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『花暦』平成24年11月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

月毎のはらからの忌や鵙猛る
秋冷の川面波立つ妹の忌
天上も秋か草木に風荒き
急に秋中途半端な老の服

  -久しぶりの銀座
重ね来し齢愛しや銀座秋
遅れ歩くことにも馴れし秋の風
句座果てし宵の雨なる土瓶蒸し

  袋まはし八句
ひとりとは冬めく心旅ごころ
浅漬や北国好み婆好み
穭田にとどく海風真砂女亡し
初霜をしつかと踏みて病み抜かむ
天満宮の櫨の紅葉として濃かり
山風や蒟蒻掘りも見当らず
残菊のもうかまはれぬ倒れやう
くくられてよりの月日や残る菊


 〔Web版限定鑑賞〕「即興」で佳い俳句を詠みたい!とは誰しも思うことだろう。そのための鍛錬として主宰は「袋回し」と呼ばれる句会を開くことがある。各自がその場で題(季語)を決めて封筒の表に書く。皆で封筒を回しながら題を見て即興で句を作り、短冊に書いて入れていく…。今月の暦日抄には、そうして詠んだ「袋まはし八句」が並んでいる。「ひとりとは冬めく心旅ごころ」「初霜をしつかと踏みて病み抜かむ」などはいわば心象風景。常に自己を見つめていれば、どんな題でも俳句は作れると教えてくれる。「天満宮の櫨の紅葉として濃かり」はかつて旅した場所を思い出しての即吟。まるで今、目の前にある景を詠んだような句だ。写生がしっかりできているからこそ、どんなに時間が過ぎても、佳句は口をついて出てくるのだという。「残菊のもうかまはれぬ倒れやう」「くくられてよりの月日や残る菊」などは写生と心象が響き合う。「残菊」は時の移ろいを感じさせる季語。主宰にとっては、袋回しも御茶の子さいさいらしい。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
鮎落ちて川は真底暮れにけり(加藤弥子)
裸電球つきし市場の青蜜柑(白崎千恵子)
爽涼や星には王子月に姫(浅野照子)
山家には山家の湿り地虫鳴く(池田まさを)
霊山には雨の荒降る夏の果(野村えつ子)
緋目高に餌をやる夫の背中かな(岡崎由美子)
蝸牛の文字硬さうな重さうな(坪井信子)
山頂に天狗の社野分雲(田村君枝)
縁日の最後の店の水中花(河田千代)
束ね髪に残るゴムあと白露かな(針谷栄子)
アーケードに浜砂たまり夏の果(森永則子)
ジーンズの油汚れや溽暑なる(大野ひろし)
知命われ水の上なる草の絮(山本潔)
菊の朝病室の壁白すぎて(吉田幹男)

印象句から
秋暑く時計台中薄暗き(小西共仔)
日照雨過ぎ青き蜜柑の色濃かり(土屋天心)
美しく老いる話や星月夜(吉崎陽子)
老いてなほ方向音痴鰯雲(福岡弘子)
稲の花朝日差し入る塞の神(松川和子)
治療院の扉重たき暑き午後(秋山みね)
萩の道木陰に白き無言館(鳰川宇多子)
岬はや秋冷いたる旅路かな(小林聖子)
風少し秋めく夕べ深呼吸(山室民子)
朝の霧旅へ行く子を隠しけり(長谷川とみ)


■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【24年11月の活動予定】
 1日(木)一木会(深川・森下界隈)
 6日(火)さつき句会(白髭)
 9日(金)板橋句会(中板橋)
10日(土)若草句会(俳句文学館)
12日(月)花暦バザーおよび短冊展
13日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
14日(水)連雀句会(三鷹)
17日(土)花暦吟行会(東京駅丸の内駅舎)
19日(月)花暦例会(俳句文学館)
22日(木)葵の会(事務所)
23日(金)天城句会(俳句文学館)
24日(土)木場句会(江東区産業会館)
28日(水)すみだ句会(すみだ産業会館)


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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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