かつしか句会(亀有地区センター)
兼題「小春」
印象句
恙なく暮らす独りの冬支度 千葉 静江
スニーカー履いて小春の散歩かな 西川 芳子
【一口鑑賞】静江さんの句。昨年来、ご主人を亡くされたり、ご自身の病気で入院したりと、平静ではいられない日々が続いた作者。徐々に独り暮らしにも慣れてきたのだろう。少しずつ日常生活を取り戻したことへの安堵感が表れている。「冬支度」は晩秋の季語。「独りの」の一言にそこはかとない寂しさも漂う。芳子さんは腰椎骨折などによる入院生活からようやく復帰した。スニーカーを履いて歩けるようになった喜びを噛み締めているのだろう。小春日和の散歩を楽しむ心持ちがうかがえる。(潔)
山茶花や隠れん坊の影走る 近藤 文子
ジオラマに見惚れる親子小六月 西村 文華
筑波嶺の双耳朗らに小六月 佐治 彰子
小春日の小籠包と紹興酒 山本 潔
ヘルパーへ感謝の声や菊祭 笛木千恵子
ドロップ缶ふればカラカラ冬に入る 新井 洋子
友送る友と見上ぐる冬銀河 高橋美智子
初しぐれ旅の余韻の荷をおろす 千葉 静江
齢かさね倖せかさね秋たくる 三尾 宣子
再読のデュマの長編夜長かな 新井 紀夫
仄暗き道の華やぐ菊花展 五十嵐愛子
ファックスのインク薄れて冬に入る 西川 芳子
晩節の句作牛歩や冬桜 伊藤 けい
手作りの句集の届く小春かな 片岡このみ
タクシーの床にはり付く落葉かな 霜田美智子
(清記順)
※次回(12月17日)の兼題「日記買ふ」
東陽句会(ギャラリー バルコ)
兼題 折句「ささち」 例句 山茶花は咲く花よりも散つてゐる 細見綾子
印象句
煮凝りや老いても知らぬこと多く 堤 やすこ
冴ゆる月冴えぬ世相の地を照らし 関山 雄一
【一口鑑賞】やすこさんの句。インターネットが商業化された1990年代後半以降、IT(情報技術)革命によって経済・社会の環境が劇的に変化した。現代人は情報洪水のなかにいる。「老いても知らぬこと」は日々増大する一方だ。AI(人工知能)も身近になりつつある。そんな社会を客観的に見ている作者。「煮凝り」の透けた感じが句の内容に程よくマッチしている。雄一さんの句。「冴える月」「冴えぬ世相」の言葉の対比が面白い。凶悪犯罪の増加や内閣支持率低下など、目を覆いたくなる社会の現状に警鐘を鳴らす折句に仕上がった。(潔)
夕映への濠の静けさ浮寝鳥 飯田 誠子
ぬくもりや時計止めたき冬の朝 斎田 文子
齢得てよりの哀感冬すみれ 岡戸 林風
冴ゆる夜や差し出がましき知恵絞る 新井 紀夫
鉛筆の尖れば光る憂国忌 山本 潔
さめざめと三文役者近松忌 岡崎由美子
さつま汁ささつと煮込む乳やる娘 松本ゆうき
山茶花や坂の途中の駐在所 沢渡 梢
ちやんちやんこ着ればふるさと言葉かな 安住 正子
ハンサムなこゑのをんどり草の花 新井 洋子
傘寿より先は金色ちやんちやんこ 堤 やすこ
里山に百舌のまね鳴き谷渡り 関山 雄一
(清記順)
※次回(12月23日)は折句「かてか」
例句 寒昴天のいちばん上の座に 山口誓子
すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題「体」
印象句
冬ざれや菌体の棲む醤油蔵 岡戸 林風
文語体いまだに慣れず一葉忌 松本ゆうき
【一口鑑賞】林風さんの句。兼題から発想した「菌体」に妙な説得力がある。醤油造りには麹菌や乳酸菌、酵母菌といった微生物の存在が欠かせない。そんな菌体が棲んでいるのは伝統的な製法を守っている蔵元だろう。冬の寒い時期に仕込みが行われ、夏の暑さで発酵が進む。菌体たちの呟きが聞こえてきそうな一句。ゆうきさんの句も題詠で、この日の最高点を獲得した。「文語体」に苦労している気持ちを素直に言ったところが共感を呼んだ。一葉忌(11月23日)との取り合わせも時宜にかなっている。(潔)
