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『花暦』ダイジェスト/平成26年1月号

◇◇◇謹賀新年◇◇◇平成26年1月1日◇◇◇
暦日抄     舘岡沙緻

 金沢六句
枯木橋てふ川底の夕紅葉
  五木寛之文学館
冷え冷えと旧銀行の文学館
森八の抹茶冬日を御簾越しに
コンクリート製の昭和ごみ箱冬の町
雪吊りを遠見に旅を病む身かな
冬の野牡丹のんびりと夜へ色を添へ
寒し寒しわが肝癌の不貞寝して
根津権現の紅葉を玻璃に白ベッド
 再度入院
年の瀬や入院支度捗らず
 両国吟行
忘年や旧き駅舎の相撲茶屋
年忘れ相撲甚句の触りなど
ちやんこ鍋の底に残りし鳴門巻
川風も年の別れとなりにけり
 句碑「花」「幸」二文字入り
花あらば幸あらば塔とこしへに
幸あれと父母よりたまふ花ごよみ

〔Web版特別鑑賞〕俳句の写生は対象をよく見るところから始まる。とはいえ、眼前の景をそのまま説明したのでは、とても17音には収まり切らない。うまくスケッチできたと思っても、季語がなかったり、何に感動したのか分からなかったりするのが関の山だろう。「冬の野牡丹のんびりと夜へ色を添へ」は金沢での旅吟。冬牡丹は温室で育てられるのが普通だが、狂い咲きのように野に咲く牡丹を捉えた。上五の字余りと絡み合うような「のんびりと」の措辞が絶妙なリズムを生んでいる。眼前の景を言葉で巧みに再構築した一句。写生の極意がここにある。「雪吊りを遠見に旅を病む身かな」も金沢らしい景。冬の象徴としての雪吊りを遠くに見ている自分に写生の焦点を絞り、「病む身」の心象を重ね合わせた。ところで、主宰にゆかりのある能登の名刹に句碑建立の話が進んでいるという。「花あらば幸あらば塔とこしへに」「幸あれと父母よりたまふ花ごよみ」はその候補作として詠まれた。後世の人々の鑑賞に堪えながら、秀句はやがて名句となる可能性を秘めている。永遠の名句を残すことは俳人にとってのロマンだろう。句碑はその媒体といっても過言ではない。(潔)


舘花集・秋冬集・春夏集抄

火恋し術後の眼いたはりて(加藤弥子)
鬼柚子の胡座かきをる文学館(浅野照子)
マンションの隣は稲荷初詣(大久保白村)
雲長くなりし夕べや山の秋(野村えつ子)
鎌倉の路地まで人や秋日和(春川園子)
ひやひやと堂の畳の滑りがち(向田紀子)
燈下親し口絵・花布・あそび紙(新井洋子)
水落ちて落ちて休めぬ秋の滝(坪井信子)
漬物屋に軒借る北山しぐれかな(橘 俳路)
身に入むや鋼叩きて鉄工所(岡田須賀子)
愛用マフラー夫より長くつき合ひて(松本涼子)
干柿や秩父夜祭山囲ひ(山本 潔)
いつも背に山ある暮し柿を干す(長野克俊)
きつぱりと冬の来てゐる立山剣岳(吉崎陽子)

※花布(はなぎれ)、立山剣岳(たちつるぎ)

花暦集から
山門に銃撃のあと冬紅葉(福岡弘子)
冬近し軒まで届く薪の山(市原久義)
夜食とる牛を売りたることを悔い(鈴木正子)
わが町も買物難儀老の冬(山室民子)
風走り土手一杯の草紅葉(鳰川宇多子)
小春日や光の中のターナー展(山崎正子)
赤まんま童もゐなく枯れにけり(小西共仔)
新蕎麦に疎抜き大根のからみかな(吉田スミ子)
古稀過し感涙で観る天の川(桑原さか枝)
亡き夫と何時か来し道星月夜(長谷川とみ)
昼深し重ね着しつつ文を読む(江澤晶子)
名もゆかし川面飛び交ふ都鳥(武田サカヱ)
立冬と思えぬ今日の日和かな(岡野安子)
冬初め路地の奥にも日が射せり(曽根菊江)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【26年1月の活動予定】
 7日(火)花暦吟行会(市川界隈・葛飾八幡宮)
 8日(水)連雀句会(三鷹)
 9日(木)秋冬会(事務所)
11日(土)若草句会(俳句文学館)
13日(月)舘花会(事務所)
14日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
16日(木)板橋区会(中板橋)
18日(土)木場句会(江東区産業会館)
20日(月)花暦例会(俳句文学館)
22日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
24日(金)天城句会(俳句文学館)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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