『花暦』ダイジェスト・平成25年8月号
暦日抄 舘岡沙緻
茅の輪くぐる病む身一歩に力込め
天神裏の湯屋の煙突夏祓
長病めば緑雨は町をけぶらしぬ
八十路病む山あぢさゐに風軽く
猿江裏町埋立運河夏落葉
朝採りの小粒枇杷の実句座机
折り畳む卓袱台廃れ冷し汁
席題二句
痛飲をせし頃もあり一夜酒
四の日詣昭和生まれの一夜酒
咲くよりも散るを急げる凌霄花
句作りの日々の暮しや星祭
星今宵ひとり暮しの文机
これよりの日々よ命よ青葡萄
添い遂げぬは罪かポピーの束活けに
梅雨明けの近き木の根の砂まみれ
〔Web版限定鑑賞〕対象を凝視せよ!物で押さえよ!とは俳句の極意としてよく言われることだ。いずれも分かったような気分にさせられるが、これがなかなか難しい。「梅雨明けの近き木の根の砂まみれ」。梅雨の末期には豪雨が降る。よく見ると、樹木の根本には雨が跳ねた砂がたっぷり。まさに凝視から生まれた一句。「朝採りの小粒枇杷の実句座机」は、ある日の句会での即吟。句友がもいできた枇杷の実が机に置いてあり、それが席題となった。枇杷を凝視しつつ、下五の「句座机」で抑制が働いている。また別の句会では「甘酒」が席題に。江戸時代に夏バテ対策で飲まれたことから、今も夏の季語。一晩で醗酵して甘みを帯びるため「一夜(ひとよ)酒」ともいう。「痛飲をせし頃もあり一夜酒」「四の日詣昭和生まれの一夜酒」。どちらも記憶を凝視して詠んだ句。「これよりの日々よ命よ青葡萄」では、余生に思いをめぐらせ、自らを奮い立たせている。長寿を全うし老境俳句を切り開いた風生の師系に通じる作品。「青葡萄」との取り合わせが絶妙!(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
流木に釘抜きし穴太宰の忌(野村えつ子)
青蔦や戦前よりの洋食屋(岡崎由美子)
職退きてよりの夫の更衣(中島節子)
短夜や明くるをまたず船の音(堤 靖子)
銀製の宮家の調度涼しかり(向田紀子)
海光を弾く帆船花ユッカ(坪井信子)
歌麿の吊目女の涼しさよ(高久智恵江)
滴りの力あつめし橅の山(矢野くにこ)
飯場にも郵便受や水引草(斎田文子)
火葬炉の並びし扉走り梅雨(針谷栄子)
母白寿藍の浴衣を対丈に(橘 俳路)
旅果ての空弁当のパセリかな(大野ひろし)
ポンプ井戸の音を遠くに心太(長野紀子)
太宰忌の捩り硝子のガラスペン(山本 潔)
印象句から
雨乞の樟の神木洞となる(福岡弘子)
三世代集ふ法事や半夏生(梅林勝江)
苔の花のつぺらぼうの芭蕉句碑(鈴木正子)
若楓枝重ねあふ水の音(安住正子)
草取りの婆しやがむたび隠れけり(鶴巻雄風)
裏鬼門閉ざせしままに青葉闇(高橋郁子)
亡夫好みの少し炙りし初鰹(小西共仔)
青ぶだう風に揺れゐる鐘の音(土屋天心)
麦藁帽に受けしチップや猿の芸(長谷川きよ子)
実梅落ち社務所の裏の常夜燈(山崎千代子)
■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【25年8月の活動予定】
6日(火)さつき句会(白髭)
14日(水)連雀句会(三鷹)
15日(木)板橋区会(中板橋)
17日(土)木場句会(江東区産業会館)
19日(月)花暦例会(俳句文学館)
23日(金)天城句会(俳句文学館)
27日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
28日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
茅の輪くぐる病む身一歩に力込め
天神裏の湯屋の煙突夏祓
長病めば緑雨は町をけぶらしぬ
八十路病む山あぢさゐに風軽く
猿江裏町埋立運河夏落葉
朝採りの小粒枇杷の実句座机
折り畳む卓袱台廃れ冷し汁
席題二句
痛飲をせし頃もあり一夜酒
四の日詣昭和生まれの一夜酒
咲くよりも散るを急げる凌霄花
句作りの日々の暮しや星祭
星今宵ひとり暮しの文机
これよりの日々よ命よ青葡萄
添い遂げぬは罪かポピーの束活けに
梅雨明けの近き木の根の砂まみれ
〔Web版限定鑑賞〕対象を凝視せよ!物で押さえよ!とは俳句の極意としてよく言われることだ。いずれも分かったような気分にさせられるが、これがなかなか難しい。「梅雨明けの近き木の根の砂まみれ」。梅雨の末期には豪雨が降る。よく見ると、樹木の根本には雨が跳ねた砂がたっぷり。まさに凝視から生まれた一句。「朝採りの小粒枇杷の実句座机」は、ある日の句会での即吟。句友がもいできた枇杷の実が机に置いてあり、それが席題となった。枇杷を凝視しつつ、下五の「句座机」で抑制が働いている。また別の句会では「甘酒」が席題に。江戸時代に夏バテ対策で飲まれたことから、今も夏の季語。一晩で醗酵して甘みを帯びるため「一夜(ひとよ)酒」ともいう。「痛飲をせし頃もあり一夜酒」「四の日詣昭和生まれの一夜酒」。どちらも記憶を凝視して詠んだ句。「これよりの日々よ命よ青葡萄」では、余生に思いをめぐらせ、自らを奮い立たせている。長寿を全うし老境俳句を切り開いた風生の師系に通じる作品。「青葡萄」との取り合わせが絶妙!(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
流木に釘抜きし穴太宰の忌(野村えつ子)
青蔦や戦前よりの洋食屋(岡崎由美子)
職退きてよりの夫の更衣(中島節子)
短夜や明くるをまたず船の音(堤 靖子)
銀製の宮家の調度涼しかり(向田紀子)
海光を弾く帆船花ユッカ(坪井信子)
歌麿の吊目女の涼しさよ(高久智恵江)
滴りの力あつめし橅の山(矢野くにこ)
飯場にも郵便受や水引草(斎田文子)
火葬炉の並びし扉走り梅雨(針谷栄子)
母白寿藍の浴衣を対丈に(橘 俳路)
旅果ての空弁当のパセリかな(大野ひろし)
ポンプ井戸の音を遠くに心太(長野紀子)
太宰忌の捩り硝子のガラスペン(山本 潔)
印象句から
雨乞の樟の神木洞となる(福岡弘子)
三世代集ふ法事や半夏生(梅林勝江)
苔の花のつぺらぼうの芭蕉句碑(鈴木正子)
若楓枝重ねあふ水の音(安住正子)
草取りの婆しやがむたび隠れけり(鶴巻雄風)
裏鬼門閉ざせしままに青葉闇(高橋郁子)
亡夫好みの少し炙りし初鰹(小西共仔)
青ぶだう風に揺れゐる鐘の音(土屋天心)
麦藁帽に受けしチップや猿の芸(長谷川きよ子)
実梅落ち社務所の裏の常夜燈(山崎千代子)
■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【25年8月の活動予定】
6日(火)さつき句会(白髭)
14日(水)連雀句会(三鷹)
15日(木)板橋区会(中板橋)
17日(土)木場句会(江東区産業会館)
19日(月)花暦例会(俳句文学館)
23日(金)天城句会(俳句文学館)
27日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
28日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
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