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『花暦』平成25年6月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

更けし夜の肺衰へし春の咳
水辺りに病む身忘ぜし著莪明り
咎のごと女傘打つ春驟雨
アネモネや人愛さねば愛されず
船に灯を飾りし川面春の果
惜春や背中合はせにペン使ひ
牡丹に一歩近づく恙の身
髪染めることなく老いて富貴草
牡丹百花夜は星空を恃みとす
夏芳し雑木水辺に日の射して
駅までを死の話して葉の桜
老いるとは堪ふることか松の芯
数へ飲む三度の薬風は夏
生れ月の風を涼しと水仕して
生れ月の新樹青樹に包まるる
 

 〔Web版限定鑑賞〕春から夏へ。俳句をやっていると、季節の移り変わりを感じるのが何ともうれしい。主宰の師である岸風三楼は「俳句は一人称の詩。句の背後には必ず自分がいる」と常におっしゃっていたそうだ。俳句の主語は「私」であり、「私」の目を通して季節に合った詩を生み出せるかどうかにかかっている。「アネモネや人愛さねば愛されず」。句会に出された時、上五は「惜春や」だった。推敲を経て「アネモネ」という艶やかな季語を持ってきたことでがらりと印象が変わった。明るく言い切ったところに共鳴する。「生れ月の風を涼しと水仕して」「生れ月の新樹青樹に包まるる」。主宰は5月生まれ。水に触りながら、木々の緑を眺めながら、風薫る季節に誕生日が巡ってくることへの喜びを詠んだ。「数へ飲む三度の薬風は夏」。病を抱え薬が手放せない毎日。薬の種類を一つ一つ確認しながら飲もうとしていると、ふと夏の風を感じたという句。日常生活の1シーンを詠んで、言葉遣いに無駄がない。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
水底を刃光りに上り鮎(野村えつ子)
弁天窟へ頭を低くして春灯(春川園子)
ふらここの揺れて誰を待つ誰の去りし(岡崎由美子)
つちふるや石の扉の社神(坪井信子)
筒切りの鯉の甘露煮雪解村(高久智恵江)
音もなく残花の雨となりにけり(矢野くにこ)
影一瞬地よりはがして鶴引けり(岡戸良一)
深山来てこんな処に残り鴨(長谷川きよ子)
春寒し子と乗る夜の観覧車(馬場直子)
木の橋を渡りて十三詣かな(中村京子)
春雷を寂しむ湯宿早寝して(森永則子)
肩揺すりリュックを席に風光る(大野ひろし)
一山に一樹がよろし山ざくら(長野紀子)
野火走る遠くの風も巻き込んで(長野克俊)

印象句から
里帰りの車に残る春の泥(福岡弘子)
一品は青饅と決め酒の膳(鈴木正子)
葉桜や母の爪切る面会日(梅林勝江)
夜桜にぼんぼり灯り川面美し(梅津雪江)
堅香子の花に野風のよく通る(土屋天心)
夜桜の破れ提灯雨に濡れ(小西共仔)
蜂の巣や玄関口に酒の蔵(山崎正子)
舟着場花がら敷きて賑はひぬ(白木正子)
参道に提灯点り花祭(鳰川宇多子)
青嵐の坂越えてゆく車椅子(小林聖子)
客船の帰港早める春疾風(山室民子)
舞ふ巫女の袖ひるがへす春あらし(長谷川とみ)
ポットの湯蓋を忘れて花の昼(桑原さか枝)
かたくりの花の六弁反りに反り(吉田スミ子)
春光や希望の朝の鳥の声(石田政江)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【25年6月の活動予定】
 3日(月)花暦吟行会(旧芝離宮恩賜庭園界隈)
 4日(火)さつき句会(白髭)
 8日(土)若草句会(俳句文学館)
10日(月)舘花会(事務所)
11日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
12日(水)連雀句会(三鷹)
14日(金)板橋句会(中板橋)
17日(月)花暦例会(俳句文学館)
20日(木)秋冬会(事務所)
26日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
28日(金)天城句会(俳句文学館)
29日(土)木場句会(江東区産業会館)

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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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