ガードレールに大根を干す八百屋かな 福岡 弘子
着ぶくれて一人に狭き改札機 内藤和香子
古都の秋和服着こなす異邦人 根本恵美子
着ぶくれて八十路の五体甘やかす 岡崎由美子
木枯に行く手阻まれ踏ん張る子 長澤 充子
九体寺の浄土の庭や散紅葉 髙橋 郁子
遠くより風の口笛野路の秋 大浦 弘子
昆布締めの魚の香りや温め酒 貝塚 光子
折れさうで折れないこころ一茶の忌 山本 潔
枯野ゆく男体山を仰ぎつつ 岡戸 林風
身ひとつで生きて勤労感謝の日 松本ゆうき
(清記順)
※次回(12月20日)の兼題は「風」
若草句会(俳句文学館)
兼題「手」 席題「巣」
印象句
起き抜けの身ぶるひ一つ冬来る 片岡このみ
女手の打つ釘曲る暮の秋 安住 正子
【一口鑑賞】東京では今月7日に気温が27.5度に達し、11月としての最高気温の記録を100年ぶりに更新した。翌8日の立冬を過ぎると、さすがに季節が進み始めた。このみさんの句は、冬の到来をいち早く「身ぶるい一つ」で感じ取った。措辞に無駄がなく、季語が自然に読み手のなかにも入ってくる。正子さんの句。家事をこまめにこなしている作者だが、難しい場所に打った釘が曲がってしまったのだろうか。日常のなかの些細な出来事を、兼題「手」で巧みに詠み込んだ。「暮の秋」にそこはかとない寂しさが漂う。(潔)
いつしかに手櫛がくせに冬に入る 岡戸 林風
亥の子突く村の子どもに古巣あり 松本ゆうき
渋柿の干さるる軒の夕日影 石田 政江
手のとどく程の幸せ冬菫 沢渡 梢
年の瀬の巣鴨とげぬき地蔵かな 片岡このみ
魂眠る遥か御巣鷹山眠る 霜田美智子
晩鐘の余韻の届く仏手柑 新井 洋子
さはやかや齢はげます薩摩琵琶 吉﨑 陽子
小春日や手遊びの子の手と手と手 新井 紀夫
花八ツ手見栄も気負ひもなく生きて 安住 正子
山の色薄れ越後の冬支度 飯田 誠子
迎へバス待つ鈴生りの柿の下 市原 久義
宴席に野菊を飾るやさしき手 山本 潔
(清記順)
※次回(12月9日)の兼題は「石」
連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「冬桜」
印象句
さようならすすきに消ゆる無人駅 矢野くにこ
古里村は母の故郷冬桜 坪井 信子
【一口鑑賞】くにこさんの句。この秋、故郷の九州・阿蘇へ帰った際に詠んだそうだ。無人駅とその周りに群生する「すすき」を見ているうちに、駅が芒に包まれ消えてゆく映像が浮かび上がったという。その時に口を突いて出てきた言葉を一句にした。90歳を過ぎてなお元気な作者。伸びやかに俳句づくりを楽しんでおられる。信子さんの句。古里(こり)村はかつて東京西部の西多摩郡にあり、1955年に1町2村の合併で奥多摩町となった。「冬桜」を見るたびにお母様の実家を思い出すそうだ。心の中にある風景なのだろう。(潔)
踏切の狗尾草は切られたり 松本ゆうき
行く秋や誰とも会はず渚まで 中島 節子
暮れてなほ暮れぬ谷音寒桜 坪井 信子
晩秋のポップコーンの匂ふ闇 山本 潔
無為の我娘には勤労感謝の日 春川 園子
喧騒をよそに離宮の冬桜 飯田 誠子
庭隅の日の逃げやすく石蕗の花 束田 央枝
上州の風を宥めて冬桜 向田 紀子
舞ふことを知らぬいとしさ寒桜 横山 靖子
落武者を偲ぶに余る破蓮 矢野くにこ
(清記順)
※次回(12月6日)はテーマ「使わなくなった物」