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「花暦」ダイジェスト平成25年12月号

暦日抄     舘岡沙緻

 奥日光五句
秋瀑にわが心音を消されたる
露けしや一日終へたる指の先
湖畔ホテル釣瓶落しの大玻璃戸
とんぼうを翅摑みして鬚男
手の甲の太き血管そぞろ寒
 席題二句
菊の香を嫌ひな人も仲間うち
古代紫のもつてのほかや雨催
花柊おもひあふことうすれゆく
 浅草七句
あや・眸と食うべしことも粟ぜんざい
上中下段スカイツリーにしぐれかな
来る年の干支はわが干支ポチ袋
仲見世横丁の車夫の溜り場夕しぐれ
電気ブラン三角グラス初時雨
一の酉明日に江戸前隅田川
橋の名を十まで数へ一の酉


 〔Web版限定鑑賞〕俳句は「余白の文学」とも言われる。出来事の説明や報告、理屈などは省略し、感動をシンプルに詠むところから、余情が生まれる。「とんぼうを翅摑みして鬚男」は奥日光での一句。どこの誰がなぜトンボをつかんでいたのか、それがなぜ面白いのかといった説明は一切しないし、そんな字数もない。旅の途中でいい歳をした鬚男(それは私です)がトンボを捕って喜ぶ姿だけを詠んでいる。何だか童心に返って微笑ましい気分になってきませんか…。「菊の香を嫌ひな人も仲間うち」。菊は奈良時代末から平安時代初めごろに中国から渡来した。日本人には思い入れの深い花の一つと言っていい。しかし、その独特の香を主宰は好きではないのだろう。気心の知れた仲間内だから言うけれど!と諧謔味を効かせて淡々と詠んでいる。「一の酉明日に江戸前隅田川」「橋の名を十まで数へ一の酉」はいずれも酉の市を目前に控えた浅草での吟行句。余計な説明や感情などは抜きに「江戸前」や「橋の名」によって浅草を俯瞰している。このころから街は次第に冬らしくなっていく。墨東に暮らし、川に親しんできた主宰ならではの感慨が込められている。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
リビングに十月の日の移り来て(進藤龍子)
朝粥に生をつながむ爽やかに(根本莫生)
こきりこの乾びし響き十六夜(浅野照子)
山国の星は大粒虫の闇(野村えつ子)
詠み継がれ詠み尽くされず曼珠沙華(相澤秋生)
蓮枯れて水の濁りに影もたず(高野愛子)
病得し夫の日暮や衣被(岡崎由美子)
風あれば明日へのおもひ白芙蓉(坪井信子)
高く咲くことの淋しき紫苑かな(長谷川きよ子)
池底はや暗くなりたる秋灯(山﨑千代子)
身に入むや塵となりたる亡父の物(針谷栄子)
釣瓶落しの地蔵通りの露店の灯(田村君枝)
夏果てのマウンドに一人立つてみる(大野ひろし)
シャム猫に新米炊けてゐる匂ひ(山本 潔)

印象句から
太陽の匂ひ残れる刈田かな(市原久義)
新涼や夫と揃ひの布草履(鈴木正子)
昼の虫鳴かせスタジアムは無人(矢野くにこ)
悔やんでも消せぬ一言そぞろ寒(小泉千代)
金木犀空ある限り香りをり(五十嵐由美子)
海岸に干し場しつかと懸大根(工藤綾子)
強風のままに暮れゆく茸汁(松本涼子)
秋蝶のかげ風紋に紛れけり(高橋郁子)
夕刊の届く頃よりしぐれけり(滝田ふみ子)
人力車またも通りし昼の虫(岡野安子)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【25年12月の活動予定】
 3日(火)さつき句会(白髭)
 7日(土)花暦吟行会(両国界隈・小酌)
 9日(月)舘花会(事務所)
10日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
11日(水)連雀句会(三鷹)
12日(木)秋冬会(事務所)
14日(土)若草句会(俳句文学館)
16日(月)花暦例会・天城合同句会(俳句文学館)
19日(木)板橋区会(中板橋)
25日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
28日(土)木場句会(江東区産業会館)

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Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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