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『花暦』平成24年1月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

 二度目の焼灼治療
入院を明日に小春日賜りぬ
肝臓癌の焼灼治療師走来る
手足固定目隠し手術寒燈下
 
 F医師

冬の泉とも聞き馴れし医師の声
襁褓断り冬の夜の尿採器
卓に冨有柿妹に諫めらる
着ぶくれて地下の病廊車椅子
 
 Y医師長女誕生
降誕祭へ向かひ産声「あかりちゃん」
CT検査まずは良好冬日向
聖樹の病廊壁をつたひて足鍛ふ
口ぐちに雨の枯蓮見舞客

 退院
雨上がり楓紅葉に晴れ女
 
 埼玉・本庄三句
窓といふ窓額縁に冬の雲
侘助の白を愛でゐて術後の身
花枇杷や生ある限り机に対す


 〔Web版限定鑑賞〕主宰は2011年(平成23年)11月、2度目となる癌の焼灼手術を受けた。今月の「暦日抄」では、入院前日から退院、その後の静養の日々を、まさに「日記」のように詠む。手足を固定し目隠しをして臨む手術の緊張にも動ぜず、客観写生に徹している。信頼を寄せる主治医の声、病棟で聞いた産声、見舞い客の言葉・・・。全てを大事に思いつつ、丁寧にそれらを俳句に紡いでいく。主宰は晴れ女。退院日は前夜からの雨も上がり、楓紅葉の色がいっそう映えていたのだろう。結びの一句は生き様そのもの。(潔) 

 舘花集・秋冬集・春夏集抄
十月桜盛りの雨でありにけり(長岡幸子)
新しき靴に銀座の初時雨(白崎千恵子)
初々しき百歳の詩や日向ぼこ(浅野照子)
湿原の昏れなんとして草紅葉(池田まさを)
稜線のいよよ濃くなる土瓶蒸(野村えつ子)
木の実降れ夜は水子も来て拾ふ(相澤秋生)
釣竿のぐぐぐと撓み河口秋(新井洋子)
朝市に赤際立たせ唐辛子(中島節子)
みちのくの人の直情翁の忌(高久智恵江)
芋水車三歩で渡る板の橋(田村君江)
犀星居の二股ソケット秋燈(斎田文子)
住み慣れしこの町が好き金木犀(中村京子)
菊人形菊の命をもらひゐて(針谷栄子)
嫂よりの藷ざつくりと鍬の傷(安住正子)

 印象句から
花柄の軽井沢彫り秋燈(山本 潔)
秋深む罹災跡地に雲垂れて(吉田精一)
地回りの芸人呼んで秋祭り(田 澄夫)
秋の水きのふとちがふ雲映し(野中和子)
喜寿あとの月日の迅し雁渡る(吉崎陽子)
初しぐれ今年華やぐこともなく(畑中一成)
理髪屋も三代となり冬隣(川本キヨ)

【第18回俳人協会俳句大賞入選作品】 
 鈴木貞雄氏選
父の日や父想ふたび母のゐて(堤 靖子)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。



会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【24年1月の活動予定】
 6日(金)花暦吟行会(武蔵野七福神)
10日(火)さつき句会(白髭)午前9時
      花暦幸の会(すみだ産業会館)午後1時
11日(水)連雀句会(三鷹)
13日(金)板橋句会(中板橋)
14日(土)若草句会(俳句文学館)
16日(月)花暦例会(俳句文学館)
21日(土)木場句会(江東区産業会館)
25日(水)すみだ句会(すみだ産業会館)
27日(金)天城句会(俳句文学館)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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