由美子
秋風とくぐる寺院の仁王門      沢渡  梢
秋天や野点の席の有平糖       川原 美春
滝不動バス待つ空に赤とんぼ     平野 廸彦
有り無しの風に寄り添ふ秋の蝶    並木 幸子
文化祭に記す一句や有馬筆      岡戸 林風
有りの実の畑の中のケアハウス    新井 紀夫
稲穂風入れてホームの発車ベル    新井 洋子
赤とんぼこれからどちら交差点    飯塚 とよ
仰ぎ見る三重の塔昼の月       有賀 昭子
散髪の半分眠く秋の暮        小杉 邦男
有耶無耶なバスの時刻や鰯雲     山本  潔

(清記順)
※次回(12月2日)の兼題「歌(唄、詩、詠…)」

艸句会報:連雀(令和5年10月4日)

連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「色」

印象句
竜淵に潜むはいづこ五色沼      向田 紀子
台風一過夕日に染まる山の峰     横山 靖子

【一口鑑賞】紀子さんの句。「竜淵に潜む」は中国最古の漢字字典『説文(せつもん)解字』に「竜は春分にして天に昇り、秋分にして淵に潜む」とあるところから生まれた想像上の季語。兼題「色」から裏磐梯の五色沼を思い浮かべた作者。青や緑、赤などの湖沼が点在している神秘的な場所にはいかにも竜が潜んでいそうだ。探しに行きたくなる楽しい一句。靖子さんの句。「台風」が過ぎ去った後の空はからっと晴れた好天が期待できる。そんな一日を堪能したのだろう。真っ赤に染まった山の峰が読み手の目にも浮かんでくる。(潔)

リハビリの力む指先鬼胡桃      飯田 誠子
秋落暉デイサービスの帰り道     春川 園子
歳時記の師の句に出合ふ虫の夜    横山 靖子
絵心のあらば夕べの酔芙蓉      中島 節子
それぞれの秋思抱へて老いるかな   松本ゆうき
歌ふ句座あり緋連雀黄連雀      山本  潔
鵯や塗り替へ終へし大鳥居      向田 紀子
身に馴染む母の木綿や小鳥来る    矢野くにこ
トキ色の空を飛ぶ朱鷺トキの色    束田 央枝

(清記順)
※次回(11月1日)の兼題は「寒桜」
プロフィール

艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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